第103話 意外な再会
「いや、俺だよ俺。わかるだろ?」
必死に訴えかけるリーズだが、二人はますます首を捻るばかり。
「えっ、マジでわからん。先輩心当たりあるか?」
「いや……新手のオレオレ詐欺、でしょうか……?」
「――あぁ、もうっ! これならどうだ!?」
いい加減、痺れを切らしたリーズがインベントリから黒い兜を取り出すと肩に担ぐ。
「「…………」」
何処かで見たことのある兜と彼の顔を交互に見つめること一度、二度……三度。
「「……あぁっ!」」
ようやく二人はポンと手を打った。
「リーズ! 鷹隼騎士団第5支部『蝦の爪』隊長、リーズか! 久しぶりだな!」
「なんだ、Rui子ちゃんの元リーダーのリーズさんでしたか。こんなところで何してるんです?」
「……お前ら、俺のことこっちでしか認識してないのか? あと、そのやけに不自然な説明口調はなんだ」
今さっきとは180度変わった態度に、ツッコミを入れざるを得ない。
「いやいや、今までずっとフルアーマーだったからさ」
「顔の印象は結構大事だーって、よく言うじゃないですか」
確かに……今まで素顔を見せてこなかったので、リーズの顔を見てもいまいちピンと来なかった二人の意見も多少は納得がいく。
――とはいえ、頭上の名前を見れば一目瞭然のはずなのだが。
「はぁ……まあいい。何をしてるんだ?」
「あぁ、私たち第70階層の攻略を目指してるんです」
「ほう、第70階層か。結構難易度高いが……お前たちならクリアできるだろう」
「お前こそ何やってるんだ? 他のメンバーはどうした?」
「いや、もういないんだ」
「……?」
妙な言い回しをするリーズにノインは首を傾げる。
「……あれ? そういえば」
とユキが、もう一つ彼の容姿が大きく変わったところに気が付いた。
「マントどうしたんですか? ほら、鷹隼騎士団の」
彼女の指摘通り、今のリーズの背中にはマントがない。
あれはクラン専用のアクセサリーのはずなのだが……?
すると彼は「あー」と笑いかけた。
「――やめたんだ」
「……え?」
「鷹隼騎士団……いや、『蝦の爪』から抜けたんだよ、俺」
「え……えええええぇぇぇっ!?」
さらりと放たれる衝撃発言。ユキは声を大きく上げざるを得ない。
「お、おぉ……急にどうした?」
これにはさすがのノインも驚いたようで困惑気味に疑問を投げかける。
リーズは目を細め懐かしむかのように空を見上げた。
「……自分自身を見つめなおそうと思ってさ」
「自分を……?」
「あぁ。ほら、俺ってお前らを陥れようとした時あっただろ。覚えてるか?」
「それは……まぁ」
忘れるわけがないだろう。
第16階深層に挑んだ時。
「深層はノインに負け、スタンピードではRui子に負け……負けた理由を考えていた時、ふと思いついたんだ。強みを誇示するんじゃなくて、弱みを受け入れようと。だから過信してた今までの自分を捨てるために、第5支部隊長の座を降りたのさ」
「な、なるほど……?」
よくわかったような、わからないような。
「というわけで、今の俺はフリーなんだ。ここに来た目的なんて特になく、色んなところを旅して回ってる最中だ」
「へぇ……」
『自分探しの旅』というやつなのだろうか。
なんだか大人っぽい行為にユキは小さな憧れを抱く。
「今は第66階層の攻略か?」
「はい。それとサーベルタイガーの討伐も兼任してます」
「あぁー……なるほど、ブレード系の素材集めか」
「それとカワワタリの捕獲、ミニダケの収穫も兼任して――」
「ちょっと待て」
「ん?」
と、さぞ当たり前のように話すノインを手で制すリーズ。
「どうした、何か問題か?」
「いやいや、『問題か?』じゃないだろ。クエスト3つも一気にやってんのか? もう少し絞ったほうがよくない?」
「すみません……これがノインさんのやり方なんです」
「……え、バカなの?」
「なにを失礼な」
「はい……この人、バカなんです……」
「あれ? ここはフォローしてくれるところじゃ?」
「フォローできないくらいバカって意味です!」
一回で複数の目的を同時達成する。どう考えても無謀なやり方に思わずツッコミを入れてしまうリーズの反応を見て、ユキは自分の感性が正常だということを再認識した。
「ミニダケはオーク・ボアに襲われる可能性が高いし、カワワタリはスカルイーターを呼び寄せる餌になる。いくら道中の敵とはいえ、集団行動をするLv.66のモンスターじゃないか」
「あぁ、やっぱりそうだったか――っと。いきなりどうした先輩」
「知っててやってたんですか!? 私が猪に追い掛け回されることを知っててやってたんですね!?」
「まあまあ、落ち着けって」
――いや、お前は落ち着きすぎじゃない?
いきなり攻撃を仕掛けてきたユキに対して顔色一つ変えずにジャスガするノインを見て、リーズはドン引きしてしまう。
だが、ノルズにとってはこれが日常茶飯事である。
「最初はあくまで俺の予想だった。別に先輩をいじめたくて、そういうことをしたわけじゃないさ」
「……本当でしょうね?」
「本当だって。むしろ先輩を喜ばせようとしたくらいだ」
「喜ばせようと……? どういうことです?」
怪訝な表情を浮かべるユキに、ノインはニコリと笑って一言。
「オーク・ボアと戦えて嬉しかっただろう?」
「……よ」
「よ?」
「――喜ぶわけないでしょ【鎌鼬】ぃっ!」
一閃。
怒りの込めた居合い抜きが能天気な男へ放たれた。
「おっとっと。どうした?」
「やっぱりノインさんの感性、どこかズレてるんですよね! だいぶズレてるんですよね! あれが楽しそうに見えたんですか!? 私を思考までバーサーカー状態のノインさんと一緒にしないでもらえます!?」
なお……怒涛のツッコミと連動するかのようにノインへ斬撃を繰り出しているが、いずれも全て防がれている。
「……相変わらず愉快な連中だな、お前ら」
そんな二人のやり取りを見ていたリーズは呆れたように肩を竦めるが、ふと「そうだ」と何か思いついたような顔をした。
「なあ。もしよかったら、今日一日だけ俺とパーティー組んでみないか?」
「……へ? パーティー、ですか?」
彼の提案にユキはきょとんとする。
「あぁ。キャリーとかそういう話じゃなくて、普通にこの周辺を冒険するだけ。別に報酬とか、そんなやましいこと考えてないさ」
「は、はあ……でもそれなら、どうして私たちと組みたいんです?」
「言っただろ? 今は自分を見つめなおす旅をしてる最中だって。お前らと組むことによって、新しい経験がほしいんだよ」
「新しい経験……」
「あっ、ちなみに保証と言ってはなんだが、こういった見知らぬ人たちとパーティーを組むことは他にも5回くらいしてるぞ」
「……ふむ」
リーズは新たな経験を得て、ノインたちは攻略する仲間が一時的に増える。確かにどちらも得するような話だ。
それに……新しい経験というのはノインたちも同じだ。いつもとは別のプレイヤーと組むことにより、足りないものが見えてくるかもしれない。
ノインとしては別に否定する要素はない、のだが……。
「……先輩、どうする?」
リーダーはユキ。彼女の判断に一任するつもりだ。
「…………」
ユキはしばらく考える。
――信頼できない。
……というのが正直な感想。
今の雰囲気からして、一切敵対心を感じない。だが、ついこの前までは敵同士だったし、裏切られた経験だってあるのだ。
そう簡単に信じろという方が無理だろう。
――でも。
ユキは強くなった。
あの時よりは確実に成長したし、ノインだって一緒にいる。
それに……なにより、Rui子自身がリーズのことをそこまで嫌悪していないという事実があるのだ。
考えに考え……「まあ」と声を漏らす。
「昔は敵同士の関係でしたけど……今は、そんなこと関係ないですしね……」
「お、おぉ……では!」
「それに、Rui子ちゃんもあなたのことを恨んでるわけじゃなさそう……なので。私は構いませんけど?」
そう、これは妥協。
あくまで一時的に手を組むだけで、一切信用したわけじゃない。
「先輩がいいなら、俺もいいぜ」
「ありがとう、ありがとう! 一度組んでみたいと思っていたんだ!」
オーバーリアクションかと思うくらい感激したリーズが、勢いのまま手を伸ばす……が。
「ちょっ!? 何故ジャスガする!?」
「え? ……あぁ、悪い悪い。いきなり手を出されると、いつものクセで」
――そのクセ、多分治りそうにないな……。
『強大な力には代償が伴う』――という言葉はよく聞くが。ここまで生活に支障をきたすのなら、そこまで強大な力は必要ないかもしれないと嘆息を漏らすユキだった。
……なお、ユキに伸ばしかけた手をもジャスガしたというノインの反射的嫉妬心を、彼女は見落としていたが。
肝心なところで、ユキも鈍感なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます