第38話 SS装飾品とEX武器

 さて、強敵リザードキング・スケルトンを倒したノイン一行は、目の前に現れた宝箱の前に立っていた。


「……本当に、俺が開けていいのか?」


 再確認するようにノインがみんなに訊く。


「なーに言ってんの! 最後に倒したのはノインくんなんだから!」

「うむ。最後のノインは蒼星に相応しかったぞ」

「今回のMVPからトロフィーを手にしなくてどうするのさっ」


 それぞれの言葉にノインは黙り……最後にユキを見る。

 こういう時は控えめなんだから――とため息を漏らしつつ、彼女も頷いた。


「誰も文句なんて言いませんよ。それに誰が開けても、ドロップアイテムはランダムなんですから」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 と、ようやく宝箱に手を触れる。

 触れた瞬間、宝箱はひとりでに開き……それぞれにドロップアイテム欄が表示された。


【ドロップアイテム


・159,238ゴールド

・死霊竜王の牙

・死霊竜王の尾

・吸命の珠

・魔石 Lv.10×3

・魔石 Lv.9×8

・魔石 Lv.8×12


「うーん……」


 一覧を見て唸るノイン。

 元々欲しい素材はないので、報酬を見てもどうだとかの感想はなかった。ただ魔石はクラフトに使うらしいので、大量に貰えたのは嬉しい。


「まあドロップアイテム見ても、本来俺たちが持てないようなレア度だからなあ……」

「うんうん、どれも珍しいアイテムに見えるよねぇ」

「あ、あはは……まあ新しい装備が作れると考えればいいんじゃないかな?」


 ノインと同じくイマイチ感想がなんとも言えない龍矢とRui子にリナが苦笑いを浮かべた。


「……ん? んんー?」


 そんな中……ユキはドロップリストを見て首をかしげる。


「わおっ! レアドロじゃん!」


 と、彼女のウインドウを覗き込んだリナが声を上げた。


【ドロップアイテム


・死霊竜王の腕輪 レア度:SS

 攻撃+150%

 死を統べる竜王の力が込められた腕輪。装着した者は【彷徨】が使用可能。

スキル【彷徨ほうこう

 5分間、範囲内にいる誰もがHPを回復できなくなる。自分も回復できなくなる代わりに素早さが+150%される。クールタイムは10分間。


「レア度SSの、しかもスキル付き! やったねユキちゃん!」

「ふ、ふぇっ……こ、こんな凄いもの、手に入れちゃったんですか!?」


 まさか最高ランクのアイテムが手に入るだなんて思わず、ユキの手が震える。


「おぉー、本当だ! ユキちゃんラッキーじゃん!」

「はにゃ……」

「うむ。今回の運はユキさんに味方したようだな」

「はにゃ……」

「ねねっ、実際につけてみてよっ」

「はにゃ……」


 ――今なら先輩にどんなこと言っても頷いてくれそうだな。


 理解が追いつかずうわの空で返事するユキは、言われるがままに腕輪を装備した。


 金をベースに龍の彫刻でデザインされた、まさに竜王と呼ぶに相応しい腕輪。真ん中に紫の宝石が嵌め込まれている。


「……や、ややややっぱりこんな凄いもの私が持っていいわけないですっ!」


 しばらくボーっと腕輪を眺めていたユキだが、だんだん実感が湧いてきたのか慌ててノインの方に駆け寄ってきた。


「ノ、ノインさん! これはノインさんが持つべきです!」

「いや、それはユキ先輩のものだ。俺は受け取らないぞ」

「こ、今回頑張ったのはノインさんじゃないですかっ!」

「先輩も十分頑張っただろ」

「で、でも……!」

「それに、言ってたじゃないか。自分自身でレアドロップしないと意味がないって」

「うっ……!」


 まさか自分で言った台詞に追いつめられるだなんて思わず、ユキは言葉を詰まらせる。


「……う、うぅぅ。じゃ、じゃあ……使いこなせるかどうかわかりませんが……使ってみます……」

「ああ。先輩ならきっと使いこなせるさ」


 とうとう彼女は折れ、大切そうに腕輪を握り締めた。


「ノインさんは何かドロップしましたか?」

「うーん……これと言ってレアなものはなかったな」

「そう、ですか……」

「ま、素材は狙ってないからな。別にいいさ」


 例えMVPだとしてもドロップアイテムは完全ランダム。要は公平なジャッジなのだ。


 と、ノインがウインドウを閉じた瞬間――ピコンと通知が表示される。


【おめでとうございます! 今回の深層攻略の貢献度1位のプレイヤーにノイン様が選ばれました! よって、貢献度ボーナスとして古代武器を贈らせていただきます!】

「……は?」


 よくわからない通知に思わず目が点になっているのも束の間。目の前に宝箱が出現した。

 モンスターを倒した時の宝箱と比べて二回りくらい小さいサイズ。しかし、通常の宝箱よりも豪華な見た目をしている。


「ん? ノインさん、それなんです?」

「いや、俺もわからない……」


 宙に浮く宝箱を見て、首を捻るユキ。ノインは恐る恐る手を伸ばすと……宝箱が開いた。


【ドロップアイテム

・古代の盾 レア度:EX+F

 攻撃±0 防御±0

 古代に使われていたと思われる盾。未知の力が宿っている。


「んんー? なんだこの表記……?」

「どしたのノインくん?」

「あぁ、リナさん。これなんだけどさ……」

「んー、どれどれ……ぶっ!?」


 と、リナがノインのウインドウを覗き込み、アイテムの詳細を見た途端思わず吹き出す。


「レ、レア度EXエクストラ!?」

「うん、レア度ってFからSSだろ? じゃあ、これってどの位置なんだ? てか、珍しいものなのか? 」


 首を捻るノインにリナの声が震える。


「珍しいなんてレベルじゃないよ……これ、クラフトしようとしてもできない、超激レア武器だよ……!」

「へぇー」


 対してノインは軽い返事を一言だけ。どうやら事の重大さに気が付いてないらしい。


「えっと……リナさん、そのレア度EXって、普通のレア度と何が違うんですか?」


 仕方なくユキが代わりに訊き返す。


 彼女も気になってはいるのだ。レア度EXなんて見たこともないし、聞いたこともない。内容もそんな強そうな武器ではないのに……リナが『超激レア武器』と呼んでいるのと、EXの隣に書いてある『+F』という文字が妙な引っかかりを覚えた。


「武器の強化については知ってるよね?」

「いや、知らん」

「武器は最大+10まで強化できるんですよノインさん」

「あ、そうなのか」


 補足するユキにノインはふれぃどさんと初めて会った時に言ってた台詞を思い出す。


 ――俺の出す武器は全部+6以上まで強化済みだ!


「この強化なんですが……結構運要素が絡みまして。レア度と鍛治スキルによって+10にする難易度が左右されるんです」

「鍛治スキル? それ、俺も習得可能なのか?」

「いえ、今のノインさんは出来ないですね」

「ふぅん……?」

「説明がちょっと難しいので、今はそういうものだと思っていてください」

「そういうものか」


 とりあえずそういうことで納得することにした。


「うんうん。今ユキちゃんが説明した通り、通常の武器は強化するものなんだよ」

「で、これは?」


 早速装備してみせたノインが盾を見せる。

 大きさや形は初期装備の盾とさほど変わらない。何やらよくわからない文字が刻み込まれており、赤錆のような色をしている。


「EX武器はね――するの」

「し、進化……ですか?」

「そう。わかりやすく言うと、元の武器の性能を上げたりするのが『強化』。使っていくうちに武器の性能を変わるのが『進化』ってことかな」

「――っ!」


 リナの説明で……ようやくユキもノインが手に入れた武器の凄さを理解していく。


「つ、つまり……この武器、自分から成長するってことですか!?」

「うん、そういうこと」

「ふぅん、よくわからないけど凄いんだなこいつ」

「凄いってレベルじゃないですよ……これ、成長の仕方によっては強力なスキルがつくかもしれないってことですよ……!」


 さっきユキが手に入れた『死霊竜王の腕輪』がいい例だ。

 あの腕輪は最初からスキルがついていた。しかし腕輪によって付与されているスキルが違うということはないだろう。


 しかし……この武器は違う。ノインの使い方次第によって、習得する能力やスキルが変わるということなのだ。


「EXの後ろについてる『+F』っていうのは進化過程のことを指すんだよ」

「じゃあ最大『+SS』まで成長するってことか」


 そして最終段階に達した時――この武器はノインのプレイスタイルに合わせた武器となっているのだろう。


 ノインが盾をじっと見つめると……盾もまた、彼を見つめているかのように感じた。


「……へぇ。気に入ったぜ、こいつ」


 ノインは笑みを浮かべる。それは新しい遊びを見つけた子供の無邪気な笑みと全く似ていた。


「さて、と……リナさんは自分のことをしなくていいのか?」

「ん? なんのことかな?」

「今更惚けなくてもいいって。この深層に潜った目的は、何かを調査するためなんだろ?」

「………………はあ。君には何も隠せないなあ」


 リナはため息をつくと、インベントリから黒い物体を取り出す。

 大きさは手のひらサイズの直方体。表面にはボタンが一つある。


「リナさん、それは……?」

「あー……これは、とある人に託されたモノでね。ボスを倒したら起動するようにって頼まれたの。本当は先にノインくんたちを第16階層に帰してから使うつもりだったんだけど……まあ、ここまで手伝ってくれたしね。別にいっか」

「……?」


 疑問符を浮かべる一同だが、構わず彼女はボタンを押す。


『【メモリー】』

「……っ!?」


 そんな声が聞こえたかと思うと――空間が突然歪み出すのをユキは感じた。



***



「――っしゃあ! 第20階深層、攻略ぅ!」


 光の粒子となって消えたリザードキング・スケルトンを見て、白い軍服を着た男が勝利の証のように剣を天井へ掲げた。


「し、死ぬかと思ったぁ……! いや、絶対私死んでるよ、クマちゃぁん……!」

「大丈夫だランデ、お前は死んでない。あと私をクマちゃんと呼ぶな」


 その場でへたり込むランデと呼ばれた金髪の少女の肩を、首からゴーグルをかけた白髪のポニーテールの女性が抱きかかえる。


「てか蒼太そうたは突っ込みすぎ! 相手は最大HP減らしてくる奴だよ!? もし死んでたらどうしてたのさ!」

「いや、死んでないから結果オーライっしょ。ったく、ミカンは心配性だなあ」

「私の援護が大変だったんだからね!?」


 ミカンたる少女が頬を膨らませるが、蒼太と呼ばれた軍服男はどうにも反省してないようだった。


「まあまあ。蒼太お兄ちゃんとクマちゃんがいなかったら、クリア出来なかったわけですしっ」

「……とうとう7美ななみまで、私をクマちゃんって呼ぶようになったか……!」


 メイド服の少女が仲裁に入るが、ゴーグルの女性はますます落ち込むばかりである。


「別にいいじゃねえかクマちゃんでも。可愛いと思うぜ――って、うぉおっ!?」


 一閃。

 二つの刃が同時に襲い掛かり、慌ててバッグステップをして躱す男。


「お前には呼ばれたくない! このバカ蒼太!」

「あぁ!? やんのかアホベアロード!」

「ちょ、ちょ、ストップ、ストーップ!!」

「回復できないこの場所で喧嘩したらドロップアイテムが手に入らなくなっちゃうよ!?」

「「そんなことより、こいつを殴る方が先決だっ!」」

「はあ……どうしてうちの火力要員たちはこうも血気盛んなんだろう……これでも選ばれしたちなのかな……」


 今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気を慌てて全員が止めようとする中、ランデは深いため息をつくしかなかった。



***



「……えっ。あ、あれ?」


 気が付いた時には……ユキは元の場所にいた。


 いや、さっきもこの第20階深層のフロア内だったのは違いない。

 ただ……少しの間、別のパーティーメンバーのやり取りを見ていたのだ。


「リ、リナさん。今のって……」

「うん。このアイテムの力」


 とリナが黒い物体を見せる。


「その名も『タイムメモリー』。このフロアを同じくクリアしたパーティーのログを覗き見ることができるんだ……もっとも、深層をクリアした時限定でしか使えないっていう厳しい制限付きだけどね」

「は、はあ……」


 要は過去に同じく深層をクリアしたパーティーメンバーの一部始終を映像として見ることができるアイテムということだろうか。


 ――でも……そんなことがリナさんの目的?


 不思議だった。

 今の会話を見たところで何か得るものがあったわけじゃない。せいぜい、「あ、前にもクリアした人がいたんだ」と思うくらいだ。


「……どう思いますノインさん?」


 リナが『タイムメモリー』を弄っている隙に、ユキはこっそりとノインたちの意見を訊いてみることにする。


「うん、完全なハーレム野郎だったな。いつか顔を合わせた時は一発ぶん殴ってやりたい」

「見てたのはそこですか!?」

「うむ。しかも名前に『蒼』が入るだなんて……許せん、許せんぞ」

「龍矢さんも見るところおかしくないですか!?」

「……やれやれ。うちの男子たちも、あっちのチームのこと言えないねぇ」


 まったく参考にならない二人にRui子は苦笑するしかなかった。




 しかし――この時重大なことを言っていたことに、まだ誰も気づいてない。


 回想シーンの中、ランデと呼ばれた少女はこうぼやいたのだ。


 ――これでも選ばれしトップランカーたちなのかな。


 トップランカーというのはリナと同等の実力を持つプレイヤー。この世界に閉じ込められている(ノインを除く)プレイヤーたちなら、誰だってその名を知っているくらいの有名人である。


 回想シーンからして、あの『蒼太』と『ベアロード』たる二人がトップランカーたちなのだろう。



 だが、あの二人の姿を見て尚且つ名前を聴いても、誰一人としてピンと来た者はいなかった。

 

 何故ならば……トップランカーと呼ばれるプレイヤーたちの中に、



 ノインたちがこの事に気が付くのは、もっと先のお話。

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