十六話目

 ビルがいなくなった後、私はすぐに科学研究部隊に呼び出された。これから私は科学研究部隊で働くことになる。約一日で義足の設計図を描いたというドラジエントの設計図の科学的証明を私に求めると言うのだ。私は『科学研究部隊室』に訪れた。

 私が自己紹介すると大量の拍手に囲まれた。私の次に自己紹介したのは優しそうなでもサイコパスそうな男の人だった。眼鏡をしていて白衣をまとっている。そしてニコニコ笑っている。

「私は科学研究部隊隊長ジェームズ・トラッパーです。よろしくね。」

 するとまた拍手が送られた。するとすぐ設計図を持ってきた。そして実験ルートを私に説明した。

「君ならこれできるよね?できるって聞いてるんだけど。」

「できます。これなら私でも!」




 実験を始めた。すると隣で同じく実験しているジェームズが言った。

「君、戦争初めてでしょ?」

「はい。軍人として戦争は初めてです。」

「私ねー昔はただの一般兵だったから戦争でたけどすごく過酷だった。」

 ジェームズは思い出をゆっくり思い出しながらそう言った。私はジェームズを見ずに実験での変化をメモしながら「それはつまり?」と聞いた。するとさっきまで明るかった声が冷たく低くなった。しかし笑顔は変わらず実験を行っていた。

「なんかねー一日を超えるのもやっとって感じ。視界は火だるまだし、そばで黒い煙と共に地雷で人が飛び上がってちょっと前まで話していた仲間が血だらけで倒れてる。応急処置してりゃ撃たれるし、銃は重いし。なんか皆死ぬ前提でヤケクソになって突っ込んでた。そうする他なかったから。そばで痛い!痛い!!って叫ばれたときは耳を塞ぎたかった。暫く夢に見たね。」

 笑い事じゃないのに「へへへ」と笑っていた。しかしその笑いは楽しい笑いではなく諦めの笑い声だった。目は笑っていない。何かを恨んで試験管をを見つめていた。変化をレポートに書くと私を見て笑った。

「本当になんで戦争するのかわからなくなったよね。少なくとも戦争を楽しんでる総統には呆れたよ。まるで玩具で遊ぶ子供みたいに総統は私達を駒のようにして戦争をしていた。それの意味が私にはさっぱり。」

 目を細めて呟くように言った。

「本当に怖かったなー。真っ黒の空には黒い飛行機と黒い煙、そして爆弾が投下される。叫び声と指揮官の怒鳴り声は地獄を感じさせた。相手が降伏しても、人は死に海は真っ赤。鉄臭かった。顔に血がついているとわかっていたから鏡なんて見たくなかったし、暫くトラウマだった。」

 するとレポートに書いて私を見て笑った。

「ってすごく意味のない話しちゃったね。ごめんね、怖かったでしょ?」

 その優しさの裏腹に後悔と恐怖があったことに私は気づけた。だから笑って返した。

「いえ、話してくださりありがとうございます。なんだか安心しました。」

 すると珍しく私の顔をジェームズは覗き込んだ。

「どうして?」

 だから私もジェームズを見つめて笑った。諦めたように乾いた笑い声を上げた。

「なんか、ここの人みんななんだか強くて戦争に慣れていて、もちろん泣いてい人もいたけれど戦争を恐れていないような気がして怖かったんです。」

 それは本音だった。ビルは泣いていたけどニコライやダニイルは恐れずただ戦争の先をいつだって見つめている。私にはその姿がどうしても理解できない。私がおかしいみたいで悔しかった。

「そんなこともないよ。」

 でもジェームズから返ってきた言葉は思いもしない言葉だった。だから私は目を見開いてしまった。

「え?」

「彼らだって戦争は怖いと思うよ。けれど、彼らは私や君と違って先を見ている。いや、見えている。戦争が終わったあとの世界が。だからこの国は負けないし滅亡しない。それはここの軍人がもつ大きな特徴だよ。私は怖気づいてしまい、戦争には出られないけど君は私より強いから、彼らみたいに先を見えるようにしてなると思うよ。」

 その言葉はやけにはっきり私の脳に刻まれた。そして、胸が熱くなるのを感じた。


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