家族
さとすみれ
1話完結
カーテンから差し込む光が眩しくて私は目を覚ました。最近は目覚まし時計がかかる前に起きるようになった。身体を捻ってアラームを止めて体を起こそうとした時、私は鼻に違和感を感じた。
いつもと変わらないはず――なのに何かが違った。部屋に置いてあるフレグランスの匂いの中にふわっと香るお味噌汁の匂い……。そんなわけないか……。ご飯は私がいつも作るし……。私は一瞬頭をよぎった疑問を払い、重い体を起こした。
赤いネクタイが可愛い制服に袖を通し、洗面所に向かう。鏡を見て笑ってしまった。今日も髪の毛はねてる……。この癖っ毛はお母さんと変わらないな……。
引き出しからヘアアイロンを取り出し髪を整える。ふんわりボブに仕上がったところで私は鏡の中にいる自分に向かって言う。
「おはよう」
朝は一人の私。父は夜遅くに帰ってきて朝はゆっくり寝ていることが多い。
「寂しくならないように」
ふと母と私の最後の会話を久しぶりに思い出した。
「私が死んだらリサは家で一人で過ごすことが多くなると思う。ご飯とか、朝晩。寂しいよね。だから、朝、鏡に向かって「おはよう」って言ってごらん」
なにそれ、変なのって思った記憶がある。確か私はこう返したっけ。
「変な人みたい」
「うふふっ。そうね。じゃあ、私におはようと言っている感覚で言ってごらん。リサが一人が寂しくならないように」
今は習慣になっている「おはよう」だけど、前はこんな気持ちで言ってたな……。
そんなことを考えていたら涙が出そうになった。目尻を拭いて、もう一度鏡を見て笑顔を作った。私は一人じゃないから。時計を見ると、家を出るまであと一時間もない。朝ごはんとお弁当を作らないと……。今日の具材は何にしようかなと思いながら、リビングのドアを開けた。
その瞬間、お味噌汁の匂いが私の周りを包んだ。そういえば起きた時もお味噌汁の匂いがしたな……。はっとしキッチンを見ると、父がパジャマ姿で立っていた。いつの間にか涙がこぼれていた。いつもは一人。だけど今日は二人。「おはよう」と言ったら「おはよう」と返ってくる。嬉しかった。目をキョロキョロと動かしながら、必死になって朝ごはんを作る父の背中に向かって私は言った。
「おはよう。お父さん」
「あぁ、いたのか。おはよう。ちょっと待ってろ。もうすぐで出来るから。うわぁ」
「おはよう」返ってきた……。
「いつも寝てるじゃん。どうしたの」
「リサにはいつも朝ごはん作ってもらっているから、今日ぐらい作ってあげようかなって思って。休みだからさ、今日。自信はないけど」
「お味噌汁。美味しそう」
久しぶりの朝の会話……。この会話だけでも感動する。
「ありがとう」
心の中で言ったつもりが声に出ていた。父はどう解釈したか、
「こちらこそ、いつもありがとな」
と言った。
いつもはついていないテレビが今日はついていた。ふと見ると、星座ランキングが流れていた。一位だった。ラッキーポイントは「家族との会話」だった。
家族 さとすみれ @Sato_Sumire
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