十五話目
ある時ビルが私に抱きついた。そして何事かと戸惑っていると微かにビルの体が震えていることに気が付いた。泣いていたのだろう。相変わらずの子供っぽさに驚きながらも大きな背中を擦ってあげた。ドラジエントを思い出す。彼もこういう子だったと。ドラジエントは今、軍需機器発明部隊に送られた。
「どうしました?」
「…。」
しかし彼は答えない。私は仕方なくこの重い体を引きずりながら自分の部屋に戻った。
赤い顔。涙で潤んだ瞳。うつむいていた。両手で包むようにマグカップを持つと白い煙に囲まれていた。私はビルの目の前でココアを一口飲んだ。
「何かありました。」
彼はぐすっと鼻をすすりながらポツリポツリと話しだした。
「おれ、が、がいこくはけんがきまった…。」
外国派遣?
「どういうことですか?」
「俺さ、人騙したりするの、得意なんや。」
確かに私も騙された。
「やから、その信頼関係築くために外国派遣で支援して媚び売る訳。それをしろゆうて…。俺、行きたないのに。」
後半ビルの声は高くなってやけに高い声で「うっうっ。」と声を上げて泣き出した。私は焦るばかりでビルの頭を撫でることしか出来なかった。群青色の瞳が涙でいっぱい。軽く拭ってあげたりしたけどビルが泣き止むことはなかった。大きな体が揺れる。そしてもう一度私に抱きついた。
「死んだらどないしよ。アディーレちゃんに会えなくなってまう…。」
それはビルの本音だった。死ぬのが怖い。皆同じはずなのにこの、死ぬこと前提の軍隊と共に生活していると違和感がすごかった。ダニイルだって総統様だってニコライだって、死ぬことを恐れてるはずなのに諦めている。私だって怖かった。こんな楽しい思い出ができて幸せなのに終わっちゃうなんて怖かった。気づいたら溢れてる涙がビルの服に吸われていった。ドクドクとなっているビルの体。その心拍音が生きてると実感させて安心した。
「私も嫌だよ…。」
するとビルは涙声で「ヒヒヒ」と笑った。すずっと鼻をすすって私から離れた。そしていつもの
「気をつけて!またね。」
すると止まったはずの涙が再び溢れ出したビルは笑った。私も泣いた。
「おう。気いつけてくわ!!またな。」
俺は自分の部屋前で泣いているアディーレを見つけた。そしてすぐビルの件だと気づいた。ビルは報告の後すぐにアディーレの部屋に向かっていたから。アディーレの背中を優しく擦ってやった。するとアディーレは顔を上げた。そして驚いた。顔は満遍な笑顔だった。
「どうしたの?ニコライ。」
「…強くなったな。」
アディーレはぐしぐしと涙を拭うと俺に抱きついた。昔はこんなアディーレは小さかっただろうか。そう思いながら震えるアディーレの体を受け止めた。
「本当に強くなったな。昔は転んだだけで泣いていたのに。」
「そんなの…昔の話でしょ?」
ケラケラと笑うアディーレ。俺は頭を撫でてやった。戦争ってこんな気が参るものだったか?俺はアレクサンドルの隣に居すぎたせいで麻痺してるんだろうな。
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