家庭環境が複雑なクラスの女子を深夜まで家に泊めることになった

ちぃーずまん

第一部

episode1 あんぱんと女子高生

 バイトの帰り道、オレはいつものように家の近くにある公園へと入った。

 入り口を入るとまず遊具があって、その先に屋根付きの一つのベンチがある。

 オレはそこで父親の押入れからくすねた煙草で一服してから帰るという、いわばルーティンみたいなものがある。


 公園に入って遊具を越え、ベンチの方に目を向けるとなにやら人影が見えた。

 どうやら今日は先客がいるようだ。

 暗くてよく見えないがなにやらベンチにダラーっと横たわっている。

 仕事終わりで酒に潰れたおっさんか?とも思ったがその割には遠目だがスタイルはいいし、てかよく目を凝らしてみると長い長髪がベンチから垂れている。

それにやや短めとも思えるスカートを履いていた。


(女の人なのだろうか………)


 3メートルくらいまでベンチのところに近づくとくっきりとその人物像が見えた。

 女は制服を着ていて………ってこの制服うちの学校の制服じゃないか。

まさか高校生だったとはな。


 ベンチのところまで来るとスゥ、スゥと寝息のようなものが聞こえてきた。

 顔は逆の方を向いてるので確認できないが、どうやら寝ているみたいだ。

 そして、彼女の頭の近くには食べかけのあんぱんが置いてあった。

(食べてるときに眠くなってそのまま寝てしまったのだろうか。)

 それにしても、こんなところに女子高生が無防備に寝ていては見る人が見れば鼻息をハァハァとたてて襲われかねない。

それに今は10月の半ば。

寒いとまではいかないが時折冷たい風が吹く。

 夜通しこんなところに寝ていては風邪をひきかねない。

 それになんといっても彼女がこのベンチを占領しているせいでオレの優雅な時間が過ごせなくなってしまう。

優雅といっても一服するだけなんだが。


 まあ、とりあえず起こすか。

 そう思い、オレは寝ている女子高生に声をかけた。


「こんなところでjkが寝ていては襲われてしまいますよ?主にオレに。」


 早く起きてほしかったのでそんな冗談を踏まえつつ何度か肩をゆすった。

 すると彼女は「う、うぅ〜ん」と言いながら寝返りをうった。

 寝返りをうったことによって彼女の顔を確認することができた。

 ん?あれ、こいつどっかで見たことがあるような…………


「あ!!」

「あ!!」


 オレと彼女の驚く声が被った。

 こいつはオレと同じクラスのたしか、

岸山柚凪きしやまゆずなって言ったっけ。

 クラス内ではかなり目立った存在なので勿論見覚えはある。

胸元くらいまである茶髪がかった長髪に整った容姿に可憐なスタイル。 オレはこいつのことをよく知らないけどオレの友達はみんな岸山さんのことをかわいいとか付き合いたいだのともてはやすくらいの美少女なことは間違いない。

まあ、いわば高嶺の花的な存在。


「宮島!?」


 すると彼女がオレの顔を確認してそう聞いていた。


「はい、そうですよ。」



彼女とは同じクラスだがまるで関わりがないのでとりあえず敬語で話すことにした。


「たしか下の名前は………」

かけるですよ。

 あの、とりあえず席半分いいですか?」

「え、あ!ええ」


 そう言い彼女は起き上がり、そのままベンチに座った。


 オレは半分開いたベンチに腰をかけた。


「ふぅ」


 一つ息をはき、ベンチに座りカバンの中からスマホを取り出しバイト中にたまったラインなどを返した。

 ………にしてもさっきからちらちらとこっちを見てくるな………

 早く帰ってくれないかな。ほら『あれ』も吸いづらいし、事実とはいえ悪い噂をたてられるのはゴメンだからな。


「帰らないんですか?」


 煮え切らないと思ったオレは自分から彼女に話しかけた。


「別に私の勝手でしょ」

「たしかにそうですね」


 仕方ない、と思いベンチから立とうとしたときだった。


「さっき言ったこと、しないの?」

「さっき?なんですか?」

「ほ、ほら言ってたじゃない、襲うとかなんとか……」

「あぁ、あれは冗談ですよ。なにより起きてしまったので、襲う意味もないでしょう」

「そう、なのね。」

「はい、ではオレは行くので」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ」


 立ち上がると彼女も立ち上がりオレを呼び止めた。


「どうしました?」

「ちょっと暇だから話し相手になりなさいよ」


 めんどくさいなと思ったがある一つの条件をつけて話し相手になることにした。


「別にいいですけど、こらからオレがすることを誰にも言わないと約束できますか?」

「や、やっぱりやましいことするつもりなんでしょ」

「なにを言ってるんですか?」


 そう言いオレはブレザーの胸ポケットから煙草をとりだした。


「た、たばこ……」

「ええ、バイト終わりここで一服するのがオレのルーティンなので。」

「ふーん、バレたらやばいわね」

「この公園なら木で囲まれてますし大丈夫でしょう。」

「まあ、いいわ。約束してあげる、誰にも言わないわ」

「そうしてもらえると有り難いです」


 そしてオレは再度ベンチへと腰を降ろした。

 すると、彼女は少し怪訝そうな顔をしてオレを睨みつけた。


(なんなんだろう……怖いな)


「さっきからなんで敬語なのよ、同級生だし、それに同じクラスなんだから敬語なんて

必要ないでしょ。

聞いてて気持ち悪いわ。」


彼女は怪訝そうな顔でそう毒づいてきた。


(なら、なんで呼び止めたのだろうか)


「まあなんというか癖みたいなものでしてね、親しい人以外には基本敬語なんですよ」


 きっちりと弁明したつもりだったが彼女の顔は浮かない感じだった。


「ふうん」


 会話が終わり、オレは箱からトントンッと煙草を一本取り出しライターで火をつけ口へと入れ煙をプハーッと吐き出す。

『くぅ!!このために生きてる!』

とでも言いたくなるほどだが隣には知った顔がいるのでやめておく。


「ほんとに吸うんだ」

「ええ、そりゃまあ」

「なんか宮島って結構意外な一面もあるのね」

「といいますと?」

「たばこもそうだし、耳にもピアスつけてるし髪型もよく見ると奇抜だし学校とはまるで違うわね」


 確かにピアスはつけてるけどこれは穴が塞がないようにするためで、髪型は目立たないよう前に垂らしているが今は髪をかきあげツーブロックの段差がよく見えている。

どちらも校則に反しているので学校では気を使っている。


「学校だといろいろと制限されますからね、外では自由にしていたいんですよ。」

「そういうもんなのね」


 校則といえば彼女の茶髪は地毛なのだろうかそれもと染めているのか。

 気にはなったが聞くまでのことではないので心に閉まっておいた。


 そこで会話が終わり数分の沈黙が流れる。

気づくと煙草もかなり短くなっていた。


「ところで岸山さんはこんなところでなにをしていたんですか?オレにはあんぱんを食べてる最中に眠くなってそのまま寝ていたように見えましたが」


 沈黙を切り裂くようにオレは話題を振った。

 一応気にはなっていたしな。

 オレがそう聞くと彼女は思い出したかのように隣にある、あんぱんに目を寄せた。


「ま、まあ恥ずかしいけどそんなところよ」

「家には帰らないんですか?」

「帰れないのよ……」


 さっきは答えてくらなかったが今度はなぜか答えてくれた。


「家出ですか?」

「違うわ」

「じゃあ、なんで?」

「言いたくない」

「そう、ですか……じゃあオレはこれで」


 そう言い、立ち上がり踵を返したときだった。

腕を掴まれた。


「一人に、しないでよ。」

「え?」


そう言われオレは振り返る。


「だから、一人にしないでよ」


 彼女の目は少しばかり潤んでいるようにみえた。

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