心臓

心臓を貫かれたとき

心だけ死んでしまったみたいだ

一滴の血も流れなかった

正しい人の顔を持っていたので

人生に支障がなかった


笑うべきところで笑って

黙るべきところで黙って

楽しくも悲しくもない日々を

車輪のように繰り返し進み

時折戻る

反省もするつもりがないので

反省している顔をしながら

同じようにまた回る


心臓を貫かれたのに

誰にされたのか何になのか

いつなのかも思い出せない

生まれた時からずっと

心が死んでいたのだろうか

きっと記憶も接続が無茶苦茶になって

答えに至れなくなっている


忘れていくのか知らなかったのかも

わからない生の中で

貫かれたはずの心臓だけが

変わらずに動き続けている

ここには傷がある

うごめく傷がある


心臓が貫かれたとき

何かが生まれたのだ

それまで私になかったもの

そう思っている私は

私は

何だというのだ

鼓動が強く強くなっていく

もしかして

心臓は貫かれていないのか

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