第20話 名声と葛藤

 不意に魔女の気配が全くしなくなりました。

 鐘の音が街中でなっています。こんなに鐘の音が響いているのは初めてです。


「……何かしら、この音。それになんで急に静かに?」


 私の中にある、ザラリとした気配。今さらながらに気づいたのですが、それが魔女の存在と居場所をそれとなく私に教えいてくれていたみたいです。

 急に魔女の存在が無くなって、ようやく私はそのことに気が付きました。

 そうと決まればまずはタプリールたちの無事を確認しなくてはいけません。


 私は教会に向かって走り出しました。


 ◇◆


「よかった、タプリールも教会も無事みたいでした。ネロとリーもちゃんと避難していたんですね、本当に良かった」


 私は少し離れた位置から皆の無事を喜び、そのままマザーホートの教会を目指していました。

 本当はこのまま皆に会いに行きたかったのですが、格好が格好です。


 私は自分の来ているシスター服をヴェール越しに見下ろしながらつぶやきます。


「マザー・ホートの教会でさっさと着替えましょう。こんな服で皆に会うのは流石に恥ずかしいですし」


 そうして歩いていると、道行く人からの視線を感じます。そればかりか、こちらに向かって祈りの仕草をする人の姿までいます。そういう方を改めて見ると、私が魔女たちから守った街の人々のようです。


「聖女様っ」「奇跡をありがとうございます――」「異端審問官様、万歳!」「光の盾の聖女様――」


 私に向かってかけられる、そんな声まで聞こえてきます。

 よくよく考えると、私は気配の示すままに街中を駆け回って、目につく魔女を片っ端から倒していました。


 ――ああ、もしかして、私、ものすごく目立っていた? え、ばれてませんよね。ヴェールしていたから大丈夫ですよね……


 歓声の中進み、ようやく見えてきた、マザー・ホートの教会。

 私はようやく着替えられると安堵の息を吐きます。

 その時、目の前の教会のドアがあき、一人のシスターが出てきます。


 彼女は確かマザー・ホートのもとにいたシスターです。秘蹟の際には聖杯を運んでいたシスターの一人です。


「リシュさん! 良かった。マザー・ホートの言ったとおりです。こちらに現れるかもと聞いていたんです。さあ、早くマザー・ホートとマザー・カサンドラのもとに。すぐにご案内します」

「え、シスター、私、着替えたいのですが」

「何をおっしゃるのですか! マザー・ホートはお優しいですが、マザー・カサンドラをお待たせするなんて恐ろしい……」


 ぶるっと身震いするシスター。

 しかし、私は着替えたいです。幸い、魔女の存在も探知されません。今度こそ、着替えるぞと思ったときでした。

 目の前のシスターが応援を呼んでいます。


 わらわらと現れるシスターたち。みな、マザー・ホートの下で働かれている方たちのようでした。





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