いじめられっ子はC級英雄と学校一のの美人ともに変わり切った現代社会を生きぬきます。

@inkyaneko

第1話 レイとの会合

晴れの日が怖い。雨の日が怖い。曇りの日が怖い。


明日が怖い。


廃ビル屋上階にて。クラスメイト一人一人のラインに「あ」と一文字送っていく、


もちろん誰一人として既読はつかない。知ってた。


柊葵、ひそかに片思いしている人。彼女はうちの学校でも屈指の美人。僕にはよくわからいが、読者モデル?という仕事を傍らでやっているらしい。そんな彼女のラインに 


今から死のうと思っているんだけど、死ぬ前にヤラせてくれない?


サイテーなメッセージを送った。


いいよ。


と予想外の返答と早さに戸惑った。ブロックされていると思った。


またあとでね。


続けて送られる文


そうして僕の自殺は延期された。


また憂鬱な一日が始まる。昨日絶対死んでやると思っていたのに、色に誘われて決心なんて砂で作った橋のように脆く崩れた。


いや砂で橋は作らないか、でも、ニュアンスは伝わるだろ?


小鳥のさえずりが気持ちの良い朝、しかし家には誰もいない。父も母もとっくに家を出ている。もしかしたら帰ってすらいないかもしれない。二人とも忙しいから仕方がない。リビングにおいてある母のぎっしりお金の詰まった財布から適当にお金を抜いて家を出た。


コンビニで200円のおにぎりとお茶を買う贅沢。おにぎりとお茶はアンパンと牛乳並みに相性がいい。鮭とおい茶なら最強タッグ。異論は認める。


平坦な気分で歩きながら朝食をつまむ。昨日剃った毛が学ランのズボンに擦れて少しかゆい。しかしこれも我慢、なんたってムフフができるかもしれないのだ?毛くらい処理するのだ。


学校についてからソワソワが止まらない。僕が教室に入ると、一瞬静かになる。冷汗が背中を伝う。そして喧騒が戻る。いつも道理。


僕の机と周りの机との間隔はほんの少しだけ広い、これもいつも通り。


気が付かないふりして、うつむく。


気にしてないもん!ぼくのATフィールドが強すぎてみんなの机が少し離れてしまうだけだもん!


スマホをいじりながら聞き耳を立てる。ないとは思うけれど柊葵がラインをばらしている可能性もある。拡散でもされたら恥ずかしさでしっかり廃ビルから身投げしてしまうかもしれない。


それよりひどいうわさが僕の学校にはぴょんぴょん跳ね回っているけどね。


柊が来た、チョオトキンチョする、僕は彼女を目で追うが彼女は僕に一瞥もくれない。そのまま彼女はいつもの上級カーストの人たちとおしゃべりを始める。


柊のいつメンたち、女の子はみんな化粧しているし男はワックスつけて決めまくってる。染めてるやつもいる。


くぅー羨ましい、俺もあの仲間入りをしたいと思うけど、興味あるけどさ、僕のこと見てくれる人いないだろうし、独り相撲とか情けないだろ?いや、一人ぼっちの僕が何をしてもひとり相撲になるわけだけどさ、意味ないことに頑張って恥かきたくないわけよ。


やる気ないクラスの合唱コンクールで一人だけやる気出しちゃう子とかいるでしょ?あんな感じとかマジ寒いしね?そんな感じ。つまりどんな感じ?


昼休みは購買でパンかって教室でたべる。


がこんと机が蹴られ、揺れる。


「あ、ごめんねぇw」


リア充その1、松本君がわざとらしそうに謝ってきた。金髪にピアス、校則を完全に無視した雰囲気イケメンの彼に逆らえるはずもなく。


「ダイ、、ブで、、す、、」


うわずった声が出てきた。


最近のブームは机にぶつかってくることらしい。午前中だけで5回以上許しているから、僕は仏の顔すら超えたね。悟り開いちゃおっかな。、、、、はぁ、、、、


放課後


柊から何もコンタクトが来なかった。ソワソワ損したぜ。でもこのままにされるのは困る、こちとら自殺我慢してまで楽しみにしてきたのだ。


つらい毎日が続きすぎたせいで、僕の感覚はいつしか狂ってしまったんだと思う。


勇気を出してだべっているおしゃべりグループの柊に話しかけようと近づくと柊はにらみつけて舌打ちをした。


僕の防御力はグーンと下がった!


防御力を下げられたら帰るしかないね!くそーゴムまで用意したのに。幸福の0.01ミリなんて嘘っぱちじゃないか!あの自販機はもう信じないぞ。


廃ビルに向かう途中で珍しくラインの音が鳴る。思わずびっくりしちゃったyo!


今どこ。


廃ビルの屋上で黄昏ている。


ちょっとカッコつけて嘘ついた。ばりばり歩道。まぁ目的地は一緒だから関係ないもんね。


廃ビルでやるの?変わってんね。


この瞬間、僕はDTからおさらばされることを確信した。しかも学校一の美人と。学校一かどうか異論は認めるけど上位なのは間違いない。神様ありがとう。今ならメッカに向かって三回は土下座ができるよ。


廃ビル屋上


とうとう彼女が来た。僕は胸が小躍りして、鼻の下が伸びてるかもしれない。もしかしたら僕のことが好きで告白されるかもしれない。そんな妄想もしたし、なんなら振るつもりでせりふも考えてきた。


柊は、思った以上にいい場所ねと言って服を脱いだ。


彼女の体はすらりとしていて芸術みたいに整っていた。だけど程よく丸みもおいて女性らしさも持っていた。白い肌は漆黒の髪と会い合わさって儚さと美しさを醸し出す


僕は、avの見様見真似で、前戯をして彼女を犯した。肌はしっとりしていて、胸は意外にも反発力が強かった。


終わった後は達成感となんかすごくスポーツ感覚で体を動かした疲労感が残った。彼女もあんあん言わなかったしほんとにこれでいいのかってくらいあっさり終わった。ぴえん。


地面かたいと痛いわー


柊はぼやきながら、制服を着ようとしている。


君はどうして僕と、、、その、、、してくれたの?


柊は不機嫌になりながら、人生経験と答え、続けてあんたなら言いふらさなそうだし、しぬならちょうどいいと思ったと、


自分に惚れてくれていないかな、って思ったんだけど、死ぬのがちょうどいいって、、、


逃げたいわけじゃなんだ。誰かを頼りなさいって、誰を頼ればいいんだ。散々その誰かに傷つけられてきたのに今更、、、助けを求めているくせに、自分からは行動できない。柊君は僕を救ってくれるのかい?


「僕ね、ちょっと前までは高いところすら苦手だったのに、、、今は死ぬのが怖くないんだ。僕が飛び降りて、肉が避けて、脳が砕けてぐしゃぐしゃになった姿を想像しても何も感じないんだ。」


「ふぅーん、

意地ばかり通して窮屈そうね。」


望む言葉を与えられなかった。


「どうせ死ぬなら私の下僕やりなさいよ。」


「え、やだよ。」


なに言ってんだ、こいつ。


「あ、そう、ざーんねん。」


身だしなみを整えた柊は何もなかったかのように屋上を後にした。僕の生きた印はどこにあるのだろうか。そう思って左手首を握った。


屋上から地上を見下ろす。今日は気分じゃないな。そう思って自殺は延期した。でもやっぱり怖くはなかった。


帰り道、僕と同じくらいの人が一緒にゲーセンから出てくる姿を見かけた。


自分が否定されているようだった。



「ただいま」


形骸化した音に対する返事はなく、家は静寂を返してくる。


父も母も平日は家帰ってこない。通勤時間すら惜しみ、ビジネスホテルで寝泊まりしている。


世間一般から見て、お金に余裕のある裕福すぎる家庭だったけれど、それに意味があるとは思えなかった。結局ないものねだりなのかな。


レトルトカレーとレンチンごはんで夕食を済ませ、ベッドで今日しゃべった文字数を日記調に記録する。


数えられるほどしかしゃべっていない、と気が付いた時があった。いつか声の出し方すら忘れるんじゃないか。そんなこと考えて始めた日記帳にしゃべったことを記録する習慣、今日はつけ始めて初めて一ページ埋められた。


コンビニで200円のおにぎりとお茶を買う贅沢。おにぎりとお茶はハンバーガーとポテト並みに相性がいい。鮭とおい茶なら最強タッグ。異論は認める。


授業を聞きながら、何か変化が欲しい、自分が変わることができないなら外的要因に頼ることは仕方ないことだろう。なんでもよかった、強盗が教室に押し寄せる、目の前で車に轢かれそうな人がいる、異世界転生でも可。


あまりにも授業がだるすぎて、ケータイを開くと見知らぬアプリが入っていた。ダウンロードした記憶はない。アプリ名は プロジェクト 復元


不思議に思ってアプリを開いてみると、画面は黒くなり、デジタルな数字が画面を埋め尽くした。


やば、ウイルスかと思って電源を切ろうとするけれど切れない。


悪戦苦闘していると、英雄ガチャ画面が表示された。ここまで来ても電源を切ることはできない。引くべきか、悩んだが、えい、ままよ、とガチャを引いた。Cという文字とともにホーム画面には小さなドット絵が現れちょこちょこ歩いている。2頭身のいかにも魔術師です、という姿恰好でかわいらしい。


そして画面中央下には「召喚する」の文字が点滅している。チュートリアルに従うようにクリックする。


目の前がまぶしく光思わず目を閉じた。


そんな環境の変化は待ち続けたところで来るはずがない。そう思っていたんだけど、今僕の目の前には僕のことを「シュ、、、ク、ン」としゃがれた声で呼ぶコスプレ少女がいる。声を出すのがとても辛そうだ。


全身を包んだ黒ローブ、顔はフードで隠されているがローブを押し上げる胸から女性だということが分かる。全体的なシルエットℌが細くスタイルがいい。


ワクワクした。これこそ僕が待ちわびていたものだ。


当然、周りから注目を受ける。周囲が騒がしくなる。ぼくは特別なのだと思ってすごく気持ちがいい。


「君は誰だい?」


僕が尋ねると黒ローブの魔女は「レ、、、ナ、、」とやっぱりガラガラな声で辛そうに答えた。


「なんだそいつ」


「えぇコスプレ?」


「何?マジック」


とクラスは騒がしくなる。僕が無視してスマホ画面をいじっていると、ほかの人もアプリに気づいたらしく。閃光がクラスにあふれる。どうやら僕だけの専用アプリじゃないみたい。


人通り召喚が行われるとみんなはそれぞれガチャのランクを競い始めた。


「Eなんだけど、、、」


「某はAでござるよ、でも男でテンションぶっちでござる。女がよかったでござるよ。」


「Dってあまりよくないよなぁ」


「俺はSとか絶対当たりじゃん」


どうやらリア充その1、松本君はSランクらしい確かに彼の召喚した英雄は明らかに強そうな機械少女だった。なんか後ろにオーラが出っているし、美少女だしメカメカしい白色の翼は輝いている。


反対にD、Eランクの人たちの英雄はよくて皮の鎧を着た大男、クワを持った農民とかだった。最悪の引きはしなかったけれど、レナには悪いけどよくもないって感じのガチャ結果っぽい。


クラスのござる系陰キャの田原君がAランクのケモミミのイケメン、柊がAランクの女聖騎士っぽいのを引いていた。Bランクが2人Cランクが4人、そのほかは全員D以下の明らかに弱そうな英雄だった。BCは脇役的という感じで、AとSは明らかに格が違う感じ。


先生は慌てて緊急会議を行いに教室を出てってしまった。ネットで検索をすると全国で似たようなことが起きているらしい。それと同時にダンジョンらしきものが現れ、そこから月夜に照らされた魔物が押し寄せ逃げ惑う人が大虐殺されている海外動画がSNS上で挙げられている。


にわかに信じがたい映像だった。ただ日本中でも急に出現したダンジョンらしきものが確認された。幸いにしてモンスターは出てきていないようだが、中に入った命しらずな配信者はその体を肉塊に変えた。


ダンジョンが現れたその日のうちにアメリカが緊急事態の宣言をすると、世界各国は混乱の渦に巻き込まれる。


校内放送で今日の僕たちは家に帰された。


Grurururugyaugyau


家の外では緑の肌をした小さな子人が手当たり次第に暴れまわっている。


その日の夜、日本でも海外の動画ような地獄のパレードが開催された。


息を殺し家に引きこもっていた。しかし最悪なことに窓が割られ中にモンスターが入ってきた。この瞬間ほど雨戸がない僕の家を恨んだことはない。


あんな機能使うわけないじゃんとバカにしていた過去の自分を罵りたい。超重要だよ、雨戸で命が救われるよ。


目の前にはゴブリンがいる。ファンタジーじゃ雑魚キャラのこいつらも殺意をもっていざ前にたたれるとどうしても足がすくむ。


Grrurrururgyarya


「くるなぁぁぁぁあ」


奇声を上げながら突っ込んでくるゴブリンを椅子でぼこぼこににして肉塊に変えた。ひどい刺激臭とともにゴブリンはくず鉄に変わった。


「なんだよこれ。」


死体が鉄に変わるのも意味わからないし、音を立てたせいか前から何匹ものゴブリンが家に入ってこようとしてくるのが見えた。


「待って待って待って、、、ちょ、たんまぁー」


叫びながらとにかくゴブリンから逃げ出した。なんなんだよあいつら、逃げ出した僕をせっせこ追ってくる。


「はぁはぁ、、、」


右に左に、時には塀を超え、ひとまず追ってきていたゴブリンを撒いて安心すると、今度はどこからか腹が揺れるほどの、どごおおおおん、とい爆発音がして地面が揺れた。


見ると遠くに家くらいあるやばそうな巨人が自動車くらいありそうな棍棒を振り回して住宅地を破壊していた。


中にいる人達のことはどうなるのだろう。おそらくひよこミキサーならぬ人間ミキサーとなっているのだろう。う、わぁ考えたら気持ち悪くなってきた。


こんな時でもSNSは欠かさない。スマホと僕は一心同体。まさに現代人の鏡だね。


ネットは有能だ。とどうやらモンスターはボスを倒すと撤退していくらしい、逆に言えばボスを倒さなければいつまでも人を襲い続け、街を更地にしてしまう。


実際にいきなりモンスターが暴れだした地域は今、昼であり、その中継映像を見ると町がいくつもなくなっていた。


さらに検索をすると、ボス討伐は主に英雄Aランク以上での討伐の成功例が多いこと、大人が召喚した英雄はよくてもDランクであり若い年代に高ランクの英雄が集中していること、、、、etc


レナを召喚すると彼女は周りを警戒し心配そうに僕の顔を覗き込んだ。かおはフードに隠れて見えないそれと女の子らしくない焦げ臭いにおいがした。


「レナ、あのでかい化け物倒せる?」


レナは悲しそうに首を振る。


「,,、ギ、、ガン、タ、、、ス、、Aラン、、ク、、ボ、、ウ、ケンシャ、、、ヒ、、ツヨ、ウ」


「何か弱点とかでもしかしたら討伐とかできたりしないかな?」


「、、シュ、、、クン、ニゲ、、、ルベ、キ」


僕は高台で街を見下ろした。町が更地に変わっていく。この街にある思い出がなくなっていくのを見るのは心が痛む。けれども何もすることはできない。


住宅から火災が起き町はさらに混迷を極める。Aランクのひとはまだ出てこないのか、、、


ギガンタスは歩みを進める。このままいけばあの廃ビルにまで行くだろう。


廃ビルはもともと父と小さいころに探検と言って上った場所だった。屋上でサンドイッチを食べて、家にかえって母にそのことを話したら父と一緒に怒られた。あの頃は父も母も家に帰って来ていた。いつからだろうか、家に人がかえってこなくなったのだろうか。


小学校から帰ってきたあと、父や母が帰ってくるのを楽しみにしていた。まだかな?まだかな?と待ちわびて、そして夕飯を全員で囲むのだ。


僕が小さいころ印象に残っている父との思い出がある。父は懸命にノーベル賞の流れるテレビに座って見ている。そして日本人の名前が呼ばれると大喜びするのだ。ほら見ろ!日本人の教授がノーベル賞を取った!すごいことなんだぞ!子供のように笑い喜んでいる父は初めて見た。


僕はいつしか科学雑誌を父にねだるようになった。そうすると父は嬉しそうにするのだ。嬉しそうにする父が好きだった。


母との思い出もある。母の日、家事を代行した。背伸びして洗濯物を取り込んで、料理も母と一緒に作って、お風呂を入れて、寝るときにありがとうって言われた。感謝の言葉が心地よくて、それ以来お風呂掃除は僕の役割になった。また褒められた方から。


だんだんと父は帰りが遅くなり、母と二人で夕食を囲むことが増えた。母の仕事も忙しくなるそうで、いい子だからお願いね、と言われてからは一人で夕食をたべた。


家帰っても僕一人だった。いい子でいなければならなかった。いい子でいればまた両親の笑顔が見れるんじゃないかと思った。


でもいい子になったところで臨むものは手に入らなかった。それから新しい思いでができることはなかった。


廃ビルはただでさえ少ない思い出の地といえるのだろう。壊されるのは勘弁願いたい。


僕にできることはほとんどないが、全くないわけではないのだ。


僕はスマホを開く。一狩り行こうぜ。


僕はギガンタスから離れたところに陣取り、ギガンタスに攻撃を仕掛ける。


「レイ、お願い。」


レイがギガンテスにファイヤーで攻撃した、足の皮が少しただれただけダメージを与えたようには見えない。だけど注意を引くことには成功した。方向転換し、レイに視線を向ける。


レイが続けて呪文を発動する。複数の火の玉を受けながら巨大なこん棒をレイに向かって振り下ろす。僕はその瞬間彼女をスマホに戻し、自分の近くで再び召喚する。その繰り返し。


僕は距離を取り、レイを瞬間移動させる。レイには、基本的に足止めの意味を込めて足を集中的に攻撃させた。レイの魔法も魔力を消費していく。徹底的な我慢比べ。少しでもギガンタスのスピードを遅らせるために足元を狙いつづけているが、決定打にかける。でもやり続けるしかない。


そして目的地に着いた。ガソリンスタンド、どでかい花火打ち上げてやる。予定道理ギガンタスを暴れさせ周辺は見る見るうちに特有のにおいに包まれた。


「レイ、いけぇぇぇえぇぇぇ」


レイの全力を懸けたファイヤー、その後、彼女は魔力切れを起こして倒れてしまう。放った帆脳波勢いよくガソリンに引火。僕の想像では大爆発が起きる予定だった。しかし燃え上がった炎はギガンタスを焼くには全然足りない。せいぜい学校のキャンプファイヤでめちゃくちゃ頑張った程度だった。


ちょ、予定と違う、、、


マッドマックスみたいに車が燃えて大爆発、なんて爆発は起きなかった。


「くそ。」


でも廃ビルから遠ざけることには成功した。あとは逃げるだけ、、、


があぁぁぁあん、


周囲が揺れる。


やべぇ、あいつ車投げてきやがった。命中精度は低いけれど当たったらもちろん一撃だし、当たらなくても近くであればがれきが飛んでくる。


遮蔽物に逃げ込み何とか振り切ろうとするけれど近くの建物をぶっこわしながら追ってくる。がれきが額に当たり血が流れる。やっこさん相当怒っているわ。そろそろ僕の体力も付き終わるかなーと思ったとき、女聖騎士がギガンタスを一刀両断した。


ギガンタスは真っ二つに割れ地面に伏した。


C級とA級の差を物語る一撃は、圧倒的な暴力で美しかった。


あっけない最期だった。


「助、か、、っ、、、た。」


「貸し一つだから」


どうやら僕のラインを見てきてくれたらしい。保険かけておいてよかったぁ。


息も絶え、柊が来た安心感からか、気を失った。


のちに第一次スタンピードと呼ばれる大災害は、発生から7日程で終息した。


といっても森の中や廃墟に討伐しきれなかったモンスターが残っている。地方の治安は一時期ひどいことになった。大人は強い英雄を持たず、学の持たない子供が主導権を握ってしまう地域も出てきたらしい。幸いなことに携帯が使えなければ英雄は召喚できないものであったから、通信を切れば使えなくなる。


自治権は大人が持てる体制であった。


混乱は比較的すぐ終息したと考えたい。ただ混乱が収束したからと言って元道理になるわけではない。


終息した次の日、例のアプリにアップデートが来た。地球上の市街地にセイフティーエリアができ、討伐ポイントで食糧などのインフラが買えるシステム、そしてタスクが解放された。


2週間後、歪だけれども日常というものが戻ってきた。高校生までは比較的高ランクの英雄が多く、そのため高校生がダンジョンを攻略することが推奨された。


もちろん反対する人もいたが、少ないセイフティーエリアで生活するには討伐ポイントが不可欠だった。大人たちは、あだ名やらゲームやら大人たちが危険と認識したものを僕たちから取り上げるくせに、明らかな危険に立ち向かわせるのはやはり自分のことしか考えられないのかと思わざる負えない。


まぁ、自衛隊とか、武器の生産やら憲法が邪魔してうまく進んでいない代替策らしいけど、、、


父も母も死んだらしい。というのも連絡はつかないし、家にも帰ってこない。いてもいなくても変わらんし実感がわかない。ひょっこり帰ってくるんじゃないかと思いながらいつも道理生活をしている。


そして、久しぶりに学校が開校された。


ボスを倒す手伝いをしたのだからめっちゃもてはやされちゃうんじゃないかとか思っていたけどそんなこともない。実際倒したのは柊だしね。


ただ心外なことが起きた。


「お前のせいで街がめちゃくちゃだ。」


「あんたのせいで親が死んだ」


「てぇめぇーが俺の家を壊したんだ。」


なんか僕がいたずらにモンスターをトレインしたことになっているっぽい。結果論としてそうなってしまったのだからぐぅのねも出ない。


正しいことをしたつもりだが結果が伴わなければ意味がないのだ。それは苦しいくらい身に染みている。僕はまたやり方を間違えたのだ。まぁ何もやらなかった奴にとやかく言われるのは心外だけど、、、


以前からいじめられていたが今回の件で免罪符を手に入れた彼らは明らかに攻撃性が増した。教科書がなくなることも増えたし、恐喝まがいなこともされた。人間って怖いね。


いじめられることにはとっくに慣れている。心はすでに疲弊し、その働きをとおの昔に終えている。そっれより心のことより別に心配事が増えた。


正直な話経済的にきつい。いやどこの家も職をなくしたりしているのだけれども、何とか経済が回り始めて仕事もちらほらある。けれど競争率が高くバイトの募集なんてほとんどないのが現状。


手元には母の財布のみ。何十万とは言っているとはいえ時期に尽きるのは子供でも分かることだ。


親の通帳とか暗証番号知らないし、、、一応父と母が行方不明なことは警察に伝えたが、政府も警察もその活動を十全に行えているかというと疑問ができる。


モンスターを討伐すると自然にもらえるポイント、これは例のアプリを通じ、いろいろなものに換金できるのだⅭ級英雄がいるのだから使わない手はない。


僕はそのシステムに期待した。だけれども


レイではダンジョンのモンスターを倒すのには十分だが、火力も魔力も平凡で放課後だけの稼ぎだけで食べていけるほどの討伐ポイントを入手するのはちょっと無理があった。


本気で食べていくんだったら戦力強化はしときたい。目を付けたのが討伐ポイントで手に入る魔導書、タスクで入手できる召喚石。


ダンジョンの制覇で召喚石がもらえる。僕が攻略できそうなダンジョンは競争率も高いだろう。判断の速さで回りと少しでも差をつけておきたかった。


学校からはほどほどに遠い桐生ダンジョン。大学キャンパス内に現れたダンジョンで出るモンスターのランクがとても低く、立地が悪いため競争率も低い。僕にとって最適なダンジョン、ここを攻略しない手はない。金属バット片手に攻略へと乗り出した。


ダンジョン一階層は、ゴブリンしかでない、ゴブリンの見た目は恐ろしくあるが、しょせんの子供程度の力しかないので僕が金属バットでタコ殴りにすればいい。


本番は二階層から、ここでもゴブリンは僕が相手にするが、魔犬と呼ばれる目の充血した犬をレイの魔法で討伐する。


バットはレンジの長い武器であるけれど疲れてくるとさすがにあちこちでスキができ、ひっかき傷やかまれ傷が増えてくる。一日大体2700ポイントの討伐ポイントを手に入れたところで僕らの体力は限界にきた。ジャージはボロボロでところどころ血だらけであったけれどポイントはいつもの三倍手に入れることができた。この調子。


「レイ、今日はこのくらいにしとこうか、、、さすがに疲れた、、、」


「、、、」


血だらけでにおいもひどかったから、帰るとき人に避けられるのはつらかったけど、、、


家に帰ってもやっぱり人はいない。


「ただいま。」


とりあえずシャワーを浴びた後、200ポイントを使って2人分の弁当を買う。レイは英雄で食事は必要としないのだけれども、夕食を複数人で囲むっていう僕のわがままに付き合ってもらった。


レイと一緒に夕食を囲んだ。


次の日も桐生のダンジョンに向かう。


昨日よりも効率よく稼ぐため、3階層、4階層と進んだが、5時階層には魔狼が出てきた。


「レイ、ファイヤーお願い。」


レイの放ったファイヤーは魔狼にかわされてしまう。


そのままの勢いでレイに襲い掛かろうとする。僕は例の正面に回り金属バットでフルスイング。あたった場所が足であったため殺すことはできなかったけど、レイがすかさずファイヤーでとどめを刺してくれた。


魔狼の死体はやっぱり鉄に変わった。


「ゴ、メ、、ンナ、サイ、、、」


きっと、魔狼にかわされたことを気にしているんだろう。


「レイ、ありがとう、おかげで5800ポイントも稼げたよ!今日はごちそうにしよう。」


僕はレイの頭をフードの上からわしゃわしゃしてレイはフードが取れないように必死に抑えていた。




帰りにケーキと牛肉、そしてのど飴を買って帰った。


学校から連絡は来ていたが無視して今日もダンジョンに行く。目標は魔狼の安定討伐。討伐ポイントは魔狼が圧倒的に高い。ゴブリン10、魔犬50に対して魔朗は500ぜひとも安定して枯れるようになっていきたいものだ。


大体レイは魔法を一日20発程度は打つことができるから魔狼にレイのファイヤーを直撃させられれば一日一万ポイントためることができる。これは大きいはず。


ちなみに魔導書は50万ポイント必要だから先は長い、、、


「レイ!じゅんびして!」


そう声をかけると突っ込んでくる魔狼にフルスイングをぶつける、奴らバカだから獲物を見つけると直進してくる。ひるんだところをファイヤーで黒焦げにするのだ。


5階層の魔狼は幸いにして一匹出てくることが多く僕が足止めしてレイがとどめを刺す流れをつかめてきた。もちろんけがもするし、、魔犬と比べ、傷口も深くなっていているがまだ続けられそう。


そんな時後ろから話声がした。ここ立地が悪いし近くに高校とかないから学生少ないし、、、めづらしいなっと思ったらリア充その1松本君だった。その後ろにはカースト上位グループの姿。


そっか、今日は休日か、、、


「うわぁ、ほんとにいるじゃん。学校行かないで何してんの。


あぁ学校に居場所ないのか。」


「、、、」


情けない姿をレイに見せたくなくて彼女をスマホ内に戻した。やっぱり彼らに話しかけられると恐怖心がわく。


「服とかボロボロじゃん、そこの英雄が弱いからまさか自分で戦っているの。」


「、、、」


うつむくことしか出来ない、だって地面にお金落ちているかもしれないし、、、


「ダンジョンの攻略はね、英雄に任せるのが基本なんだよ、こうやってね。」


松本君は機械少女を召喚すると一瞬で魔狼を討伐してしまった。


「こいつら死んでも次の日には甦るし自分で戦うとか馬鹿でしょ。

噂の確認も取れたしお前らかえろーぜ。」


どうやら松本君は、僕がこのダンジョンに入り浸っていることをしってきたみたい。変えってくれるならありがたい。ほっとしたとき松本君はひどい笑い顔でこっちを振り返った。


「あぁそうだぁ、おまえポイントよこせよ。学校いかないで貯めてんだろう?」


「ご、、めん、使っちゃって貯まっていないんだ、、」


「嘘ついてんじゃあねーよ。」


「ほんとにないんだ。」


「今日討伐した分があるだろうが」


「無理!!」

だってあのポイントをためたのは僕だけじゃないから、


全力で渡すことを拒否ってたら最終的にあきらめた。粘り勝ち。今なら超高級納豆にも粘り気で勝てるかもしれん。


「萎えたわぁ、かえろ。、、、、エシルヤッチマエ」


そういうと松本君は元来た道を帰り始めた。同時に機械少女の


「すまない」


という声と同時にぶっ飛ばされ壁に叩きつけられた。


目を覚ますとそこは病院のなかで、検査された後だったらしい。全身傷だらけだが骨折、靭帯の損傷などはしておらず入院する必要はないのだそう。完治には時間がかかるらしいけどね。


医者にお礼を言って家に帰る。ラインには柊から貸し一つとメッセージが送られていた。


レイを召喚してご飯を一緒に食べる。初めは遠慮していたけれど、今じゃおいしそうにご飯を食べてる姿を見て、英雄を使い捨てにする戦い方はやっぱ信じられない。



頬いっぱいにご飯をためて一生懸命呑み込もうとしてる、のどに詰まらせかけて慌ててる。その姿はいかにも人間らしい。


デザートにのど飴をあげた。レイはやっぱりおいしそうに食べた。


正直、体中が痛くて今日はダンジョンに潜る気が起きない。せっかくのゆっくりしようと思ったのに柊から呼び出しがあった。


「今どこいるの?」


「家です。」


「場所教えて」


「いやです。」


「貸し。」


「、、、、ここです。」


ラインにマップを貼った。


そういえば僕柊に貸し何個あるんだっけ。返済期限とかないよね?


柊は私服でやってきた。スタイルの良さを強調したワンピースは、柊の良さをよく引き出していた。


「お邪魔しまーす。」


「えっ!?」


柊は自分の家にでも入るこのような当り前さで家に入ってきた。


「いや、入ってくるの???」


「なに?散らかっているの?」


「いや、そんなことはないけど。」


キッチンもリビングも散らかってなどいない。使う人がほとんどいないからね、、、


「随分、広い家ね、兄弟とかいるの?」


「いないよ。」


「ふぅーん、まぁまぁね。」


まぁまぁって、人んち勝手に入ってきてお世辞も言わないのかよ、、、


「あんたの部屋は?」


「今日は何の用出来たの?」


「あんたの部屋は?」


「今日はどうしてきたの?」


「あんたの部屋は?」


NPC!


仕方なく案内した。特にみられて困るものもないし、ただ女の子を部屋に上げるのは緊張する。


「何にもないじゃん!」


部屋にはパソコンとゲーム機とベッドしかない。でもほかに必要なものがあるとは思えない。たぶん、モノをねだらない子がいい子だと親から言われてきたから、、、ものを欲しがってはいけないと自制してきた結果。


自分が嫌いだ。


「パソコンあれば生きていけるよ。」


結局その後、彼女はそのままずっと家に居座った。といってもスマホをいじっているだけ。


「もうそろそろ帰りなよ。外も暗くなってきたし、、、送っていくからさぁ」


「あんたの親まだ帰ってこないのね。今日休日よ。」


「死んだんじゃない?大災害から連絡ないし。」


「はぁ?ふぅーん、へぇー」


柊は、いちいち顔を変えながら悪そうな顔をして


「じゃあ帰るわ、また今度ね。」


といって帰っていった。


何だったんだあいつは。



「今日は本調子じゃないし、魔犬狩りをメインにしていこうか」


相変わらず桐生ダンジョンには人がいない。平日だしね。まぁ、周りに人が多いとやりにくいしありがたくはあるんだけれども。レイにのど飴をあげた。やっぱりおいしそうに食べる。


魔狼を相手した僕らにとって魔犬は所詮いぬっころで、前よりも簡単に倒すことができてしまう。初めのほうとか、傷だらけになって死にかけていたのに慣れってすごいわ。


ついつい興が乗ってダンジョンに潜り続けていると電話が鳴った。珍しい。群馬でツチノコが見つかるくらいの確率じゃないだろうか。つまり僕に電話してくる人がいることがあり得ないってことなんだけど


と思っていたら電話主は柊だった。


「もし、、、」


「あんたどこにいんのよ。」


桐生だけど


「今すぐ戻ってきなさい。」


「えぇ、、なんで。」


「いいから早く。」


あの様子だと僕の家に来て誰もいなかったから電話よこしたって感じだよな、、、リア充軍団が家囲んでるかも、もしかして柊に家教えたの間違っていた?


想像が膨らんで冷や汗が出た。


そう思いつつけど、後々のことを考えると無視することもできなく家まで帰ると柊が玄関で座っていた。


「遅い。」


「急に呼び出すからだよ。」


彼女は、キャリーバックを持っていた。


「あんたんち止まるから。」


「意味わからん。」


「貸し。」


いや、それとこれは違くね?


それとこれって何よ


いや、おかしいでしょ。


家族も心配するだろうし、


家族全員しんだわ。おかげで親族たらいまわし。もう疲れてきたからあんたんち泊まる。


理由になってないけど


めんどくさいわね


いや、、、大切なことじゃない?


とにかく決定事項、あとこれ返すわ。


そう言って彼女は僕に召喚石を渡した


これって


ボス倒したときに出てきた、どうせ私使わないしあんたが使えば。


召喚石はごくまれにボスからドロップ例があったがその希少価値から一個何億円という価値で取引されていた。アメリカと中国はその財力を使って召喚石を集めているってい噂もある。


喉から手が出るほどほしいけれど


「これは君が手に入れたものだ。」


いま僕の心はハンカチを口で引っ張てるよ。きぃぃぃーーー


「弱らせたのはあんたでしょ、メルティアもこれはあんたに与えるべきって言ってたわよ。

もちろんただじゃない、貸しだからあとで返してもらうわ。」


うへぇ、でかい貸しになりそう。でも誘惑に耐えきれず召喚石をもらってしまった。一度我慢したんだ、これ以上は失礼だし、拒否したらほんとに後悔しそう。


ありがとう、、、、


後で返してもらうからいいわ。あんた普段なんて呼ばれてるの。


呼ばれてないな、、、同級生はだれも僕の名前を呼んでくれない。先生が苗字で読んでくれることがあるくらい。


「、、、月島」


「名前は?」


「楓。」


「カエデ、これからよろしく。」


夕食は、柊とレイとメルティア全員で食べた。みんなで食べたほうがおいしいしね。


デザートにのど飴をあげた。


そして同棲するにあたり、問題、、、


「あのぉ、柊さん、お風呂はどうなさいますか?」


「先入るわ。残り湯飲んだら殺すから。」


「、、、僕シャワーだから入った後抜いてくれればいいよ。」


「ふぅーん。わざわざ入れたんだ。」


にやにやしながら柊は言った。うぜぇえ。


冷静になった一日をさすがに意味わからん。昨日まで女の子と話したことが数えるくらいしかったのに今同じ屋根の下。ベッドに入ってもなかなか寝付けない。


寝付けないでいると部屋に柊が入ってきた。寝ていると思ったのかもしれない。柊は何も言わないでベッドに潜ってきた。


ぎゅっと僕を後ろから抱き着く、顔をうずめた彼女は背中越しでもわかるくらい震えていた。


大丈夫?


そういうと彼女は首を甘噛みしてきた。


朝起きると彼女は家を出ていた。柊はおんなじシャンプーを使ったはずなのにベッドは女の子のいい匂いがした。




召喚石は使うか迷った。本当に使っていいのか。もらったから使いますって程、僕の肝は太くない。高価すぎて結局悩んで使わないでおくことにした。


今日も楽しく仲良く元気よく、桐生のダンジョンに挑みまする。目標は6層どんどん先に進んでいきたいね。僕たちはAとかSランクの人達に比べて効率よく回すことはできないから、、、


そういえばアメリカは30個近く、中国は20後半のダンジョンを攻略したらしい。先進国も軒並みダンジョンを攻略している。日本は少し遅れた形だが、攻略隊としてSランクの英雄を募集し始めたらしい。


マスメディアはあおるように各国のダンジョン踏破数を報道し、ダンジョンを攻略する者たちをたたえ始めた。


時代は英雄を必要としていた。


その影響もあってか桐生ダンジョンにも人影がちらほら表れ始めた。


正直な話。僕が攻略できそうなダンジョンは数えるほどしかない。このダンジョンなんかは特に難易度が低くAランクの人が何人か集まるだけで簡単に攻略されてしまうだろう。タスク報酬として召喚石をもらうためにもぜひとも攻略したかった。


レイ、今日はできるだけ上まで登ってみようか、、、


レイの魔法を温存して、6階層までいく。。もちろん出し惜しみをする気はないけれどかといっていつまでものろのろしていたら先を越されてしまうかもしれない。チャンスは時間とともに無くなっていくんだ。


8層に到着


レイの魔法もまだ10発は打てるほとんど最高の状態といっていいだろう。


前方には5匹の魔狼


「レイ、引き締めていこうか。」


相手も気が付いたようでこちらへ駆け出してきた。


、、、


レイのファイヤーで2匹をつぶした。


残り三匹、魔狼たちはお互いに距離を離し僕らの周りを旋回し、駆け抜ける。



前を張る僕と後ろで攻撃するレイの陣形が崩れかけていた。


一匹がレイに向かって、その強靭なあごで腕をかみ砕こうとする。レイに気を取られた瞬間残りの二匹が同時に僕へととびかかってきた。一匹はかろうじてバットで殴り飛ばせたが、もう一匹にのしかかられてしまう。


目の前に、赤く光った鋭い眼光。鋭い牙が僕の首へと狙いを定めて迫りくる。


とっさに首へ噛みつこうと開く口に慌てて左腕を突っ込んだ。


「うぐぅ、、」


魔狼はさらに力を籠め骨ごとかみ砕こうとする。やばい、痛い、やばい、やばい、やばい


ほとんどパニック状態になりながら右手で奴の目玉をえぐった。ぶちゃぁ 嫌な感覚とともに目をつぶす。さすがの魔狼もとび下がる。そこへレイの魔法が追い打ちをかけゲームセット。


腕がパンパンに腫れ、一ミリも動かせないが、痛みはない。きっと、もっと後から痛くなるんだろう。


まぁ結果といえば上々だ。だけど8層からは魔狼が複数体出てきたし、単純に突っ込んでくる魔狼も減った。連携されるだけでこんなにきつくなるのか。


足や急所を狙われて行くのは困難を極める。さすがに連戦は避けようと思って帰り支度をしたとき、ダンジョンの奥から車みたいな大きさの狼がこちらへ走ってくるのが見えた。あれはやばい。一目見ただけでわかるほどの存在感がある。


レイもそう感じたのだろう。


「シュ、クン、、、ニゲ、テ、、、」


そういうとレイは僕の背中を出口へと押した。小さな少女は狼と向き合った。


その行動にイラっと来た。


舐めるなよ、レイ、女の子一人で死地に向かわせるほど落ちぶれてもいないし、こちとら自殺願望者、命なんか惜しくないんだぁよ。


レイを押しのける。アドレナリンがどばどば出ているのを実感できる。それくらい感覚が研ぎ澄まされていく。


しかし心奮い立たせていざ対面するとやっぱ怖い。レイは近づかれる前に決着をつけようとファイヤーを放つがあまり効いているようには見えない。長期戦は覚悟しといたほうがいいか。


とりあえず受け止めるのは無理そうだから、ヘイト買いながら躱していく。車をよける感じに近い、疲労もピークだった僕はたちまちぶっ飛ばされた。


体が自然と受け身を取った。


何度目かぶっ飛ばされたとき、さすがに体がうまいように動なくなっていた。目がかすみ、骨の髄まで痛みが回る。ハンマーで殴られたような痛みが自脈とともに襲ってくる。気絶出来たらどんなにいいか、、、


注意力が散漫になるのを感じる。


レイの相当数のファイヤーを打っており、魔力も付きかけていると思う。


あーぁ、だめかもしれん。もちろんほかの人に比べればすごいといわれるわけでもないだろうが、よく頑張ったのではないだろうか。どうせ自分ごときが何かしようとしたところで無理だったんだ。


どうせ無理。とても簡単な言葉で、諦めを正当化させる言葉。


「シュ、、クンサ、ガ、ッテイテ、、、クダ、サイ。」


レイは僕の前に立っていた。彼女は明らかに華奢でそれこそあらしが吹けば飛ばされてしまいそうな体をしているのに、、、


レイは諦めていなかった。


僕はスマホを出して召喚石を使おうとする。


「大紅蓮の皇よ。我が魂をもって、願いを叶えたまえ。カタカナルビ振り結界魔法  紅蓮の黎明(インフェルノ)」


それは少女の、青年を助けたいというささやかな願い。


代償はその魂。


辺りでは溶岩が噴出し、空さえも赤く燃える。この世の地獄の一つが目の前に広がったあった。


魔力の代わりに魂を使い、己の存在を焦がしながらも、対象を燃やす。


ア“ッァ˝ァ˝ァ˝


次第狼は燃え尽きた。


「っ、、レイ」


ほとんど本能的に彼女は青年のもとへ向かう。


少女の目は焼かれ、肌はこげ、五感はその役割を果たさない。


それでも少女は青年が感じられた。


出来るならば、もっと一緒にいたかった。とそう口ずさんで。そして少女は青年の胸の中で灰になった。


枯れたのどは空気を揺らすことは叶わなかった。


しかし少年には確かにその声が聞こえた。

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いじめられっ子はC級英雄と学校一のの美人ともに変わり切った現代社会を生きぬきます。 @inkyaneko

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