第21話 突然のお電話

俺が部長の優しさに触れ、退社できることが決まった日から一週間経ったある日。

普通の社畜ライフを謳歌して、益々残業に力が入っている22時。


プルルプルルプルルル


もはやトラウマにまでなりそうな、会社の電話が鳴り響いた。


これが鳴るだけで憂鬱なのに、今回に至ってはこのフロア共通のやつではなく、俺専用の電話にかかってきている。


これを知っているのは、古くからお付き合いのあるところか悪質クレーマーのどちらかなんだが……。


「お待たせしました。銀銀銀行北原きたはら 将也まさやでございます。」


いつまでもうじうじしてられないので、鬱な気分を切り替えて社畜スマイルを浮かべて、電話を取った。


「あの、突然すみません。」


ほえぇ? 珍しいな、こんな時間に若い女性の声だ。大体は40、50過ぎたおじさんの疲れ切った声なんだけど。


てか、この声どっかで聞いたことがあるような……。


「いつもお世話になっております。」


とりあえず、この電話にかかってきたということは仕事関係だろうから、定型文で対応をする。


「海々銀行の波 咲夜なみさくやですけど……」


数秒の間のあと、そんな控えめな自己紹介が聞こえてきた。


…………マジか。道理で聞き覚えがあるとおもったわけだ。

でもなんでさくやさんがこの電話番号知ってるんだ? 俺教えったっけ?


「あ、はい。お久しぶりです。」


俺は疑問に思いながらも、周りに誰も居ないことを確認して、社畜モードからプライベートモードにチェンジする。


「あの、以前のお礼をしたくて、連絡させて頂きました。」


うぉぉ、なんかそうやって敬語で来られると、『了解いたしました。ですがこちら大変申し訳ございませんが現在立て込んでいまして、また後日おかけ直し頂けますと幸いです。』とか、普段のノリで言ってしまいそうになる。


多分ここでのお礼って、あのハンカチをお返ししたことのやつだよな。


「いえいえ、大丈夫ですよ。そんな大層な事してませんし。」


「……………………」


俺が気を使わせまいと言った言葉は彼女の琴線に触れてしまったようで、さくやさんは黙り込んでしまった。


「あれ?さくやさん?」


何がだめだったのかと思いながら、俺は一応通信不良を疑って、そう声をかける。


「…………私と……会いたくないんですか……?」


少しだけ黙ったさくやさんは、電話越しでも分かるような不安げな声でつぶやいた。


おっふ……いきなりの致命傷キタコレ

俺は胸を手で抑えながら、


「そ、そんな事ありませんよ」


そう必死に弁解をする。

いやぁ、人間なにが地雷になるかわかりませんねぇ()


「なら、今度のお休み会いましょう。」


今度は間を開けずに、力強い言葉が聞こえた。


「へ?……わ、わかりました。」


俺は若干戸惑いながら、会うことに関しては嫌でもないし、なんならウェルカムなんので、了承をする。


「土曜日空いてますか?」


「あぁ、土曜はお仕事ですね。日曜なら大丈夫です……」


「それなら駅前の……」


こうして、俺は今週の日曜日、さくやさんとお出かけすることになったのだった。



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