第95話・D-デイ②

 ヘッドギアに取り付けられた暗視ゴーグルを倒し、MP7の赤外線レーザーを点ける。銃本体右側に取り付けた機器から光線が伸びた。これは、本来は不可視光線で、暗視ゴーグルを付けた際にだけレーザーの線が見えるようになる代物だ。


 ニールやカークも同じ機器を起動させ、暗視ゴーグルが映す緑色の世界の中、銃から出た光線が四方八方へ伸びた。まるでハリネズミの様な光景だった。


 ニールを先頭に、ライド、マックス、カーク、レインの順番で下水路を進む。ゴーグルを付けたことで初めて分かったが、彼等が進んでいる通路は人一人は十分通る事が出来るが、すれ違う事になるとかなり苦労しそうな幅しかない。

 通路のすぐ左には汚水が流れており、それを挟んだ向こうに同じような幅の通路があった。


 何より臭いが酷い。排泄物や機械の油。或いはそれらが混じったような、長く居れば鼻がおかしくなりそうな臭いが充満していた。


 通路を暫く進み、ニールが停止のハンドサインを上げる。全員の動きがピタリと止まった。一匹の蛇が動きを停めたかのようだった。膝を突き、右へ折れる角にぴったりと身を寄せる形をニールが取ったので、全員でその後ろへ詰めて並ぶ。


 最前列、ニールのレーザーは真っ直ぐ前を向いているが、その後ろから伸びるレーザーはそれぞれが別の方向を向いている。角の逆側からの敵を警戒しての事だ。


 レインは真後ろを警戒し、レーザーが一本後ろへ伸びていた。


 話し声が角の向こうから聞こえてくる。足音からして、敵の数は二人だ。レインは自分が向いた方向へ注意を向け直す。こちら側からは敵は来ていない。


 足音が、一歩一歩、段々と近づいて来る。


 数秒が経った。数分にも感じられた。ニールの銃からバスッと言うような、籠るような音が二度鳴った。話し声が突然途切れ、コンクリートに人体が倒れ込む衝撃音が無慈悲に水路に響く。銃を取り落としたのか、ベストに弾倉を差していたのか、鉄が擦れる音も混じっていた。


 後方、少し離れた辺りで、ニールが立ち上がる気配がしたが、レインは後ろを向いたまま、膝を突いたまま待った。少しして、すぐ後ろのカークが立ち上がる際の衣擦れの音が聞こえ、彼がレインの肩を叩く。その時初めてレインは立ち上がり、警戒しながら後ろ向きに歩いて、隊列に続いた。


 角を折れ、またしばらく進む。レインは横を向き、右方と後方を警戒しながら歩いた。


 ニールが再び停止の合図を出し、隊列は止まる。錆びれた鉄のドアの前だった。三段ほどの石段が設けられ、その上にドアが設置されている。ニールは後ろのライドへ手を伸ばす。ライドが銃を首に掛けたスリングに預け、腰の辺りから四角い塊を取り出すのが見えた。


「C4を設置する」


 ヘッドギアに搭載された無線機からニールの声が流れる。彼はドアノブのすぐ下にC4爆薬を接地すると、隊列と共に安全な位置まで下がり、起爆スイッチを手に、言った。


「行くぞ」


 


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