episode3 服
「逃げますよ、柚凪」
帰り際、巡回中の警察官と目が合い柚凪の手をとり逃げ出した。
「え、ちょ、ちょっと、どうしたの?」
オレの数歩後ろを歩いていた柚凪は警察官が目に入っていなかった。
故になにが起きたのかも分かってなかった。
「面倒なことになりそうなので、とりあえず逃げます。」
「ええ、ちょっと言ってる意味が分からないんだけど。」
そして、目が合いいきなり逃げ出したとなると当然警察官も追いかけてくる。
「こ、こらー!そこの二人まちなさい!」
そう言い、小走りで走ってくるのが見えた。
幸い、距離はまあまああったのですぐに追いつかれることはない。
「え、ほんとになにが起きたの?」
「警察がいました」
「え、あ、そうゆうこと!?」
そしてオレは柚凪の手を引き住宅街へと逃げた。
ジグザグと住宅街を走っていると警察官の声は聞こえなくなっていた。
どうやら、逃げ切れたみたいだ。
「ハァ、ハァ」
「すみません、急に走らせちゃって」
「ほんとよ、何考えてるの」
「いやあ、補導は面倒くさいなと思いまして」
「まあ、それもそうね………
てか、いつまで握ってんの?」
そう言い、柚凪は手元へと目線をやった。
オレが柚凪の手を握っている。
「ああ、すみません。でも夜にこうやって手を繋いでるとなんか恋人みたいですね」
すると柚凪は突然ポカーンとした表情になった。
「恋人、か………」
そしてそうポツリと呟いた。
「どうしました?」
「な、なんでもないわ、冗談言ってないでさっさと家に連れていきなさいよ!」
「あ、はい。ちょっと遠回りになりましたが、ここをまっすぐ行って左に曲がればもうつきます。」
────
そしてようやくオレの家の前までついた。
「ここが翔の家ね」
「ええ、アパートですが」
オレの住んでいるアパートは築十数年で古くもなく新しくもなくといった、至って普通のアパート。
「今、家族いるの?」
「いえ、父親と二人暮らしですが夜勤が多いので今はいないです。」
「ふうん」
そしてオレと柚凪はアパートの階段を上がりオレの住んでいる106号室へと入った。
「お、おじゃましまーす」
「はい」
とりあえずリビングへとあがらせ、ソファーへと腰をかけさせた。
「ふぅん、結構きれいなのね」
「まあ、一応綺麗好きなので。」
家の家事は大体オレがしているのでリビングもオレ好みの部屋へとなっていく。
八畳半の部屋に三人がけのソファー、その前にテーブル、そしてテレビ台とテレビが置いてある。
脇の方には漫画や小説などが入った本棚が置いてある。
あとオレの好みで観葉植物なんかも置いてある。
「なかなかいい趣味してると思うわ」
「それはありがとうございます。
それより、シャワー浴びませんか?」
「なによ、急に。私そんなに臭かった?」
「いや、そんなことは。ただ走らせてしまったので、あと風邪もひいてしまったら大変ですし。」
「そ、そう。じゃあお言葉に甘えるわ」
オレは柚凪を風呂場へと案内し、タオルを準備しリビングへと戻った。
「ふぅ、なんか疲れたな」
ある事情で家を追い出され、ベンチで寝ていた女子高生がまさかの同じクラスメイト。
そして、成り行きでオレの家まで連れてきてしまった。
これからどうするか…………
とりあえず飯でも用意しとくか。
オレはキッチンの戸棚からカップメンを数個取り出しておいた。
────
10分後。
柚凪が風呂から上がってきた。
だがオレはその姿に面を食らった。
その姿は、乾ききってない茶髪が胸元まで降ろしてあり、白く綺麗な肩があらわになったバスタオル一枚というなんとも過激な姿だったのだ。
「えっ、あ、えええええっ!」
自分でも情けないと思うほどの大声を上げ、後ずさりをした。
さすがにオレも驚いた。
なにせ、いきなりなんだから。
「ん〜?なに?どうしたのかな〜?」
驚くオレに近づき、下から顔を覗かせ、からかってくる。
「ん〜?ん〜?」
と追い打ちをかけるように迫ってくる。
(近い、近すぎる)
だけどオレはもう卒業済みだからな。
すぐに冷静さを取り戻す。
「どうしました?早く着替えたらどうですか?」
「えー、制服なんか嫌だなー」
「じゃあ裸で過ごすと言うんですか?」
「それも、ありかもね?」
「冗談でしょう」
「じゃあさ、翔の服貸してよ。なんでもいいからさ。」
「オレの服ですか?まあいいですけど……」
オレはふすまを開け、自室へと入り服の入っているタンスを開けた。
(うーん。どの服を着せようか。)
もちろん女物の服などあるわけもなく、最終的には上下灰色の寝間着を渡すことにした。
「へーここが翔の部屋ねー」
「あんまり見ないでください。
服はこれでいいですか?」
オレは手に取った服を広げて見せた。
「なんか地味だけどまあいいわ」
「じゃあ、どうぞ」
「ありがとねっ」
服を受けとると、洗面所の方へと向かっていった。
──だが扉をでる直前、なにかを思い出したかのように振り返り、柚凪はニヒヒとニヤついた表情を見せた。
「ふふっ、それにしても翔の反応おもしろかった」
「そりゃ、いきなりバスタオル一枚ででてきたら驚きますよ」
「ふーん、経験済みならこれくらい普通なんじゃな〜い?」
「いくらオレでもね、心の準備というものが……というかオレのこと誘ってるんですか?」
「ば、はが!違うし!ちょっとからかっただけだし!」
柚凪はふん!と振り返り、洗面所へと戻っていった。
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