第94話・D-デイ①
けたたましいサイレンが艦の外で鳴り響いている。発進の合図だ。ドルフィンはレールの上に乗せられているようで、横に滑るように動いた後、短く前進する。
「コイツは魚雷発射管から撃ち出されるように発進する。今は、シーサーペントの中のレールを移動している最中だ」
ニールが言った。ドルフィンのエンジンは既に点火されていて、乗り込んだ際に被ったヘッドギアに接続された無線機から彼の声が流れた。これが無いと、会話もままならないほどドルフィンの内部はうるさい。
厚い装甲の外から、ガチャンと言う機械と機械の接続音が響き、ドルフィンの周りが静寂に包まれる。
『注水開始』
電子的な音声が艦内に流れた。操縦桿を握るニールのすぐ前にあるモニターを覗き見ると、ドルフィンを模した表示の周りに、青い水の模様が満ちて行くのが見えた。
それを見るに、発進準備は後一分足らずで完了するらしい。レインは五点支持のシートベルトの閉め心地を確かめ、深呼吸する。
『完了しました』
先程と同じ声が響いた。艦の外を満たす静寂がさらに深くなったように感じる。周りが水に満ちたためか、わずかな空気の揺れすら感じない様な、完全な無音が周りに満ちた様な感覚だった。
「静かだ」
レインのすぐ後ろ、三列目の左に座っていたマックスが腕を組みながら、声を漏らした。ほぼ無音の中、彼の声だけが響いた様な、そんな奇妙な空気がそこに漂っている。
思わず寂しさを覚えてしまうような、そんな空気に耐えられなくなったのか、カークが乱暴な口を開く。
「なぁ、これいつ発進――」
その時、ドルフィンの船体が急発進する。五臓六腑を搾り上げられるような衝撃が艦内の連中に襲い掛かり、レインは思わず情けない声を漏らす。
「うぅっ!?」
ドルフィンはその加速度を保ったまま、更に速度を上げていく。49ノット、とニールは言ったが、そんな速度を軽く超えているのが肌で感じられた。
「49ノットってのは嘘かよっ!?」
「あぁ! ホントの事言って、ビビらせちゃ悪いと思ってな!」
「余計な気を回すなってんだ! 嫌がらせにしかならねぇぞ!」
「察しが良いな! フォーミュラ上等兵曹長!」
「くたばりやがれ!」
前後の席で、ニールの高笑いと、レインの怒号が行き交う。隣に座っていたライドは余裕の表情でシートに身を預けているが、後席のマックスとカークは歯を食いしばり、加速Gに耐えるので精一杯だ。
「よし、作戦地点付近だ。総員、戦闘準備」
ニールが淡々と言い、操縦桿横のレバーを少し手前に下げた。ドルフィンの速度が少し落ち、何とか落ち着いて喋れる程になる。
「冗談じゃねぇぞ!?」
まず怒号を上げたのはカークだった。
「49ノットだぁ!? んな嘘ついてんじゃ――」
「よし、浮上するぞ。気を引き締めろ」
そう続けたニールの声は決して大きいものでは無かったが、それでもニールの怒気を引っ込めてしまう程の力のある声だった。艦内が水を打ったように静かになる。
張り詰めた様な空気が、周りを包む。
「……大丈夫そうだ。攪乱作戦は上手く行っているようだ」
ニールは言うと、自身のすぐ隣の席に置いていたMP7短機関銃を手に取り、スリングで体に引っ掛ける。それを真似る様に、ドルフィンの中の連中が銃を手に取った。
艦内に設置された梯子を上がり、ハッチを開けてニールが外に出る。それに続き、ライド、レイン、カーク、マックスの順で船外へ出る。
外は何か地下の排水施設の様な場所だった。例の攪乱作戦とやらのおかげか、敵兵の姿は見えない。レインはすぐ左にあった梯子でコンクリートの通路に上がり、ニールとライドに続く。カーク、マックスが合流すると、銃を前方に構えたまま、ニールが言った。
「全員揃ったようだな。これより、作戦開始だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます