1話 防衛軍仮採用中1


太陽系第三惑星


この惑星は、便


便宜上と言われるだけあり、ただの惑星ではない

このペアは、二つの惑星が互いの重力で釣り合いながら周囲を回る二連星なのだ


この二つの惑星は、それぞれウルとギアと呼ばれている




ここは惑星ウルにあるシグノイアという国


空には太陽が輝き、ウルの相方である惑星ギアも見える


天気が良くてよかった

青空に映えるギアは美しい



…だが、いつまでも現実逃避のために空を眺めている余裕はない

なぜなら、今はゴブリン退治と、ゴブリンを放った敵国の自動拠点を攻撃しに行く途中だからだ


俺が戦闘へ参加するのは三回目だ


だが、何度経験しても戦闘前は緊張で吐きそうになる

まぁ、命のやり取りをしに行くんだから当たり前か…



俺の名はラーズ

ラーズ・オーティルという


シグノイアの防衛軍に所属している兵士だ


…だが、兵士とはいってもまだ所属して二週間の「仮採用中」の身だ


ただの一般兵で特殊な能力は無く、魔法も特技(スキル)も使えない

唯一の取り柄は、高機動ホバーブーツを使えることくらいだ



今回、俺は研修としてこの戦闘に参加している


仮採用中の兵士は、見習いとして三回戦場に出る必要がある

その目的はシンプルで、


…言うことは簡単だが、この研修はとんでもなく危険だ


敵の弾や砲弾が飛んで来る

身を隠したと思ったら、範囲魔法が障害物を越えて炸裂

魔法が付加された矢が放物線を描いて落ちてくる



「バカっ! 下がれぇぇぇぇぇ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



さらに、トロルのこん棒、殺人バチの群れ、戦車の砲撃、巨大な蟻の大群、竜種のブレスに襲われる



「大型モンスターに豆鉄砲が効くか、グレネードを使え!」


「無理! 無理!! うわあぁぁぁぁ!」



…ここが戦場なんだと、嫌というほど思い知らされた


そして、今回が俺の最後の研修なんだ




しばらく進むと目的地に到着

今回は五人で目標を殲滅する小規模な作戦だ


小高い丘の中腹に穴が二つ空いており、ゴブリンの見張りが一匹立っている

あの穴がゴブリンの巣穴なのだろう


下級のモンスターは、個体としてはそこまで強くない

しかし、一定条件下で繁殖するため、敵国内でわざと繁殖させたりするのが戦争の常套手段だ


「止まれ!」


支援担当の小隊長が指示を出す


「各自、戦闘準備に入れ。情報担当は、周囲の索敵とゴブリンの数の把握を」


「了解です!」

獣人女性隊員が返答する


「戦闘班の射手は風向きと地形の確認。狙撃ポイントを決めて報告しろ」


「…了解」

エルフの男性隊員が答える


「射撃担当はドローンを迎え撃つ準備だ」


「了解しました」


各自がテキパキと準備を始める



防衛軍の部隊は様々な担当職で構成されている


・支援担当

支援担当とは補助魔法使いのこと

味方の強化、敵の弱体化を行う


・情報担当

情報担当は、各種センサーや探知魔法で索敵や敵の解析、周囲の警戒を行う


・戦闘担当

戦闘担当とは、その名の通り戦闘員のこと

攻撃手法によって射撃や射手などに分けられる


射撃は銃全般を使う戦闘担当で、分隊長と俺

射手は投射魔法や矢などを使う戦闘担当で、エルフの男性隊員だ


ちなみに、杖を使う魔法使いがいる場合は、魔法担当や範囲魔法担当などと呼ばれる


部隊行動の際は情報担当と戦闘担当は必須

必要に応じて支援担当や作戦担当、斥候担当が置かれ、戦闘担当は敵によって各種魔法の担当や狙撃、射撃、防御担当などが配置される



「…緊張が顔に出ているぞ?」

鎧を着た男性隊員が俺に声をかける


「あ、は、はい!」


この人はイドル分隊長という

今回の研修の俺の指導者で、ドワーフの血が入ったガッチリ体型だ


「事前情報で、ゴブリンの巣穴の上に複数の戦闘用ドローンが確認されているからな」


「AI自立型ですかね?」


射撃装置を搭載したAI自立型のドローンについては、防衛軍学校で習ったばかりだ

敵国が仕掛けていく兵器の典型らしい



イドル分隊長が頷く

「そうだろうな。ドローンを早めに落とせないと、ゴブリンとドローンを同時に相手にしなきゃいけなくなる。俺達で出来るだけ早く落とすぞ」


「りょ、了解です」


ちゃんと当たるかな

不安になってくる


「さ、そろそろ行くぞ」


「はい!」


俺達は配置場所に向けて歩き出した




・・・・・・




少し進むと、開けた場所が見えてきた


「…あれだな」


ちょうどインカムに連絡が来る


ちなみにインカムの同時通話は、リーダーや情報担当などの役職や職種に番号を付けて名乗る

今回は情報担当が一名だが、情報1と名乗るらしい

…変なの



「こちら情報1、敵を捕捉した。ドローン基地1、戦闘用ドローン3、戦車1を確認。戦車については小型の迫撃砲タイプと思われる」

「…ゴブリンについては、東側の巣穴に生体反応。サーモと索敵魔法の結果十匹前後を確認」



イドル分隊長が、インカムを聞いて深刻な表情になる

「…戦車がいるのか、厄介だな」


戦車は迫撃砲を持った移動式の砲台だ

見つかったら遠距離から砲弾を喰らうことになる


迫撃砲レベルの攻撃力だと、防御魔法があっても一発で即死なんだろうな…、怖ぇーよ!


戦車はドローンと同じようにAI制御で、ドローンの無線基地の守備のために使用されることが多い

守備といいながら、迫撃砲で遠距離攻撃をしてくる危険な相手だ



「こちら射手1。狙撃ポイントにて準備完了。巣穴と戦車は射程内ですが、ドローン基地は射程外です」


「了解、リーダーより各員。射手1が戦車を狙撃。戦車の破壊を確認次第、射撃1、2がドローンを誘き寄せて撃破。その後ゴブリンの殲滅に移行する」


「ドローン基地は放置ですか?」


「ドローンが無くなればただの置物だ、後からで問題ない」


「了解!」


「よし、作戦開始!」



ついに戦闘開始だ


「あの射手の兄ちゃんは持ちらしいぜ。戦い方をよく見とけよ」

イドル分隊長が射手のエルフの男性隊員を示す


「固有特性?」


固有特性とは、個人の突出した技能のこと

要は、防衛軍が認めた凄い技能を持っているということだ




ヒュゥゥゥゥゥゥ……




ゴブリンの巣穴方向に、東側から白い放物線が描かれる

エルフの射手が、自慢の弓で電撃魔法を付加した矢を射ったのだろう


放物線が消えた森の奥から、うっすらと黒い煙が上がった



「…目標に命中を確認。電気系統がショートしたと思われる黒煙が発生しています」

情報担当の報告


「リーダーから射手1。爆破魔法を乗せて、確実に戦車を破壊しろ」


「射手1了解」



俺とイドル分隊長は待機しながらインカムを聞いている


「あ、あの距離で戦車に矢を命中!? しかも、一発で戦車が行動不能って…、そんな事ができるんですか!?」


「固有特性だって言っただろ。あれが出来るから、あいつの魔法付加の矢は固有特性と認められたんだ」

イドル分隊長が事も無げに言う


いや、凄すぎるだろ!

矢で鉄の塊である戦車を落とすんだよ!?



…そして、いよいよ次は俺達の番だ


ドローンを迎え撃つため、イドル分隊長と俺は配置場所に向かう


戦場が怖いし、死ぬのも怖い

でもやるしかない


よし、今日も生き残るぞ…!


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