第一章 内閣総理大臣vs大統領(肉弾戦)
第一章 内閣総理大臣vs大統領(肉弾戦)
[総理が異世界の地に降りたってから一週間後]
国民は新総理の課した重税に苦しんでいた。
そして、総理の支持率は1%を下回るほどになっていた。
「総理! あんたいきなりこの村に来て、行政の指揮を取り始めたが、この有様を見ろ!」
「そうだ! こんなに重たい税金をかけて一体なんのつもりだ?」
「これじゃ総理なんていない方がマシだ!」
「総理! 総理が税金を着服したというのは本当ですか?」
総理は、
「記憶にございません」
「何が記憶にないだ!」
「ふざけるな! 国民全員を助けるとか言ってなかったか?」
「記憶にございません」
「あんたなんかやめちまえっ!」
そして、一人の農夫が総理に向かって石を投げつけた。
ガッ!
石は総理のこめかみにぶち当たり、血を滲ませる。
それを見て、サヨクが、
「ちょっと! あなたそれはやりすぎでござい――」
言い切る前に、総理はサヨクを遮る。
「言い返すな……支持率が下がる(小声)」
「でも……!」
それから総理は、罵詈雑言の中“記憶にございません”の一点張りだった。
騒動が収まると総理とサヨクは村の病院に向かった。
村にはあちこちにこじきがいてモノ乞いをしている。
「そーじそーり? 本当にこんな国立て直せるのですか? 国どころか小さい集落ですよ? それに隣国の言いなりだし……」
「ああ! 立て直せる!」
「なんでそんなに自信があるんでございますかっ?」
「それより早く病院に行くぞ!」
「怪我の治療ですね?」
「いや、逆だ! わしが怪我の治療を施す」
「はい?」
そして総理は病院に着いた。すぐに服を脱ぎ、鍛え上げられた大胸筋を露出させる。
彫刻のように硬く美しい筋肉は、まるで戦いを求めているようだ。
医者は、
「総理? 本当に上手くいくのですか?」
「ああ! わしに任せろ」
そして、総理は血液を輸血袋に移した。
その後、総理は村に対し無慈悲な圧政と重税を課した。
「異世界からきた疫病神だ!」
「やっとこの村が救われると思ったのに!」
「この村の行政をなんとかしてくれるんじゃなかったのか?」
総理は、
「記憶にございません」
と、だけ言いさらなる重税を課し続けた。圧政を指揮、ワンマンプレーを行い、重税に重税を重ねる。国民からの反発を無視し、強行を続けた。
そして、総理の支持率が上がった。
村には活気が戻り、打ち捨てられていた社会的弱者は社会復帰を果たした。
「こ、これはどういうことでございますか?」
サヨクは目を丸くしている。
その時だった――
「総理! 俺がこうしてまた働けるようになったのはあなたのおかげだ!」
一人の若者が駆け寄って来た。
「うむ。病気は治ったようだな」
「どういうことでございますか?」
「総理は、血液を怪我人に配ってくれたんだ。総理の血液を輸血した途端病気がなぜか良くなってね!」
「わしの血液には大量のナノマシンが含まれている。怪我を自動で修復し、ありとあらゆるウィルスを殺す作用がある。それにナノマシンはわしの体内で自己増殖する。それを使って、この村の病人を治療したんだ」
「税金もほとんど社会的弱者の手当てに使ってくださったんだ」
この国には悪循環があった。
まず、社会的弱者を切り捨てる。次に、健常者の税負担が増える。そして、余計働かなくてはならなくなり、体を壊し社会的弱者となってしまう。
この連鎖を断ち切るために必要なのは、気合でも根性でもなく――
「国民は国の宝。国民の健康こそが最優先で必要なモノなのだよ」
そして、ゴミの溜まり場のような国は、破竹の勢いで発展を遂げていった。
総理の血液により、怪我と病気がなくなり、障害者も働けるようになった。
働き手が増えたことにより、経済は好転の好循環に閉じ込められた。
さらに、総理は、その腕力にもモノを言わせた。
ある時は、“ドラゴンが守る塔”に閉じ込められた村娘を助けた。
「大丈夫か?」
「ええ。あなたは勇者様?」
「いや、わしは勇者じゃない……総理大臣だ。次の選挙では一票を頼むよ」
ある時は、ゴブリンに誘拐された子供たちを救った。
「ほらもう泣くな! わしが来たからにはもう安心だ!」
「おじさんは僕たちのヒーローなの?」
「いいや、ヒーローじゃない……総理大臣だ」
また、ある時は、盗賊団に奪われた金品を強奪し返した。
「金庫のものならなんでも持っていけ! だから命だけは助けてくれ!」
「なら遠慮なく全部奪っていく。元はと言えば、お前たちが真面目に働かないのが悪い」
「お前は……悪魔か何かか?」
「悪魔でもない……総理大臣だ」
そして、村は強固な経済基盤を手に入れた。
総理を恐れるため犯罪は一切起きない。
総理の血液により病気も一切起こらない。
総理の支持率はついに100%となった。
「総理! 前はひどいことを言ってすいませんでした。まさかこの村がここまで立て直せるとは……!」
「総理! あなたのことを疑って申し訳ないです」
「総理! 娘を助けてくださって本当にありがとうございます。この前は石を投げつけてすいませんでした。なんとお詫びしていいのか……!」
総理は、
「記憶にございません」
「「「えっっっ?」」」
「総理大臣は忘れっぽいんだ。そんな昔のこともう忘れちまったな」
柔らかな日差しのシャワーの中で、総理の行政は成功を収めた。
見知らぬ世界の、見知らぬ土地での、総理の無双快進撃はまだ始まったばかりだ。
[その日の夜 総理宅にて]
総理は村のいらない家をもらったのだ。
「ねえ。そーじそーり?」
「なんだ?」
「なんであの時嘘をついたんでございますか?」
「嘘?」
「ええ。『ナノマシンはわしの体内で自己増殖する』っていう嘘です。ナノマシンは有限。輸血で減らせば、その分総理の能力は落ちます」
「別にいいさ……国民が最優先だ」
「相変わらずですね! あ! そうだ。おばあちゃんから預かっていた手紙があるでございます」
「京香からの手紙?」
総理は、サヨクから手紙を受け取った。
「なんだ……これは?」
そこには身の毛もよだつようなことが書かれていた。
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