第62話 大繁盛てんやわんや

「少々お待ち下さい!」


「珈琲とパンケーキですね!!」


「ありがとうございました!!」


「かしこまりました!」


お店の中に飛び交う声。


まあそのすべてが俺のものなのだけど。


「ありがとうございました!!」


こうしてる間にもまた1名お客さんが出ていって、2名くらい入ってくる。


「ヤベェ……」


俺は片手で汗を拭きながらつぶやく。


今はちょうどお昼時の12時半くらい。


お兄さんが出ていってから、もうあとは誰も来ないかーとか笑ってたら、10時くらいにはちょいちょいお客さんが見えだして。


そして昼になれば、もうさばききれないくらいのお客さんの山。


「神之さん!! 珈琲3つ入りました!!」


「オッケー!」


俺はカウンターでパンケーキとパフェを同時進行で作りながら、神之さんに注文を飛ばす。


長く立ってられない神之さんが、座りながらできるコーヒーなら手伝うといってくれたから、まだなんとか持ってるけど。


俺一人だったら完全に終わってた。


初日からこんなに人が来るとは思わないじゃん。

いや、逆に初日だからこそ人が来たのか?


俺は神之さんの宣伝効果を低く見積もり過ぎていたかもしれない。

俺の知り合いのおばさまがたも来てくれてたし。


伊予は田舎といったけど、それはあくまで東京と比べての話。すぐ近くに松山があるように、人口自体は少ないわけではないのだ。


このお店もお世辞にも広いと言えるような感じじゃないし。


マジで、猫の手も借りたい状態。

もちろん、イークアに働かせることはしないけど。


それでも働いてた頃よりはまだマシだけど、なんか違うベクトルの疲れがある。やっぱり、接客ってところがでかいのかも。


人を相手にすることの大変さを改めて実感した。

本当に営業職とかの人を尊敬するよ。俺にはできないと思う。


そんなこんなしている間に出来上がったパンケーキたちをお客様に運んでゆく。


「お待たせしました。」


「注文良いですか?」


俺が置き終わって戻ろうとした瞬間に、そんな声がかけられた。お隣のテーブルさんからのご注文だ。


「えっとコーヒーが二つと……」


「かしこまりました。お時間頂戴いたします。」


俺はもういちいちメモってる余裕なんてなくて、お客様の注文を一発で脳に叩き込んで覚える。


書かなくていい分楽だけど、寄り道すると忘れてしまうのと、同時に2テーブルまでしか覚えられないのがネックだ。


「北原さん、珈琲できました!」


俺が商品を出してからの注文聞いてからの、食べ終わったお皿回収という超効率的な一往復を済ませていると、神之さんから声がかかる。


「了解です!!」


これマジでやばい。ピークは過ぎたっぽいけど、まだまだお客様がいっぱいいるし……。


俺はそんなことを考えながらも、今はとにかく働けと思い、叫んで目の前のタスクに向き合った。


今持ってるこれをああして、次あそこのテーブルであれだから、この皿はあっちにおいて……。


考えなきゃいけないことはたくさんあるし、疲れはするけど。やっぱり、働くのって楽しい。


こうやって直接誰かの笑顔を見れるのは、本当に嬉しいことだよ。


俺は仕事に感謝しながら、また忙しくお店を走り回り始めた。

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