第126話・RTB(リターントゥベース)⑦

「ニール……!」


 ザイツは目を見開き、声を詰まらせながら彼の方へ顔を向ける。ニールは感情の読めない視線をザイツに返し、それから無言でレインの方を向いた。


「生きていて何よりだ」

「そりゃどうも」


 ニールはザイツの隣、マックスが座っていた椅子に腰を下ろす。


「さて、作戦は成功した」

「みたいだな」

「捕虜は全員救出した上、こちらの部隊員の損耗は無し。戦果としては申し分ない」


 ザイツがニールの方を向き、怒りを交えた声で言う。


「損耗無しだと? 目の前の男を見捨てようとしていたくせに!」


 ニールが刺す様な視線をザイツに向け、煩わしげに言う。


「言ったはずだ。彼一人の為に部隊員全員を危険に晒すわけにはいかないとな」


 彼はレインの方へ顔を向け、続ける。


「彼も納得している。そうだろう?」


 レインは一つ欠伸をし、頭の後ろで手を合わせてベッドに寝転んだ。


「まぁ、ある程度は」


 ニールが微笑を浮かべ、ザイツの方を向く。


「ほらな?」

 

 ザイツが苛立たし気に歯を食いしばる。


「ただ一つ解せないのは」


 レインがベッドに横たわりながら言った。ニールの視線が再びレインの方を向く。


「どうしてナギをシーサーペントへ受け入れたのかって事だ。部隊員全体を危険に晒すわけにはいかないと言うなら、あの状況でナギも置いて行くはず。だが、アンタはあの子を艦に招き入れ、結果俺も生きてる」


 ニールが腕を組み、レインへ見下ろす様な視線を向ける。


「あまり踏み込まない方がいいぞ」


 意味ありげに言った彼に対し、レインはベッドに寝転びながら、擦り上げるように彼を見た。


「何だって?」

「あまりそこに踏み込まない方がいい、と言ったんだ」

「へぇ? 踏み込むとどうなるんだ?」

「……後悔することになる」


 レインは溜息を付いて、上体を起こす。


「なぁ、隊長さん。何を隠したいのか知らねぇが、そういう的を得ない抽象的な事ばかり言われると、もっと踏み込みたくなるのが人間だ。生憎、俺は好奇心が旺盛でね。それもナギの事となると、俺はかなりしつこいぞ?」


 ニールを指差しながら、レインは微笑混じりに言う。彼は不機嫌そうに喉を鳴らし、言った。


「彼女は少し特別でね、我々としてもあの場に捨て置くことは出来なかった」

「彼女が特別? どう特別なんだ?」

「言ったはずだ。そこに踏み込むと後悔することになる。どうしても聞きたければ、本人に聞くといい」


 組んだ腕を膝へ持って行き、立ち上がってから、ニールは言った。


「もっとも、彼女もそれを承知の上だから、打ち明ける事は無いと思うがね」


 それから彼はレインのベッドの足元へ移動し、鉄柵の様な形状のあおりに両手を乗せる。


「しかし、彼女の剣幕には驚いた。前まではもっと大人しい性格だったはずなんだがな。お前、一体何をやって彼女をたらし込んだんだ?」


 ニールがレインの方を睨みつけ、言った。レインはその視線に微笑で返し、言う。


「簡単だ」

「ほう?」


 首を傾げるニールに対し、歯を見せつけながら、レインは言った。


「一人で中隊規模の連中を相手取ればいいのさ」

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