第33話 決断と神之さん
「で、どう?」
二階を一通り見たあと、再び一階に戻ってきておじさんが言った。
二階は完全に住居スペースで、台所にトイレ、お風呂に寝室など一通りの設備は揃っていた。
屋根裏部屋も合わせたら、一人はおろか、家族で住んでも少し余るくらいには広かった。
「あんたが本気で喫茶店やんなら、いい話だと思うよ?」
おじさんは、ギーコギーコと椅子を揺らす。
俺の答えはもう決まっていた。
屋根裏部屋からこの街の姿を見たときに、決めたのだ。
汗で締める手を握りしめて、
「は、はい。買おうかと思います。」
そう、つぶやく。
あぁ、言ってしまった。
まだ迷っている部分もある。
独り身で素人の俺には、こんな立派な物件は不釣り合いだし。もったいない。
そう思う部分は今もあるし、正直活かしきれる気がしない。
けど、それを踏まえてもこのお店が欲しかったし、おじさんがこのお店を見るときのあの優しい瞳が忘れられなかった。
「おぉ! それは良かった!! なら、このあともう少し時間ある?」
おじさんは笑いながら俺の肩を叩く。
「あります。」
この町で頑張ろうと決意しながら、返事をする。
「じゃあまた車乗って!」
「はい」
豪快に笑って俺の背中を叩くおじさんとともに、俺は泥まみれのバンに乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
「おじいさーん!!」
車で数分走ってついたのは、とても落ち着いた雰囲気の日本家屋だった。
とても美しいのだけど、その豪華さを全面に押し出すのではなく自然と調和して溶け込むような、そんな家。
「どうしました?」
玄関の前で大声で叫ばれて扉をドンドンと叩かれたというのに、嫌な雰囲気は一つも見せないような爽やかな声とともに現れたのは、初老の男性。
紺色の和服を着て銀縁のメガネを掛けた彼は、柔らかな表情を浮かべてそう尋ねた。
「お久しぶりです。おじいさんのお店で喫茶店やりたいってやつが見つかったんです。」
おじさんは彼と旧知の仲らしく、ペコリと頭を下げると俺の方を見た。
「どうもはじめまして。
突然二人の視線が集まってびっくりするが、それは鍛え抜かれた社畜。反射的に頭を下げてさらりと自己紹介を言うくらいは朝飯前だ。
「ご丁寧にどうも、私は
「おじゃまします」
「失礼します」
俺を見て微笑んだ神之さんに続いて、俺たちは家へと入った。
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