第103話・CAS(クロースエアサポート)④
「突っ立ってないで走れ!」
レインが叫んだ。ザイツの腕を取り、引き倒す勢いで後ろへ引き、そのまま自分も後ろへ向き直って走り出す。
その直後、アパッチのチェーンガンが火を噴き、暴力的な銃声と共に、三十ミリの砲弾が周囲に降り注いだ。撃ち崩され、吹き飛んだアスファルトの破片や、砲弾の鉄片が二人に飛来し、炸裂音で耳が痛む。
「マズい! あそこに逃げ込むぞ!」
ザイツの叫び声が、辛うじてレインの耳に届いた。彼が指を差した方を向くと、そこには地下へつづくカタパルトが見えた。そこへの入口は地面からせり上がる様な形で開いており、使わないときには閉じて、道路の一部分として使われているように見える。
地下への秘密基地、のようにも見えた。
二人はなんとかそこまでたどり着き、せり上がった屋根を盾にする様にして、ヘリから身を隠した。ヘリは一旦二人の上を通り過ぎ、少し離れた地点で、左へターンを始める。
「これ、飛び降りて大丈夫なのか?」
ザイツが地下への入口を覗き込みながら、不安を滲ませた声で言った。レインも下を覗いてみる。その先には、昼だと言うのに薄暗い闇が広がっていた。地面はかなり下の様だ。
「さぁな」
「さぁな、って何だ!? 降りた先で骨折なんて、僕は嫌だからな!」
「わがまま言ってる場合か?」
レインが言い、後ろを振り返る。ターンを終えたアパッチが、機首を下に傾け、不気味なローター音と共にこちらへ飛んで来るのが見えた。
「骨折かミンチだ。好きな方を選びな」
「……えぇい! 仕方ない!」
ザイツが己を奮い立たせるように言い、薄暗闇の中へ飛び込む。少し遅れて、レインもそこへ踏み込んだ。
闇の先のカタパルトは斜めを向いて敷設されており、飛び出した二人は数秒後にその地面に受け止められた。尻もちをつく形で着地し、カタパルトを滑り降りる形で地下へ吸い込まれて行く。
その直後、ヘリが入口の先でホバリング態勢に移り、再びチェーンガンが火を噴いた。
カタパルトの薄暗闇が発火炎でストロボライトの様にピカピカと照らし上げられ、砲弾が地面や壁、天井を砕いた。
発火炎で断続的に周りが照らされるため、レインはすぐ近くにザイツが居る事に気づいた。左へ手を伸ばせば届きそうな位置だ。
「危ねぇ!」
レインは一度、後方、上空のヘリに顔を向け、そう叫んだ。それと同時に、ザイツの身体を蹴飛ばし、カタパルトを滑り降りる二人はそれぞれ左右に離れて行く。
ザイツが息の詰まる苦し気な声を漏らすと同時に、丁度二人が開けた空間に砲弾が降り注いだ。レインの蹴りがあと少し遅ければ、二人は今頃、肉片と化していただろう。
二人はカタパルトを下り切り、地下基地の地面に尻を打つ。ザイツが立ち上がろうと右手を突くと、ヌメッとした液体に手を取られ、再び転んだ。
「イテテ……何だ?」
そう呟きながら、ザイツが右手に目をやると、そこが真っ赤な液体で濡れているのが見えた。
「うわぁ!? これは、まさか――」
「あぁ、血だ」
いつの間にか立ち上がっていたレインが言い、舌を打った。
「何で知ってるんだ?」
ザイツが言うと、レインは不敵な笑みを浮かべながら、彼に手を差し伸べて言う。その笑みは、何処か自虐的にも見えた。
「それはな――」
手を取り返したザイツを引き起こしながら、レインが続ける。
「ここへは、さっき来たからだ」
目の前に広がる惨状に目をやりながら、彼は言う。
「これも、俺達がやった」
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