ムリヤリ断行のデートなんてちっとも楽しみじゃないんだからね!
新入部員も無事に確保し。
とりあえず首の皮一枚繋がった茶道部。
10人も入部すれば安泰でしょ? って思うでしょ。
実はそうじゃないんですよ。
今回の入部は仮入部。
実はこの期間は入部届なしに口頭で申し出るだけでいいの。
で、一週間のお試し入部をして、入部の決心が固まったら入部届を提出して本入部になる。
入部届には保護者と担任の署名も必要なので、ここまで来るとそうそう辞めることはない。
(実は去年まで兼部していた部活も、厳密にはまだ退部していないの。ただ人数カウントのために、主たる部活を決めさせられただけ)
なので、仮入部の一週間は、どこの部活も先輩達が超優しい。
私も楚々としたお嬢様の仮面を被った遠藤先輩に騙されたもん。
「そういうわけなので、約束はまだ先ですよね? まだ入部確定していないし」
「なんで? 別に新入部員が入ったら、なんて約束じゃないだろ? もう饅頭は注文したんだし、これで契約完了のはずだ」
「そもそもそれがおかしいですよね? お饅頭のおまけに私っておかしくないですか?」
「おい! 声大きい! ……じきに新入部員くるぞ?」
あ、いけない。
今までは事情を知っている先輩達だけだったから、好きに話せたけど、今日からは一年生も入ってくるから、うっかりしたことは話せない。
ここは茶道部の部室として使っている作法室。
遠藤先輩と高村先輩が昇降口に新入部員をお迎えに行っている間に、私は作法室と広間とつないで広げている。あと、座布団も出さないと。
私が押し入れに向かうと、千野先生も座布団運びを手伝ってくれる。
二人で人数分の座布団を並べたあと。
「中沢、スマホ出せ」
「へ?」
「スマホ、持ってるだろ?」
「ありませんよ」
「は?」
「だって、校則で持ち込み禁止って決まってるじゃないですか? 先生、知っているでしょ?」
「……そうだったな。っていうか、守ってるのかよ?」
「先生がそういうとこ言っていいんですか? まあ電車バス通学の生徒や夕方塾や習い事のある生徒は、届け出すれば電源切って持ち込めますし」
「中沢は徒歩か……」
「はい。徒歩15分なので、持ち込みは許可下りません。習い事は日曜日だし。塾は行ってないし」
「……家にはあるんだな?」
「あります」
「じゃあ、これ」
先生はメモ帳に何か書き込むと、そのページをちぎってよこす。
「家に帰ったら連絡入れろ。絶対な。約束守らなかったら、国語と古文、減点だからな」
「だーかーらー! そうやって授業に結びつけるのは止めてください!」
「提出物出さないと減点になるからな。同じことだ」
「どうして私だけ提出物を増やすんですか?!」
「……提出物がどうしたんですか?」
遠藤先輩が、笑顔で入り口に立っている。
笑顔だけど……目が笑ってないよ。
余計な話をするなって、無言で言っている。
「いや、中沢に提出物出さないとペナルティだぞ、って説明していただけ」
「ちゃんと出してます! 万葉集だって古今和歌集だってちゃんと調べました!」
「……中沢さん、そういうお話は教室か国語研究室でしてくださいね? 今は部活の時間ですから。千野先生も、お願いします」
「ああ、済まなかったな。待ってるついでに、つい」
もしかして、わざと国語だの古文だの言ったのって、こうやって話の内容を誤魔化すため?
先生、始めに言っておいてよ……まあ、知ってて私が上手く誤魔化せるかというと、あんまり自信ないけど。
「では、こちらが主な活動場所の作法室になります。今日は人数が多いので、広く使っています」
高村先輩が一年生に説明して、靴を脱いで上がるよう指示する。
うわー、とか、へー、とか声が上がる。
何人かは千野先生をチラチラ見ながら、小さくキャーキャー言っている。
「今日は初日なので、顧問の千野先生もおいでいただいておりますが、普段の活動は生徒のみです。他に月一回外部から講師をお招きして講習会が開かれます」
途端、何人かから落胆の声が上がる。きっと千野先生目当ての子だ。ちゃんと続くかな?
……続かなかった。
あのあと、一通り説明されて、千野先生が退室すると、明らかにやる気がなくなった子達がいて。
次の日の部活には、もう顔を出さなかった。
残ったのは4人。
ギリギリだ。
でも。
「あの、新歓で出されたお菓子って、中沢先輩のおうちのものなんですよね?」
「とっても美味しかったです。それに綺麗で。茶道部に入ったら、また食べられますか?」
なんて、嬉しいことを言ってくれて、きっと本入部してくれると思う。
「ええ。毎日とはいきませんが、講習会や折々のイベントにもご用意させていただきます。来週、新入部員歓迎の茶会には、特別に限定の薯蕷饅頭を先生が用意して下さいましたから、楽しみにしていてね」
私も先輩らしく、気合いを入れて受け答え。
……しまった! これでデートの約束、守らなくちゃいけなくなったじゃない?!
『で、中沢はどこ行きたい? 映画? カラオケ?』
昨日千野先生のメモ帳の端切れに書かれた連絡先に、ちゃんと連絡を入れ。『明日また連絡入れるから即返信』という脅迫的な返信が来て。
今日家に帰ると早速メッセージが来ていた。
前置きなく、いきなりデートの話だよ。
『下心見え見えですよ。何で暗いところとか個室ばっかり選ぶんですか?』
『じゃあ、遊園地? 観覧車とか』
『何で観覧車限定なんですか?』
『個室だから』
……返信する元気がなくなってきた。
『おーい? スルーするなよ? いいよ、中沢の行きたいところならどこでも』
『何で譲歩してやってる、みたいな雰囲気なんですか? あと、当日は高村先輩のお宅に寄ってから行くようにって指示ですよ』
『何で?』
『先生をコーディネートするって浮かれてましたよ』
『ああ、何か言ってたな。めんどうだな』
『行かないともっとめんどうですよ。高村先輩は滅多に怒らないけど、怒らせたら超怖いらしいですから』
『らしい?』
『って、遠藤先輩が言っていました』
『そりゃ怖いな』
とりあえず行き先は明後日の土曜日までに考えておくことにして。
服装、どうしようかな? もし遊園地に行くなら、動きやすい方がいいかな?
高村先輩が先生をどんな風にコーディネートするか聞きたいな。
………って、別にデートを楽しみにしているわけじゃないんだから!
久しぶりのお出かけが楽しみなだけなんだから!
久しぶりのお出かけだし、せっかくだからおしゃれしたい。……ん?
そうだ! あれにしよ!
で、いよいよ当日を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます