第107話 この一言に尽きるだろう!

 カレンさんはどこに行ったのだろうか?


 全く見当たらない。


 俺は察知系スキルを使って探す──


 ──いた。


 少し離れた場所の木の根の所に座っている。


 近付いて行くと、カレンさんは三角座りをして顔を俯けていた。



「カレンさん、どうしたんですか?」


「エル……どうして来たの?」


 俺の声に反応してカレンさんは顔を上げる。


「……様子がおかしかったので……」


 バラムに言われたからとは言わない。俺も様子がおかしいとは感じたからね。


「そうなんだ……皆強いよね……エルも昔とは考えられないぐらい強くなったよ」


「頑張ってるからね……」


 毎日毎日、バラムとシロガネにボコられてるし、暇があれば初代から【魔力操作】とか型の練習を随時やらされてるからね。


「私も頑張ってるよ……でも、どんどん強くなるフレアちゃんとエルに置いて行かれそう……」


「いやいや、フレアはともかく──俺はなんとか食い付いてる状態ですよ……今日とか危うく死ぬかと思いましたからね」


「普通に防いでいた癖に……はぁ……強くなりたいなぁ……」


「これから皆で強くなる為の訓練ですよ」


「……私ね……兄妹の中じゃ1番弱いの……剣聖の座は1番強い上のお兄ちゃんが継いだんだ……」


 そういえばブレッドからそんな事を聞いた事があるな……1番上のお兄さんは10歳年上のはず。


「それって、10歳も年上なら仕方ない気がするけど?」


 10年の差はかなり大きいし、お兄さんが剣聖の座を継いだ頃って俺達は5歳ぐらいだったはずだ。それはどうにもならない。


「お兄ちゃんは15歳の時にお父さんとそれなりに戦えてたんだ……だから15歳になった時──オーランドに来る前にお兄ちゃんと勝負したの……結果は惨敗だったわ……何もさせて貰えずに一方的にやられちゃった……」


 うーん、どう言えばいいんだろうか?


 現剣聖なんだからそりゃー強いのはわかる。もしかしたら今はブレッドより強くなっている可能性もあるしな。


 カレンさんの強さはブレッドには追いついていないのも身近にいたからわかるし、その結果は必然なのもわかる。


「カレンさんは剣聖になりたいんですか?」


「お父さんがね……『剣舞』を使った時にね……私には才能がある。いつか剣聖にだってなれるって言ってくれたの……だけど……1番上のお兄ちゃんには模擬戦しても勝った事が一度も無いんだ……」


 ……なるほど、ブレッドはたぶん【魔力操作】スキルを会得出来た事を言ったんだろうな。それにユニークスキルもある。


【魔力操作】があればオーガスト流派の技が使える。


 たぶん、最後の技も本来は俺が使ったようにするのが正しい気がする。


 カレンさんのは『発』のみしか使っていなかった。


 もし、『集』と『発』が使えていたのならば──


 あの時、押し負けて俺だけが吹っ飛ばされたはずだ。


 カレンさんの兄妹は全員がオーガストの技を使うのだろう。戦闘のセンスもあるかもしれないが、精度の高い人の技が勝つのは必然なのかもしれない。


 だからカレンさんはオーガスト流派でない戦い方をしているのかもしれない。


【武器召喚】から武器を操り、手数を増やすスタイル。そして【バトルマスター】による様々な武器の使い分け──


 これが強くなる為に遠回りしているのかもしれない。


 特に【バトルマスター】は武器スキルがと【鑑定】で見た気がする。


 それは全ての武器スキルは【バトルマスター】のスキルレベルに比例するからだ。勝てない理由はそれが1番大きい気がする。


 ある意味俺と似た境遇だろう。


 だからこそ気持ちもよくわかる。


「カレンさんのユニークスキルを俺が強化しますよ。そうすれば──間違いなく強くなれます。俺が剣聖になれなくても強くなれると証明させます! 別に強くなればブレッドは文句なんて言いませんよ!」


「そうかな? 剣聖になれなくても褒めてくれるかな?」


「きっと──笑いながら言いますね。剣聖の称号なんて飾りだって──ね?」


「確かに言いそう……」


「それと、フレアと3人で型の練習もしましょう。おそらく──技としては受け継いでいると思うんですけど、時代と共に劣化して受け継がれてる気がします……」


 初代──俺の想像通りなら、そうなんだろ?


『そうだな……最後の技は本来お前が名付けた『集』と『発』を併用して使う技だ。そこにお前は『線』まで使ったけどな? あれも実は奥義だったりするぞ? あそこにスキルを組み合わせるともっと良かったけどな』


 マジか!? 何気に俺凄いなっ!


「えっ? 劣化してるの??」


「間違いないよ。俺が使った魔法剣の火は『着火』なんだけど──明らかにカレンさんより威力が低いはずなんだ……そこを型で補ってなんとか互角にした感じかな? だから──完全な状態なら俺はあの時負けてたと思うよ? これから絶対に強くなれるよ。それこそ剣聖にだって負けないぐらいに──ね?」


「──エル……ありがとう──私……もう強くなれないと思ってた……本当にありがとう……」


 カレンさんは俺の顔を胸に押し付けながら抱きしめて泣きながらお礼を言う。


 ノーブラの為、柔らかい感触が顔面に……柔らかい!


 ってこれだと息が出来ない!? 幸せなんだが、息出来なくて窒息する──だがこんな状態で無理矢理外すのは躊躇う……。


 息を止めてやり過ごそう……。


 しばらくして、腕の力が緩む。泣き声も聞こえなくなった。


 俺はお胸様から解放する為に顔を上に向ける。


「──んん、ぷはっ……まぁ、これから頑張ろう?」


「うんっ!」


 なんとかなったかな?


 カレンさんならきっとブレッドを超えてくれるはずだ。俺はそう信じてる。



 まぁ、今の俺の頭の中は──


 おっぱいは柔らかいっ!


 この一言に尽きるだろう!


『この童貞がっ!』


[変態っ!]


 仕方ないじゃないか!


 俺だって健全な男なんだぞ!?


「ボス……色々と台無しです」


 バラムさんや……なんでここにいるんですかね!?


 しかも心読まないでくれます?


 そもそも俺の心の中でしか言ってないからな?


 誰も大声で言っていないから!


 無罪だっ!


「まぁ、童貞ボス。そろそろ早く皆さんとの訓練を開始して下さい」


「……童貞言うなっ! カレンさん戻りましょうか?」


「エルってやっぱりまだ童貞だったんだね?」


「……さぁ、『型』の訓練をしましょうか」


 俺は何も聞いてないぞ?


 バラムのせいでカミングアウトしてしまった形になったじゃないか!


 俺のライフはゼロだよ……。


「エル──いつでも来ていいからね?」


「えっ、それってどういう──」


 カレンさんは顔を真っ赤にさせて走っていく。


 その後の空いた時間はフレアと3人で型の練習をしていった。

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