第124話・RTB(リターントゥベース)⑤
ナギが部屋の外へ向けて手招きすると、ザイツが中へ入って来る。
「やはり生きていたか」
こうなる事が予想出来ていたように、彼は素っ気なく言った。しかし、その口調には少し安堵した様な響きが混じっている。
「あぁ、おかげさまで――」
「レイン!」
レインの返事を遮り、声を上げて部屋の中駆け込んで来たのはカイエだ。声こそ出さなかったが、その後ろにはレーナが続いている。
二人はレインの姿を見るなり、彼が怪我人である事もお構いなしでベッドの上へ飛び掛かる。
「おい待て――!」
レインが言い終わるのも待たず二人の体重が彼に伸し掛かる。レインはなされるがままベッドに叩きつけられ、目を白黒させた。
「コラ! 二人とも!」
子供を叱りつける母親の様な口調で言い、二人の軍服の首根っこを掴んで引き剥がしたのは、いつの間にか部屋に入って来ていたシェラだ。駄々っ子の様に手足を振り回す二人をレインから放し、やれやれと言った様子で溜息を付く。
「はぁ、全くこの二人は」
「……痛ぇ、また寝かしつけられるかと思った」
レインは後頭部を摩りながら言い、ゆっくりと上体を持ち上げる。
「起きてすぐ騒がしいのは御免だ」
シェラに持ち上げられた二人の方を向き、レインは呟く。
「うぅ……ごめんなさい」
「……ごめん」
カイエが手足を力なく垂れ下げ、顔を俯かせて言う。レーナがそれに続いて口を開いた。
まるで母猫に咥え上げられた二匹の子猫がぶら下がっているような光景だった。
レインはそんな二人の様子を見て、思わず吹き出す。
「なに笑ってんだ!」
カイエが抗議の声を上げ、再び手足を振り回す。レーナはレインの方を睨み、頬を膨らませた。
「へへっ、悪い」
「また笑ったな! このッ~!」
牙をむいて怒る子猫の様だ、とレインは密かに思った。実際、食いしばった歯をむき出しにして怒る彼女を見ていると、その内牙も生えてきそうな勢いだった。
「こら! 本当にもう」
「いい、もう下ろしてやってくれ」
シェラがもう一度叱り声を上げると、レインが言う。
「いいのか?」
「あぁ」
彼女が一度大きく息を付き、二人を地面に下ろす。途端に姿勢を低くし、レインに飛び掛かる態勢を取った。
「待て」
レインは指を立て、二人の先手を打つ。白黒コンビはピタリと止まる。レインはベッドの左側に積んであった丸椅子を二つ下ろし、ベッド左側の足元辺りに並べた。
「お座り」
並べた椅子を指差し、彼が言う。二人は立ち上がって、その椅子の上にチョコンと座った。
「よくできました」
レインは自身から見て手前側に座ったカイエの頭を撫でようと左手を伸ばす。
カイエはその手をひらりと躱し、そして思い切り噛みついた。
レインの叫び声と、部屋にいた全員の笑い声が部屋の外にまで響き渡った。
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