偏影

三屋久 脈

第1話






空を見上げる。

見上げた空には連なる星たちが浮かんでいる。

そしてその星の光が彼らを透かしていた。



流れる星が空を斬って線を刻んでいく。

その線を辿るように描いた軌道の影が淡くかすんでいく。


黒い帽子を被った少女は、その瞳に夜を映す事でいっぱいだった。


かつてから魔王と呼ばれている男が口を開く。

「星は沈むのか、昇るのか。それは見た角度で決まるのだろうか?」


黒いスーツを着た女は、袖をまくる。

彼女は地面に腰を落とし、あぐらをかくと答えた。

「星なんてぐるぐるぐるぐる回ってるだけだろ、あいつらきっと馬鹿なんだ」


そんな彼女をみて黒い帽子の少女は、帽子のつばを軽くさすって整えてから言葉を返す。

「違うやろ、あいつらは互いに強く惹かれあってるんや」


星がどこへ向かうのか、彼らは知っていた。

しかし、向かう先はわかっても、誰もその流星が何に引かれているのか予想はつかなかった。


かつてから魔王と呼ばれるその男の、星の尾ような青い髪がなびいた。

魔王は夜の風をまぶたに招くと、大きく息を吸ってから口を開いた。


「今を犠牲にするか、未来を犠牲にするか。君はどこから見る?」


その問いは、角の生えた青年に向かって投げられていた。

青年は空の星を目でとらえながら答えた。

「未来は変わらないと思います、今しか変えられる瞬間はないんです」


「ほうほうほうほう、見所があるやん」

帽子の少女は、角の生えた青年に向かって笑みを向けながらそう言った。


「未来は過去を変えてはくれない、どんな角度から見たってこの事実は変わらない」


青年は魔王にそう語ると、ゆっくりと立ち上がって言葉をつづけた。

「僕は、いつかの為に忠を尽くすんです、あなたにじゃありません」


魔王は優しい笑顔をして彼の背中を見守った。

「ああ、君にならきっと変えられるさ、いってきなさい」


影を纏うと、青年は城から旅立った。



僕の唇の端から笑みがこぼれてしまった。

「魔力切れみたいです、もう間に合わない」


魔物といっしょに転がっている仲間の死体からは、赤い喜びが大地にしみでている。


叩きつけられた鋼が地面を抉って渇きを響かせる。

彼女は勇者の剣をその手にひろい、僕を横目で見つめて口を開いた。


「足りなかったのよ、何もかも……それでもこのまま終わらせに行きましょう」


かすみがかかる夜明け前。

僕らは残りの全てを拾い集め、逃げるように先へ急ぐ。



「近くに来たみたい、いってくるわ」


「ああ、メティナなら立派にやれる、いってきなさい」


メティナは水晶玉を背に、尻尾を振って返事をすると窓を抜けて彼らのもとへ飛んだ。


まだ薄暗い早朝、太陽に雲がこびりついたその下でメティナは彼らに出会うのだった。


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