副業聖女は勝ち組でした~私を体力だけのノロマ女戦士とバカにしてきたパーティーメンバー、仕事が無くなり困窮。聖女の副収入はマジ神です。

御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売

第1話 不公平な報酬の配分

「リシュ、今回のダンジョンアタックの分け前です」


 パーティーの女性魔術師兼、リーダーであるルルノアから渡されたのは数枚の銀貨と銅貨が少々。節約すれば、次のダンジョンアタックまでぎりぎり暮らせるぐらいの額。


「ルルノア、盾が凹んでしまったの。修理するのにお金が──」


 パーティーの盾役である私は、愛用の丸盾をルルノアに見せます。丸盾の真ん中がぺっこりと凹んでいます。勝手に飛び出したパーティーの仲間をとっさに守って、オーガの一撃を受け止めた際に凹んでしまったのです。


「それはリシュ、上手く受け流せなかったあなたの自己責任でしょう。自分のお金で修理してください」


 ルルノアにきっぱりと断られてしまいます。私は無駄だとはわかりつつも、ダメもとでいいつのります。


「勝手に飛び出したハーマルーを守るためだったの。ぎりぎりだったから受け止める事しか出来なくて。だから──」


 私は双剣士のハーマルーのミスをカバーしたのだと伝えようとしますが、途中でさえぎられてしまいます。


「いいですか、リシュ。私たちのパーティー『万雷の乙女』のルールは何度も説明したでしょう。モンスターの討伐数に応じて報酬を分配しているの。皆、それで納得してやっているのよ。貴女だけ特別扱いは出来ないのよ。私のこの杖だって消耗品よ。大魔法を数回も使えば折れてしまう。でも、その買い換えの費用は自分の報酬からやりくりしているわ」


 そういって手にした杖でとんっ、と床を突くルルノア。

 それはさっさと退出しろと思っているときのルルノアの癖。表情もどこか険しい。


 ──確かに皆、自分の装備品は自分の報酬で購入している。でも、そもそも、その報酬の分け方が討伐数に依るのが不公平よ。討伐数で決めているから攻撃役のルルノアやハーマルーばかり報酬が多い。


 私の不満が顔に出てしまったのでしょう。ルルノアの険しかった顔がさらに険悪になります。


 ──これ以上言うとパーティーを辞めさせられてしまう、かな。体力しか取り柄がない私じゃあ、一人でダンジョンアタックなんてとても無理なのよね。他に加入させてくれるパーティーのあてもないし。


 仕方なく私はルルノアに退出を告げ、部屋を出ます。

 そのまま、とばとぼと鍛冶屋へと向かいます。


「はあ、どうしよう。また貯金を切り崩すしかないかな」


 丸盾を修理するにしても、今回の報酬ではお金が足りないでしょう。次のダンジョンアタックは7日後。それまでの生活費も必要です。


 ぐー。


 お腹が鳴ります。そういえばダンジョンから出て、まだ何も食べていません。

 しかし、このあと盾の修理にお金を使うことを考えると節約しなければいけません。

 一日ぐらいであれば、食べずとも活動に支障はありませんが、それでもため息はこぼれます。

 ダンジョンアタック中は必然的に質素な冷たい食事なので、外に出て温かい食事をとるのを楽しみにしていたのです。


 その時でした。美味しそうな香りがします。

 匂いにつられて見ると、どうやら炊き出しをしているようです。


 思わずふらふらと近づいてしまいます。

 炊き出しは、ラーラ教の教会によるもののようでした。


 ラーラ教は、緩やかな教義で人々に寄り添うように活動をしている事や、治癒の奇跡を人々に施す事もあり、この大陸ではポピュラーな存在です。


 ──お腹は空いたし、節約しなきゃだけど。さすがに、ここに並ぶのは申し訳無い。


 炊き出しに並んでいるのは、孤児や、困窮してガリガリに痩せているような方がほとんどです。

 そういった人たちへ向けて、温かいスープを配っているシスターが二人。


 私が眺めていたせいでしょうか、そのうちの一人のシスターに声をかけられてしまいます。


「そこのお方、何かお困りですか?」


 私を見上げるようにして話しかけてきたシスター。私とそう変わらない年に見える彼女は、女性の私から見ても美しく、その笑みは聖母のような優しさをたたえていました。


「いや、何でも……」


 ぐー。

 私の意思とは裏腹に美味しそうな香りに刺激されたお腹の音が、周囲に響きます。


「まあ。よろしければお手伝いいただけませんか? 当教会で行っております炊き出しは、ご近所の方にもお手伝いを頂いておりまして、終わったあとに皆でお食事をしています。良ければそちらにもご参加して頂けると嬉しいです」


「それは! ──はい。お誘い、ありがとうございます。不器用でお役に立てるかわかりませんが、力仕事でしたら喜んで。私は冒険者パーティー『万雷の乙女』のリシュと言います」


 私は一瞬迷うが、シスターの優しさもあり手伝いという名目にのせてもらうことにします。


「これは失礼致しました。私はラーラ教のシスターをしておりますタプリールと申します。さあ、こちらにいらして」


 その笑顔に誘われるままに、私は炊き出しの手伝いに始めました。





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