戦争の始まり


第六話 


総理は、険しい表情で、

「アルゼン王国?」

「最強と言われる国です。その国が貧乏な我が国の足元を見るような取引ばかり求めてくるのです。なんとかしていただけませんか、総理?」

「要は、弱みにつけ込まれているということだな?」

「その通りです。ですが総理の戦闘能力ならあの国の戦力にも十分対抗できるはずです!」

「なるほど最強の軍隊を持つ国ということだな……!」


「いえ、アルゼン王国に軍はありません」

「どういうことだ?」

「そこにいる大統領が最強なのです。総理と同じように戦闘能力的な意味で」


「最強の大統領か……次の取引はいつだ? それまでに準備をする」

「次の取引は一ヶ月後のはずです」

「なら対策を練る時間はあるな。一ヶ月後までに――」

その時だった――

総理の家のドアが開く。

「アルゼン王国の大使が来ました。総理! お出迎えを」



[大使館にて]

総理は、二人の大使を迎え入れる。

「さあどうぞ。狭いところですがお座りください。遠路はるばるご足労おかけしました。ところでどう言ったご用件でしょうか?」

総理は丁寧に対応する。

「ったく相変わらず汚い国だな! 俺たちは客だ! 飲み物の一つも出ねーのかよ!」

「これは失礼した。サヨクお客人にお茶を」

するとサヨクはせかせかとお茶を沸かしに行った。


「それでご用件は?」

「お前たちの国で収穫できる地下資源マナライトを寄越せ」

「寄越せとは?」


ドンっ! テーブルを叩く音とともに、

「いいから黙って資源を渡せってことだよ!」


「大使殿、落ち着いてください」

「うるせー! このゴミ溜めのハエどもが!」

「落ち着いて」

「お前みたいなカスいつでも殺せるんだぞ!」

「どうか落ち着いて」

「ここは大使館! ということはこの中にいる限り俺たちの国の法律が適用される。どういうことかわかるか?」

「どういうことですか?」

「殺人も許されるってことだよ!」


「粗茶です」

サヨクがビクビクしながらお茶を持って来た。

それを見た大志は

「引っ込んでろっ!」

お茶を盛大にひっくり返した。

「きゃっ!」

サヨクは熱いお茶がかかり、床に倒れ込む。


それを見て、バターン。総理は勢いよく椅子から立ち上がった。

「うおっ! な、なんだ? やる気か?」


そして、サヨクの元に行くと、

「大丈夫か?」

「ええ。ナノマシンがあるからこれくらい大丈夫でございます」

「じゃあサヨクはもう下がっていてくれ。ここにいると見たくないものを見る羽目になる」

サヨクは慌てて部屋から出て行った。



「よくわかってんじゃねーか! 土下座したら今回だけは許してやるよ!」

総理は、黙って大使の方を見つめる。瞳から解き放たれる視線の刃が、大使の顔に突き刺さる。


「な、なんだ? やる気か? ここで俺たちに逆らったら外交問題だぞ?」

総理は黙り込み、圧を放つ。


「なんとか言いやがれ、この負け犬が!」

大使は総理に近寄り、顔面を殴った。

ゴスっ! 鈍い音が沈黙を揺らした。直撃したのに、総理は眉一つ動かさない。

「それで全力か?」

「な、何っ!」

大使は続けて総理に拳を振るう。だが総理は瞬きすらしない。

「どうした? わしみたいなカスいつでも殺せるんじゃなかったのか?」

「なんで攻撃が効かない? 体が機械でできているのか?」


攻撃を食らっている側の総理が、大使を壁際に追い詰めていく。


ビビり上がった大使は、

「ま、待て! 俺が悪かったよ! ちょっと落ち着いてくれ!」

「落ち着け? わしは落ち着いているが?」


「ひいいいいいっ!」

大使は完全に壁に背をつけた。


総理は大使の横の壁に手をつける。そして、耳元で、

「おい……ここは大使館だよな?」

「は、はい! おっしゃる通りです!」

「ということはこの中にいる限りアルゼン国の法律が適用される。そうだったな? これがどういうことかわかるか?」

「ど、どういうことですかっ?」

「殺人も許されるってことだよ」



[10分後]

総理は返り血まみれで大使館から出て来た。

サヨクが、

「こ、殺しちゃったのでございますか?」

「そんなわけないだろ。そんなことをしたらアルゼン王国と取引ができなくなる」

「取引ですと? まさかアルゼン王国と取引をするおつもりですか?」

と、国民。

「ああ」

「そんなことをしたらまた利用されます!」


「いいや、わしがアルゼン王国を利用するんだ」

総理はにこやかな顔で下卑たことを言った。



総理はシャワーを浴びて、汚い血を落とすと、騒ぎになっていた。

人だかりの中心で、先ほどの男が騒いでいる。両腕が折れているが騒ぐ元気はあるらしい。

「外交問題だぞ! わかっているな!」

大使のセリフに国民はざわついている。


総理は人混みをかき分け大使の元へ行く。

「先に突っかかって来たのはそちらだ。これは正当防衛だ」

「うるさい! もう遅い! 今から一ヶ月も立たないうちにこの国は滅びる! せいぜい首を洗って待っていろ!」

大使は負け犬の遠吠えをして、去っていった。


大使が去った後、国民は恐怖に震えていた。

「どうしよう」

「もう終わりだ」

「死ぬしかないのか」


その時だった。総理は手ぶらでサヨクと出かけようとしていた。

「ん? 総理どちらへ?」

「散歩みたいなものだ」

そして、総理はアルゼン国に戦争を仕掛けに行った。


アルゼン王国の大統領は心底驚く。まさか戦争を仕掛ける側の国が、逆に攻め入られるなんて。

おまけに、年老いた男性一人が手ぶらで突っ込んでくるのだ。


戦闘準備をする隙も、暇も与えられない。


白銀総司の戦闘スタイルは……後陣防衛でも後陣待機でもない。


前陣速攻だけだ。

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