遊園地の行列待ちでツラい過去の打ち明け話とかされたらどう反応すればいいんですか?!
色々モヤモヤしていたけど。
お師匠さまに正式に講師を依頼させていただき、連休明けに最初の講習会が開かれることになった。
そのあとのお稽古では、お師匠さまに特に変わった様子はなかったし、私の思い過ごしなのかな?
ゴールデンウィークになって。
今日は、1時間ほど電車を乗り継いでちょっと遠出。
リクに言われた通り、今日はカジュアルな服装で。
リクはこの間の高村先輩のコーディネートにプラスアルファして、薄手の濃青のパーカーに、淡い青のTシャツと、ボトムはウォッシュ加工のスリムジーンズに白のスニーカー。
オーソドックスだけど、リクが着るとメンズ雑誌の「イチオシコーデ」みたいに決まる。髪型は無造作に前髪下ろして、顔は素顔。
普通なのに、平凡なのに、何でこんなにカッコいいんだろう?
隣に並ぶと、ちょっと引け目を感じる。
私もリクに合わせて淡いピンクのパーカーに白Tシャツ、ボトムは濃ブルージーンズのミニスカートにスパッツと白スニーカー。
髪の毛は今回は両サイドで編み込みおさげ。お姉ちゃんがやってくれたんだ。
「めちゃくちゃ可愛いけど、生足が良かった」
「思いっきり遊べなくなるし。ホントはジーパンにしようと思ったのに、リクが言うからスカートにしたんだよ」
「うー、まさかこんな防衛策を取られるとは、不覚」
「またそういうこと言うし。何かあった時、リクじゃない人に、スカートの中とか見えちゃっていいの?」
「ダメ! 絶対! ……そうか、そういう時、俺は見られないのか! サホ、英断だ。俺以外に見せちゃダメ」
リクはどうしてもこういう会話を挟まないといられないのかな?
「最近サホは冷静に対処してくるからなあ。言葉責めのしがいがない」
「リク! 言い方! 恥ずかしいから!」
「あ、やっと照れてくれた」
……楽しんでるわけね。スルーしよう思ったのに、結局翻弄されているし。
電車に乗り継いで着いた先は。
地元では結構大きな遊園地。
さすがに混雑しているから行列もできている。
「サホ、最初はどれに乗りたい?」
「うーん、ジェットコースター乗りたいけど、待つよね」
「どうせどれも混んでるし、おしゃべりしながら待てばいいよ。じゃあ、まずジェットコースター行こうか」
今日もリクとは手をつないで歩く。まわりもそんなカップルが多いせいか、この間よりは恥ずかしくない。
予想通り行列だったけど、確かにおしゃべりしながらなら、わりとあっという間だった。
普段、リクとは直接おしゃべりできないし、話したいことはいっぱいあったし。
「へえ、じゃあ、この間のツツジの写真を見て、すぐに拵えてくれたんだ。まだ食べられる?」
「うん。5月半ばまではお店に出すって」
「ずんだ餡か……想像しただけで旨そうだな」
「美味しいよ。豆も産地にこだわってるし。だから春夏限定なの。お父さんのこだわり」
「サホのお父さん、すごいよな。あと、秀さん、だっけ? この間の押し物といい、若いのにホントいい
「うん。将来のお義兄さんになる予定」
「ってことは、俺の義兄にもなるわけだな」
「……気が早すぎるよ、リク」
冗談でなく、結構本気なのが分かるので、始末に悪い。いや、それだけ私とのことを真面目に考えてくれていることは、まあ、嬉しいんだけど。
愛が重い……なんてね、ちょっと言ってみたかっただけ。
この間、ヤキモチ妬かれた時もそうだけど、困る気持ちと、ついにやけてしまう変な嬉しさが同時に押し寄せて、こそばゆい心持ちになる。
乙女心は複雑なのサ。
「でも、前の桜の押し物の味や色も、豆にこだわっていて、ホントに職人さんてスゴいよな」
「ああ、花豆の、ね」
桜の押し物の秘密をリクに教えたら「そこは盲点だった!」って、悔しそうにしていたもんね。
白花豆で作った白餡に、赤い花豆の煮汁を練り込んで淡いピンク色と味の深みを出していたんだって。
ただ混ぜても発色は上手くいかなくて、かなり試行錯誤はしたって聞いた。その割合とかは企業秘密(というか、私はたぶん聞いても分からないけどね)。
「秀さん、休みの日には他の地方とかにもお菓子の食べ歩きに行ったり、ちょっと暇があると植物園とかにスケッチに行ったり、ものすごい勉強家なんだよ。今度、リクに古文のことも教えてもらいたい、って言ってた」
「え? 俺との付き合いのこと、言ったの?」
「まさか。単に、茶道部の顧問の先生ってことしか言ってないよ。古文のこと、分かりやすく教えてくれるよって言ったの。和菓子の意匠に万葉集とか源氏とか、そういう雅な風情も参考にしたいんだって。あと、個人で薯蕷饅頭30個も頼むなんて、よっぽど和菓子好きなんだって、喜んでいたよ」
普通は呆れると思うんだけど、ああいうところ、秀さんも和菓子バカだよね、ってお姉ちゃんと笑ってしまった。
「いや、マジ、俺も会いたいな。絶対楽しそう。早く、堂々と会えるようになりたいな。未来の義兄弟として」
「だから気が早いって!」
おしゃべりしているうちに、いつの間にか行列の先頭に近付いてきた。
「サホ、高いとこ、大丈夫?」
「うん、リクは?」
「高いとこはいいけど。こういうのは、初めて乗るからな」
「え? ジェットコースター、乗ったことないの?」
「そもそも、あんまり遊園地とか来たことない。そんな風に休日に遊びに行く友達もいなかったし。俺、わりと陰キャだったから」
「家族とも?」
「うちはそういう雰囲気、なかったからな。あ、でもすごく小さい頃、1回だけランドには連れていってもらった。母親と、たぶん母親の友達? よく覚えてないけど、きれいな女の人が一緒だった気がする」
「お父さんは?」
「いつも仕事だったからな。まあ、そもそもうちは政略結婚みたいなもんで、夫婦仲冷えきっていたし。しかも、俺は実子じゃないから」
「え?」
「母親の兄弟の子供なんだよ。俺。事情があって引き取られたんだ。でも、母親は俺を大事にしてくれたよ」
なんだか、さらっと重大な過去を打ち明けられてしまった。
「そんなに深刻な顔しないでよ。別に子供の頃から知ってたし。母親の兄弟は、皆気にかけてくれていたし。まあ、父親は、他人行儀なままだったけど。その分、伯父貴が構ってくれたから」
笑顔のリク。特に強がっている風でもないけど。
伯父さんとか、お母さんの兄弟が大事にしてくれたってのは本当なんだろうな。
この間も薯蕷饅頭持っていったりしてたから、きっと関係は良好なんだろう。
でも、戸籍だけとはいえ、同じ家で暮らすお父さんにあたる人が他人行儀って、なんか寂しいな。
「だから、そんな顔するなって。ゴメンな、こんな時に、こんな話、しちゃって。いずれは話さないといけなかったことだけど。何か流れで……ホント、空気読めてなくて、ゴメン」
「ううん。教えてくれたのは、嬉しいよ。家族の話題振ったの、私だし。……へんな反応して、私こそゴメンね」
「サホが謝ることないよ。サホの家族の話とか、すごく楽しいし。それに、なんだかんだでサホとかサホのお姉さんを溺愛してるっていうサホのお父さん、いいなって思う……まあ、結婚は認めてもらわないと困るけど」
「それは……結構難関かもしれないね」
「マジか?! 本気で攻略方法考えないとなぁ。そのためにも、沢山情報欲しいから、もっと家族の話、聞かせてよ」
その言葉は、ふざけているようだけど、リクの気遣いとか、照れ隠しとかも感じた。
「うん。沢山話してあげる。だから、リクの話も……リクがいいと思ったら、聴かせてね?」
「……サホは、優しいな。ますます惚れ直しちゃうよ。この思いをこめて濃厚なキス、しちゃうよ。後でね」
もう! だから、こう言うところでそういうこと言うのは、恥ずかしいからやめてよー!
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