AH-project #12 「身柄取引」

「…ここからは私、五十嵐イガラシ 楓太ソウタが説明させてもらう。」

穏やかな雰囲気を醸し出すそいつはイガラシと名乗った。

すると、イガラシは確実に俺の方を向き、

「と言っても、私が説明すべき相手はそちらの方なんですがね」

と言った。


「…俺?」

「今はとりあえず、ウニさんの責任者的なポジションでこの話を聞いててほしいんです」


ヒラダは戸惑った。

恐らくコイツは以前ウニさんが話してくれた、銃で脅迫してきた男。

てっきりオグラを部屋から追い出した後、すぐに襲ってくると思った。

だがソイツは今、なにか話を持ち掛けようとしている。


(何が目的なんだ…?)

念のため、ヒラダは横目で転がっているバットの位置を確認した。


「えっと、あの…私まだブドウが宇宙人の可能性があるって事しか分かってないのですが」

「…ブドウ?」

「私の中で暮らしてる家族の事です」

「あぁなるほど、”ソイツ”の事ですか」

ブドウという家族をソイツ呼ばわりされ、ウニさんは顔をしかめたが、イガラシは無視して話を始めた。


「アダミノシスには沢山の能力があり、その中には”洗脳”といっても過言じゃないものがあるんです」

「「…洗脳?」」

ヒラダとウニさんは首をかしげた。

「人間の体内に入るとアダミノシスはまず初めに血液循環を利用して体全体、そして脳全体にも浸透する、するとアダミノシスの細胞は脳内で活動を始めます。そして体のどこかで漂っている古株細胞の命令振動を受けそれに従ってアダミノシス細胞は脳細胞の脳信号の阻害したり情報伝達物質の誘導をするようになるんですよ。」



(何を言ってんだコイツ…!)


なんだか難しい話をされているようで、全く頭に入ってこない。


するとウニさんは右手を挙げ、

「…すいません、ちょっと何言ってるのか分からないです」

と言った。

どうやらウニさんも同じ状況みたいだ。


「そうですねぇ…。

例え話なんですが、ハリガネムシって寄生虫知ってますか?」

「「…ハリガネムシ?」」

またしても変な言葉が出てきた。


「ハリガネムシっていうのは食べられる事で寄生するタイプで、最初はカゲロウのような水生昆虫に、次にその水生昆虫を介してカマキリやコオロギなどに寄生します、

そこからはその宿主の栄養を使って幼虫から成虫に成長します。

見た目は幼虫の時はイモムシみたいな感じで、成虫になるとミミズみたいに変わります。」

その説明する姿は、何故だかとても生き生きしているように見えた。


「ここからが独特の習性なんだけど、宿主の中で成虫へと育ち切ったハリガネムシは自身の目的のため宿主の行動をコントロール、洗脳するようになるのです。

洗脳される宿主、つまりカマキリやコオロギはハリガネムシのマリオネット、操り人形と化してしまうんです。

そしてその後ハリガネムシは宿主をどうするのかと言うと、水中へと誘導するのです。

カマキリやコオロギは泳ぐことが出来ないためそのまま溺死、ハリガネムシは体内から水中へと脱出し、水中で暮らす別個体と出会い繁殖をする。

これがハリガネムシの宿主洗脳による生存、繁栄方法なんです。」


例え話のていで話していいたはずなのだが、その事を忘れそうになるくらい語られた。


「…要するにここでのハリガネムシってのがアダミノシスで、アダミノシスは自分の目的のためウニさんの行動をコントロールすると」

「その通りです」

「ッ!ブドウはそんな事しません!」

その説明を聞きウニさんはカッとなった。


「まるでブドウが悪役みたいな言い方してますけど、ブドウは一切そんなことしていません!

私はブドウと17年間一緒に暮らしてますけど、利用されたことなんて一度もありませんよ!」

「…と言っているが、これもアダミノシスの影響かもしれないんです。

洗脳状態の奴が”自分は洗脳されてる”なんて普通考えない。」

「ヒラダさん助けてくださいぃぃ…。」

もう何を言っても無駄。

それを悟ったのか、ウニさんはすぐ折れてしまった。


「本題の前に一ついいか」

「なんですか?」

「ウニさんから話を聞かせてもらったんだが、なぜ誘拐しようとした」

「あっ!ちょっ…ヒラダさん」

ウニさんはヒラダの服の肩を引っ張った。

ウニさんの方を見てみると、ヒヤヒヤしている様子だった。


「大丈夫、何かあったら俺が守るから」

ウニさんに耳打ちするように言った。


「その件ですか、アダミノシスは知的生命体でいつ何をし始めるか分かりません。

だから早急にアダミノシスの排除しなければと思ったのです。

だがアダミノシスに寄生されている以上、口頭で説得することは不可能だと考えた結果、以前は誘拐という強行手段を使わせてもらったのです。」

「ウニさんに謝罪しようと思わないのですか…?」

「…確かにウニさんには申し訳ないことをしたと思っていますよ。」

「…なるほどね」

口では謝罪を並べているが、その態度には全く出ていなかった。

逆にその態度からは"止むを得なかった"と言わんばかりだった。


「で、俺に聞いてほしい話ってなんだよ」

イガラシは一回咳払いをはさみ、間を作ってから言った。

「単刀直入に言わせてもらうと、ウニアマネ君のアダミノシス除去をさせてほしいのです」

「ちょっと待って、それはどう考えてもウニさんに言うべき…」

そう言ってる途中で、さっきイガラシが言った言葉が頭に浮かぶ。


『洗脳状態の奴が”自分は洗脳されてる”なんて普通考えない』


つまりコイツの考えだと、ウニさんに聞いても絶対にダメと言われるから、俺に判断・許可をしてくれってことか。


(誘拐とか大胆にする割に、許可とかはきっちりとりたがるのな)


「ちょっと!私そんな要求絶対飲みませんからね!」

ウニさんは断固反対の姿勢。

「いや判断するのはアナタじゃないんです、ヒラダさんです」

一方のイガラシはヒラダに一任する様子だ。


ヒラダは”一応”どうするか考えた。

(確かにウニさんにはブドウを異常に溺愛している節があるんだよな、もしかしてそれも洗脳の一種なのでは…?)


なんて考えたが、すでに答えは出ていた。

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