六章 白銀が応援される──

第105話 揺れよる……

 皆に俺の事やフレアの事を打ち明けた次の日は、馬車に乗りながら、今後どうするかを話し合ったりした。


 強くなるのは大前提なのだが、後はその方法だ。


 以前のような訓練で底上げも必要だが、バラムとシロガネ、初代から──実戦が俺達には足りていないと言われた。


 ならば実戦形式での訓練を行うしかないと皆に話すと心良く受け入れてくれた。


 これはバラムの提案により俺対メンバーの1人になった。


 朝食を食べた後に出発するまでと、野営する時に寝る前までの2回、ペアを決めた上でバラム見守りの元三者で訓練を行う。


 その後は、以前行ったスキルの底上げの訓練と模擬戦だ。



 今現在、野営の準備を終え、夕食を食べた俺は訓練をこれから行う所だ──だが……猛烈に後悔している。誓った言葉を違えそうなぐらい……。


 1発目の俺の相手はカレンさんだ……。


 今回のルールはスキルと武器のみの勝負だ。


 致命傷は避けるぐらいで基本何でもありなんだが……何故後悔しているのかと言うと──


 それは目の前で防具を外したシャツとハーフパンツだけのカレンさんがを構えているからだ。


 見た目は眼福なのだが……あの大剣はいただけない……。


 あんなの直撃したらミンチになる未来しか見えない……。


 ちなみに防具を外している理由はシンプルだ。


 俺達の装備は魔法付与されている物もある為、地力を上げるのに邪魔になるからだ。


 もちろん俺も新しく付与しまくった装備はバラムにより没収されている。


 その時──


「よくもまぁ……こんな伝説級の装備を作りましたね……ちなみにあの無茶な強化も禁止ですよ?」


 バラムはそんな事を言いながら呆れていた。


 俺は神域に備える為に様々な装備に寝る間を惜しんで作成したのだ。


 ブレスレット、ネックレス、指輪の小物には攻撃補助や奇襲用の──


 そして、服には防御補助や耐性系の【刻印魔法】を刻みまくった!


 もちろん、それらは試作品だ。今後、使い心地が良ければメンバー全員に配布する予定だったのだ。


 断じてフレアに惨めな姿を晒さない為ではない!


 一応、今日それで過ごした使い心地を言っておくっ!


 最高だった!


 何故、昔の俺はこの事を思い付かなかったのかと後悔すらしたぐらいだ。


 あれがあればカレンさんとも余裕で渡り合えると確信したぐらいだしな……。


 だが、今手元にはないし……そして【応援】も禁止されてしまった。



「エル〜準備は良い〜?」


「まだです。バラム……いくら実戦形式と言っても──死ぬぞ?(俺が)」


 体の準備は出来ているけど、あの大剣が俺に向かってくると思うと……心の準備がまだ出来ていない。


 一応、発案者の1人であるバラムにいちゃもんをつけてみた。


「ボス……ならば避けたらいいだけの話です。死ななければ私が回復しますのでご安心を。それに命の危険が無いと人は成長しないのですよ。早く強くなって下さい」


 そりゃーそうなんだけどさ! 敵なら容赦なんかせずに襲ってくるからわかってはいるんだよ!


 けどな!


 カレンさんの一撃ってマジで当たったら死ぬかもしれないぞ!?


 一応、これ実戦形式のだろ?!


 訓練の言葉の意味知ってる?



「──カレン様、ボスは可愛い貴女様に見惚れているだけのようです。とっくに準備出来ていますので開始して下さい」


「えへへ〜、エルったら〜。それじゃあ行くよ? えいっ!」


 カレンさんは歯を見せて笑いながら大剣を後ろから振りかぶり──横薙ぎに振る。


 大気を巻き込むように繰り出される一撃は──



 中距離攻撃だ。



 これって……【風魔法】使ってるよね?


 掛け声とは裏腹に凶悪な技なんだけど!?


『おぉっ、俺がよく使ってた奴だな! 今の時代にも使える奴がいるんだな〜なんか嬉しいなっ!』


 初代の技?? あれ魔法も入ってるよ??


『そりゃ、そうだろ。俺の使ってる型は本来なら魔法と組み合わせて使うんだからな。お前も早く使えるようになれよ〜!』


 ……という事は……カレンさんのあの技って──


 かなりヤバい威力なんじゃね!?


 しかも中距離で範囲攻撃で逃げ場無いんですけど!?



 俺は即座に防御重視の型──『硬』を使う。構えは正眼の構えだ。


 これは攻撃が当たる可能性がある場所に魔力を高密度に集めて硬くする型だ。


 どうしても避けられない時用の防御技になる。


 あの攻撃は即死するような範囲攻撃ではない──つまりそこまでの致命傷を受けるような攻撃ではないはず。



 ──迫る暴風により、俺は身動きが取れなくなり、体も所々傷だらけになるが【再生】スキルにより回復していく。


 これぐらいなら耐えられる──


 そう思っていると、いつの間にかカレンさんは目の前で大剣をもう一度振りかぶっていた。


『これは相手を動かなくさせて、トドメを刺す技なんだな〜』


 もっと早く言ってくれ!


 楽しそうな初代の声が聞こえてくるが、今はそれ所じゃない。


 瞬時に下腿部に魔力を込めて──


 型の『発』と【縮地】を使ったバックステップで回避する。



 ……なんとか凌いだぞ!


 バラムにボコられたのは無駄じゃなかった!


「うわっ、凄いねエルっ! 初見で避けられるの久しぶりだよっ! どんどんいっくよ〜っ!」


 大剣がブォンブォンと音を鳴らしながら俺に迫ってくる。



 俺は八相の構えで型の『集』と『円』の両方を使って攻撃を逸らして避けて行く。


 正直、この猛襲の中で反撃するのは至難だ。出来ない事も無いが──


 ──反撃に移れない理由がある……。


 バルンッバルンッと揺れる……。


 カレンさんのだ。


 大剣を一振りすると──


 ブォンと音がした後、バルンッと大きなお胸様が揺れているのだ。


 それはもう、プルンではなくバルンという効果音で間違いない。それぐらいカレンさんの胸は大きい。


 このパーティで胸が1番大きいのではないだろうか?


 薄着なのも更に拍車をかけている。


 しかもこの世界にはブラジャーが無いんだ。つまり──


 ノーブラだっ!


 つまり、シャツ一枚のカレンさんに振動はダイレクトに伝わるわけだ!


 まぁ、俺も男だ……気になり過ぎて攻撃に移れない。


 むしろ、まだ眺めていたいと思うのは男のさがだろう……。


 この致死攻撃の中にも癒しがあるというのは喜ばしい事だが……。


 俺もよく、こんな事を考えながら避けれていると思う。


 大分、型を使いこなせてきているのもあって余裕がそれなりにある。


 俺もついに冒険者ランクに見合った男になれたのか!?


 嬉しいぞっ!



『エロい顔しながらニヤニヤしてる場合じゃないぞ? 来るぞ──』


 初代の声に意識が引き戻される。


 様々な武器が浮遊していた──



 俺から胸を眺めていた時のニヤニヤした表情は消える。

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