短編集かぶれ

角掛パスタ

1話にも満たない

【コーヒーで簡単に滲みそうな】


 コーヒー風味のアイスを喫しながら新聞を開き、次は正真正銘本物のコーヒーを啜ってまた新聞に目を通す。別に新聞に目を通すと言っても、今の世界情勢を迅速に知りたいわけではない。

 ただ、『まぶしい朝日が差し込む中、新聞を広げ、優雅にコーヒーを口にする私』という構図がたまらなくカッコいいからそうしているだけ。アイスはただのおまけみたいなもので、まあでもそこでもコーヒー風味を選んだことには謎のこだわりがあったように思うが。

 __拘り

 自分で言っていて笑えてくる。

 こんなドラマでよくありそうな、全世界各地で放映されていそうな、二番煎じでちゃちなこだわりが自分を構成している大部分だと思うと無性に笑えて。そして虚しくなる。

 私は私を構成するのにおいて”拘り”にこだわりたかった。全てにおいてこだわる硬派な自分という映し出され方がかっこいいと思って。

 でもどれだけ”拘り”を探そうが多くの場合それはもう他人の手に渡っていて、結局私が突き詰めてこだわったって、既視感漂う誰かになる。

 こだわりは持てば持つほど私が欲しかった個性的な私から遠ざかっていき、こだわりは持てば持つほど私を「誰か」の色に染めていった。

 そんな私に私に私自身はほとほと愛想を尽かせている。


 そろそろ花道教室の時間だ。私はいつもどおりこだわりの道を通って目的地へ行く。靴を履くときは左から、ドアを開くときは右手で開き、「いってきます」じゃなくて「綺麗な花持って帰ってくるね」と言って家を出る。道沿いに咲いている花は、毎日同じでも必ず全て愛で、教室に遅れてはいる。そして叱られる。

 そんな凡庸な拘りを持っていまだにそれを個性と言い切って。

 まだ私は拘りにこだわり塗れた人生を送る。

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