第18話 空を舞うもの

 私はタプリールの事を気にしつつも、目の前に次々に現れる魔女への対処に追われてしまっていました。


 時たまタプリールの教会の近くまで戻り、タプリールと教会が無事なことを確認していたのですが、すぐに新しい魔女の出現を気付かされてしまうのです。私の中に感じる気配が指し示すのです。あちらに魔女がいますよ、と。

 そして、そうして導かれた先にはたいてい、逃げ遅れた人々がおりました。


 タプリールのことは気にはしつつも、助けられる命を見捨てることもできず、私は気配の導くままに街中を駆け巡りました。


 ――このヴェールをシスター・マハエラから頂いていて、本当に良かったです。こんな似合っていない格好をしているのに、さらに顔まで見られるのは恥ずかしくて仕方ありません。運良く、タプリール以外に顔見知りに遭遇していませんけれど。


 そんなことを考えながら魔女を光の盾で切り裂いていたのがいけなかったのでしょうか。まさに恐れていた事態に遭遇してしまいます。


 顔見知りが、いたのです。

 私が立ちふさがる魔女を倒したちょうどその時、「万雷の乙女」のルルノアとタタミーの二人が空を飛んでいました。

 正確には魔女の攻撃で吹き飛ばされたのでしょう。空を舞う二人の身に魔女の呪いがうつっているのが見えました。


 私の頭上を超え、ルルノアが飛んでいく先には、路上にとめられたままの果物の屋台のワゴン。

 ワゴンにはドリアソと呼ばれる独特の匂いが特徴の果物が山積みになっておりました。


 そこへ、一直線に頭から突っ込んだルルノア。地面に叩きつけられていた可能性を考えれば、かなり運の良い落ちた先といえます。ワゴンに山積みのドリアソが砕けることで、クッションになったようです。

 ワゴンに逆さまに突き刺さり、両足がぴくぴくと動いていることから生きているのがわかります。


 あたりは砕けたドリアソから漂う独特の香りが充満しています。

 ワゴンの中は相当の悪臭になっていそうでした。


 ルルノアに遅れて吹き飛ばされたタタミーは近くの木の枝に引っかかっておりました。

 タタミーは意識があるようです。枝に引っかかった服を外そうと空中で悪戦苦闘しています。


 私は気が進まなかったのですが、流石に放おっておくわけにもいかず、二人の元へ近づきます。

 そこへ現れた大型の魔女

 ルルノアとタタミーを追ってきたように見える大型の魔女ですが、私は既に何十人と倒してきたサイズの魔女です。さくっと光の盾でなで斬りにします。


 魔女が他にいないことを確認すると、ルルノアに近づきます。悪臭がどんどんと強まってきます。

 わたしは一瞬このまま助けるべきか悩みますが、こんな悪臭の中に顔を突っ込んで逆さになって足だけばたつかせているルルノアが今、どんな顔をしているのか、好奇心が抑えきれませんでした。


 飛び出た両足の足首を持つと、一気に、ドリアソの山からルルノアを引き抜きました。

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