第127話・RTB(リターントゥベース)⑧
ニールは鼻で笑い、言った
「なるほど、それが出来ればいい訳か」
「あぁそうだ」
「楽勝そうだ」
「そうだろうな」
ニールが得意げな様子で言い、レインも同じ調子で返す。
「あぁ、そうだ。上層部からお前に向けて、表彰を贈ろうという動きがある。近々再び基地へ出向いてもらうことになるかも知れない」
「表彰?」
「あぁ、今回の功労者はお前だからな。しかし、正規の軍人じゃないお前に送られることになるとはな」
「イロモノは変わった扱いを受けるもんさ。でも、悪いが辞退させてもらう」
レインが手で撥ねつけるような動きをしながら言うと、ニールは眉を歪め、首を傾げた。
「何? どうしてだ?」
「アンタ言っただろ、俺は軍人じゃない。それに、こちとらお嬢様の世話で毎日忙しくてな」
ニールは腕を組み、右手を顎下へ持って行き、言った。
「なるほど。しかし、せっかくのチャンスなのにか?」
「あぁ、せっかくのチャンスなのに、だ。俺はもう暫く軍隊として働きたくねぇのさ」
「そうか」
「置いてかれるのはもう御免だしな」
ニールは不機嫌そうに溜息を付き、言う。
「レイン、あれは――」
「分かってる。仕方ない事だったんだろ?」
「……あぁ」
「ちょっとした嫌味だ。聞き流しておいてくれ」
「そうか。なら、表彰の件は私から上に伝えておこう」
そう言って、ニールは部屋の扉の方へ向かう。
「ただ、一つだけ気にくわねぇことがある」
レインが声色を変えて言った。ニールは扉の前で彼の方へ向き直る。
「何だ?」
彼が一言返す。レインがベッドの上の枕を移動させると、その下からステンレスフレームのM627リボルバーが姿を現した。
「俺もさっき、チビっ子二人に押し倒された時に気づいた」
そのリボルバーを手に取り、ザイツに向かって言う。それからシリンダーを振り出し、銃本体を手前に傾けて装填されていた八発の弾丸を抜き取る。
「この銃は、俺にとっての最後の砦だ」
抜き取った弾丸を左手の上で転がしながら、彼は言った。
「七発は敵に向けて使い、最後の一発は自分の頭に使う。前までは六発装填のヤツを使ってたんだが、弾は多い方が良い」
小さく笑いながら言い、レインは続ける。
「死ぬ確率の高い作戦とか、敵の基地に潜入する作戦とかだと、いつもこいつを腰の後ろに差しておくんだ。無論、今回の作戦でも俺はコイツを持っていった」
ニールが腕を組み、部屋の扉にもたれ掛かりながら言った。
「それで?」
レインは弾丸をベッドの上に転がし、シリンダーを銃に戻す。
「武装の弾が尽きて、いよいよヤバくなった時、俺はコイツを使うようにしてる。七発は敵、一発は自分」
彼は手に持った銃に落としていた視線をニールの方へ向け、言った。
「だが、最後の一発を使うタイミングは自分で決める。それだけの覚悟は持ってるつもりだ」
ニールはその視線に応える様に、レインの方を見た。
「俺が気に入らないのは、そのタイミングをアンタに決められた事と、もう一つ」
レインはザイツの方へ目を向けて、言った。
「後始末をコイツに任せた事だ」
「ほう?」
ニールが言い、レインが続ける。
「隊全体の事を考えるのも結構、そのために俺を置いて行こうとするのもまぁ分かる。だがな、そのための後始末は自分でつけろ。汚れ役を他の奴に押し付けるな」
「そうか」
「もし、それが出来ないんなら」
レインは空のリボルバーの銃口をニールの方へ向ける。
「コイツは、アンタに向かって火を噴くことになるぞ」
ニールは自分に向けられた銃口を前に、淡々と言った。
「分かった」
そう言って、扉のノブへ手を掛ける。
「あぁ、あと」
レインが言った。
「何だ」
「見舞いに来てくれてありがとう」
彼が続けると、ニールが鼻で笑った。
「そうか」
それだけ言い、彼は部屋を後にした。
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