第25話 sideヤノス
街を駆けるヤノス。
突然、魔女が街を襲う騒ぎが起きた時に、ヤノスはたまたまダンジョンの近くにいた。前回こっそりハーマルーと挑戦し、大失敗に終わったダンジョンアタック。彼女は素材もほとんど手にすることが出来なかった。
さらに自慢の顔も無数のダニに噛まれ、ぼろぼろ。最愛のリンドワードに文字どおり、合わせる顔がなかったヤノス。せめてお金だけでも手に入れなければと、ソロでダンジョンアタックに再挑戦しようとしていたのだ。
あと少しでダンジョンという所で魔女が街に現れ、ヤノスはそのまま街の中心にあるダンジョンの一層に避難していた。
ようやく街に結界が戻った事を確認、ダンジョンから飛び出したヤノスは最愛のリンドワードの住まいへ向かって走っていた。
ヤノスの知っているリンドワードは、友人達と事業を立ち上げたばかりの青年だった。
リンドワードは普段、事業用に借りているという事務所に寝泊まりしていると聞かされていたヤノスは、その事務所に向かっていた。
人を幸せにするための仕事をしているんだ。
初めて出会った時、そう語ったリンドワードはヤノスから見て、とてもキラキラとした瞳をしていて、一瞬で恋に落ちてしまった。
周囲に粗野で乱暴な冒険者の男しか居ない環境も相まって、線の細いリンドワードの立ち振舞いがヤノスには新鮮に感じられたのだ。
そんな出会いから始まったせいか、ヤノスはリンドワードがいつも資金面で苦労しているのを知り、出来るだけ資金援助をしてきたのだ。冒険者としての稼ぎのほとんどを注ぎ込んで。
お金を渡すときの、リンドワードの少し困ったようなでもほっとしたような笑顔がヤノスは好きだった。
そんなときに起きた魔女の街への襲撃。果たしてリンドワードは無事なのか。ダンジョンの一層に避難している間も気が気ではなかった。
ダンジョンに避難してきた住人達の中に、リンドワードの姿を必死で探すも見当たらなかったから。
そして街を駆け続けたヤノスの目に、リンドワードの働く事務所の建物が見えてきた。
しかしそこで、ヤノスは足を止める。
建物を取り囲むように人だかりが出来ていた。
「な、何があったの!?」
人だかりの一人に話しかけるヤノス。
応えてくれたのは中年の女性だった。
「さあねぇ。急にラーラ教のシスター様達が何人も現れてね。ほら、あそこよ。それで危険があるかもしれないからと建物から離れるように言われたのよ。これから稼ぎ時の時間だったんだけどねぇ」
そう答えてくれたのは事務所の下に入っている酒場の女将だったのだろう。
その時だった。
ガヤガヤと音がしたかと思うと、建物から黒いヴェールをつけたシスター達が出てくる。
周囲の人だかりのざわめきが強くなる。
「あれはラーラ教の異端審問官?」「え、じゃあ、あの中に大聖女様がいるの?」「なんだ大聖女って」「あんた知らないのかい。大聖女様がこの街を襲った魔女達を一人で全て片付けてくださったんだよ」「私、見たよ。その手に神々しい光を宿してあっという間に魔女を倒してたよ。私と娘を助けてくれてんだ」
ざわざわと言う周囲の声を聞き流していたヤノスは、次の瞬間、息をのむ。
ぐったりとした姿のリンドワードが担がれて運び出されてきたのだ。
「リンドワード!」
叫び声をあげたヤノスが人垣をかき分け、よろけるようにして前に出る。
固まっていた異端審問官のうちの一人がそんなヤノスに気がついたのか彼女に近づいてくる。
「あなたはヤノスさん? 彼とはお知り合いの?」
「そうです! いったいリンドワードに何が?
彼は大丈夫何ですか?!」
「落ち着いて、ヤノスさん。見ての通り、リンドワードさんは急いで教会に運ばねばなりません。ヤノスさんもついてきてもらえますか」
優しげな声で言われ、ヤノスは目の前の異端審問官とリンドワードを交互に見たあと、勢いよくうなずく。そうして、進みだした異端審問官達についていくようにして、ヤノスも教会へと向かった。
異端審問官のシスターがあえて話さなかった事実には、到底思いもよらないヤノス。リンドワードが教会に運ばれるのはてっきり治療してもらえるからなのだとヤノスは誤解させられてしまう。
それどころか、自身が重要参考人の一人として見られているなんて全く気がつくこともない。
小智慧が回るだけ、というヤノスに対するルルノアの評価も仕方ないものであった。
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