第104話・CAS(クロースエアサポート)⑤

「うわっ! ……えげつないな、これは」


 ザイツが露骨に嫌な顔を示しながら言う。視線を右へ左へ巡らし、惨状をまじまじと眺めてから、唐突に右を指差した。


「あそこか?」


 彼の指の先には、ドアごと吹き飛ばされた壁があった。救出部隊が侵入する際、ニールが爆破したドアだ。


「あぁ、あそこから入って」


 レインは視線を左へ動かし、反対側の開け放されていたドアを指差す。


「あそこへ向かった」

「なるほど。だったら、元来た道を戻って、お前が侵入した奴でここを離れる、というのはどうだ?」

「ドルフィンか? アレは駄目だ。作戦終了後に自爆させる算段になってる。それに、端から行きの分の燃料しか積んでない」


 ザイツは煩わし気に頭を掻き、言った。


「うーん、どうしてこう肝心な時に!」

「仕方ねぇさ。文句言ってても始まらねぇよ」


 レインが言うと、彼のヘッドギアの無線機に通信が入る。


「レイン! レイン無事か!?」


 カークの声だ。


「あぁ、こっちはなんとか」

「そうか、それは良かったけど……うわッ!?」


 カークが声を上げ、通信が一瞬乱れる。


「カーク? カーク!? どうした!?」


 レインは通信機に向けて叫んだ。数秒ノイズが流れた後、通信が回復し、カークの声が戻って来た。


「あぁ、チクショウ!! レイン、すまねぇ。どうもお前を迎えに行けそうにねぇ!」

「おい、冗談だろ?」

「悪ぃが大マジだ。敵ワルキューレやら地上部隊がケツに張り付いてきてる! ここで戻ったら捕虜の命がアブねぇってんで、ニールが撤退を指示しやがった!」

「理屈は分かるが……クソッ!」


 レインは吐き捨てるように言う。カークが続けた。


「そんな訳で迎えに行けねぇ、スマン! あっ、そうだ! ザイツは!?」

「アイツのアーマーは燃料切れ。今はあの格納庫に身を潜めてる」

「あそこか!? チクショウ、それにしても使えねぇ奴だなアイツ!」


 ザイツが歯をむき出してレインの方を向き、不機嫌を露わにして、無線機越しのカークに言う。


「聞こえてるぞ!」


 カークも負けじと言った。 

 

「うるせぇ! 飛べねぇワルキューレに用はねぇってんだ!」

「なにをっ!?」


 ザイツの反論を受け流し、カークは言った。


「でも、いいかレイン!? 俺はお前が戻って来ると信じてる! だから、絶対戻ってこい! いいな!?」

「この野郎ッ……! 無茶言いやがって!」

「通信終わり! じゃあな!」


 無線機がブツリと音を立て、カークとの通信が切断された。


「あっ! テメッ! ……あぁッ、チクショウ!」


 口汚く吐き捨てたレインに対し、ザイツが言った。


「どうするんだ? レイン?」

「どうもこうも、何か使える物を……」


 そこまで言った所で、レインはふと思い出す。先程ここに突入した際、この格納庫の隅に、何かが捨て置かれていたはずだ。


(もしかして――)


 彼は格納庫に視線を巡らす。


 そして、あった。ブルーシートが掛けられた鉄の骨組み。


 レインはそこに駆け寄り、無造作に掛けられていたブルーシートを引っぺがす。


「コイツは……」


 思わず口角が上がるのを止められない。


「それは何だ?」


 ザイツが後ろから声を掛ける。レインが彼の方へ向き、言った。


「ザイツ、ここを出るぞ」


 レインが笑みを浮かべながら言う。彼が手を置くフレームは、何か車体の一部の様だった。


「カーク達と合流する」

「……まさか、それで行くつもりか?」

「あぁ」

「無茶だ! それには何も装甲が施されていないぞ!」


 ザイツの声と対称的に、レインは落ち着き払った様子で言う。


「俺のコールサイン、知ってるか?」

「確か……地を駆ける者ロードランナー?」

「そうだ」


 それだけ言い、レインは運転席に身を沈めながら言った。


「ザイツ、俺を信じろ」






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