悪魔の囁きに違いない!
「ああ、話は聞いてるよ」
「だけど茶道に関しては、全くのドシロウトなんだけど……」
「大丈夫です! 茶道の基本は私達部員で練習いたしますし、外部の方に長年講師をお願いしてる方がいらっしゃるので、特別難しいことはございません。先生には、たまに様子を見ていただくだけで結構ですから」
「あ、大丈夫。なるべく関わるようにするから。アドバイスなんて無理だけど、
にっこり。
「えっと、君が部長の遠藤くんだね。それから……」
不意に千野先生は視線を移した……私に向かって。
「うちのクラスの……中沢、だったよな。部長より君に頼むことが多いかも知れないから、色々教えてくれよ」
ハハハ……。
ちょっと照れた感じの、笑い声。
まだ、顔と名前がうろ覚えで申し訳ない、という感じで。
……いたたまれない。
遠藤先輩に肘でつつかれて、あわてて小さく、ハイ、と返事をする。
「あ、ついでに部室にも案内してもらえるかな。まだ校内よく分かってないし、場所も覚えておきたいから」
「あ、では、この子に案内させますわ。私、生徒会でまだ打ち合わせがありますので」
え?
「頼むよ。中沢」
えぇ!?
先生と……ふたりで?
黙りこくって、部室のある校内の外れに向かって歩く私と千野先生。
特に話しかけて来る様子がないことに、私は少し、ホッとしていた。
だって、何話したらいいの?
『私にキスしたこと忘れちゃったんですか?』
なんて、まさか聞けないし……。
と、うだうだ考えているうちに、部室である
「どうぞ」
「へえ、きちんと茶室になってんだ。
え?
「あ、一応古文と日本史の教師だからね、その程度の知識はあるよ」
ふーん。
あくまで爽やかに言ってのける先生の姿に、私は、もしかしたら本当に勘違いなのかも、と思った。
遠藤先輩に余計なこと話す前でよかった。
「では、一通り、説明させてい……!」
突然、私の視界は真っ暗になった。
「ん……!」
強引に体を引き寄せられて、次の瞬間、口を塞がれていた。
それが千野先生の唇だと理解するのに、少し時間がかかった。
「んー! ……ん!」
間違えなく、あの時と同じ感触……もっと、長く、深い口づけ。
私は頭を振ったり、手足をバタバタさせて、何とか逃れようとした。
「ん……! ……いやっ!」
やっとのことで離れたと思ったら、そのまま畳の上に押し倒され……再び唇を奪われる。
もう、ダメ……。
その先に起こるだろう、行為を想像して、涙が止まらない。
こんな校内の外れの、人の出入りがほとんどない建物の中で、誰が助けに来てくれるっていうんだろう?
「……口止め、完了」
急に体が軽くなる。
私を押さえ込んでいた千野先生が、体を退かし、そのまま
私は呆然として、先生を見つめた。
メガネをはずし、ボサボサになった前髪を手ぐしで整えている先生は……
私のファーストキスを奪った……。
「何? 続きしたかった?」
ついッ、と手を伸ばして、私の首から胸元に指を
ダイレクトな感触……見下ろせば、リボンタイがほどけて、ブラウスのボタンが、ブラが見えるほど外れていた。
「キャア!」
あわてて胸元を隠すように身をすくめた。
「いや、思ったよりフクフクしていて、中々抱き心地いいなあ」
意地悪く笑う先生。
「な……何で……」
「だってお前、めちゃくちゃ俺のこと見てんだし。余計なこと言いふらされる前に、口止めしとこうと思って」
「言いふらすって……そんなこと!」
出来るわけないじゃない!
先生と……キスしちゃったなんて!
「多分、な。その様子じゃいらぬ心配だったみたいだけど」
……そんなことで?
……そんな理由で、こんな、ヒドイこと!
「……ほら、またそんな顔する」
睨み付ける私に、先生は笑いかける。
意地悪で……それでいて、ドキドキするような、艶めいた笑顔。
「お前、表情くるくる変わんのな……ガキみたいな顔してるくせに」
不意に、先生は身を乗り出した、私の方に。
急に顔が近くなって、逃げるより先に、見入ってしまった。
息を吐いたら、先生に届いてしまいそうで、私は思わず息を止めた。
「……俺が見つめると、こんな顔しやがって……」
「……」
声も出せないまま、金縛りにあったみたいに
冷たい、指。
顎から頬へ、それから唇へと指先でなぞられても、私は
冷たい指先なのに、なぞられた所が、熱い。
……ゾクゾクする。
パチン!
突然、目の前で手を打たれて(いわゆる猫だまし?)、私は我に返った。
「中沢……お前が泣くから止めたのに、俺を挑発するな」
「な! 挑発って!」
「さっき言ったのは、半分ホント……半分は、嘘だ」
「え……?」
さっきのって……口止め、ってやつ?
先生は髪を何とか整えて、メガネをかけ直した。
「そもそもお前にキスしたのが間違いだ……俺としたことが、大失敗だよ」
「大失敗、って……」
あんまりじゃない!
「おまけに、その味が忘れられなくなっちまうなんてな」
……?
「今度俺をその気にさせたら、泣いても止めないからな。覚悟しとけよ」
は?
「中沢は脱いだらスゴそうだから、楽しみだな……あ、くれぐれも、他の男にあんなエッチな顔を見せんじゃないぞ」
は……?
はあぁ?
今度、って、何?
何を楽しみに、してるって?
脱いだら?
エッチな?
……カアーッ!
頭の中で、先生のセリフが再構築された途端、私は顔が熱くなるのを感じた。
うそぉ?
うそだぁ!
『この俺が、思わずキスしてしまうなんて、おまけに忘れられなくなるなんて』
『次は、もう自分を止められない』
って、違う!
セリフ違うから!
都合よく脳内変換されたセリフが、先生の声色で、頭の中でリフレインされ続ける……いやぁ!
こんなの!
こんなの!
悪魔の
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