第89話・再編成⑤

 久しぶりの五点着地法で足首を挫き、レインは足を引きずりながら、命辛々女子寮から逃げ出した。


 夜の闇の中、背後の建物からは怒号が響き渡り、レインは冷や汗を垂らしながら、息を殺して歩を進める。


 腰まである草木に身を隠しながら、コソ泥の様に移動した。


 別れる前に教えてもらったカークの部屋へ急ぎ、転がり込むようにして中へ入る。


「……何やってんだ?」


 並べてあった靴や、靴箱の上に置いてあった灰皿をなぎ倒しながら、玄関に倒れ込むレインみて、椅子の上で上体を捩じりながらカークが言った。

 部屋の中心で、彼と対面して座っていたマックスが腰を浮かせ、何事だ? という視線をレインに向けている。


 注目の的であるレインは、足を無くしたゾンビの様に玄関を這いずりながら言った。


「負傷した! 衛生兵を頼む!」





 レインはカーク達の部屋でトランプゲームをやったり、映画を見たりした後、それぞれ別のベットで夜を明かしたその翌日。


 一番早く起きたのはレインだった。部屋に掛かるデジタル時計が示すのは午前三時三十分。捕虜救出作戦の招集が掛かるのは四時だ。


 レインは支給されたのであろう、部屋の中心のテーブルに置かれていた黒い戦闘服に着替え始める。昨日、彼を迎えに来た戦闘兵、ライド達が着ていた物と同じ代物だった。


 ズボンを履き替え、ジャケットのボタンを上まで止め終えた所でマックスが起きて来る。


「相変わらず早いな」


 欠伸混じりの声でマックスが言った。レインは彼の戦闘服を手に取って渡す。身長百九十センチを超える彼の服は、一回り二回り程大きいのですぐに判った。


 マックスがコクリと頷いてそれを受け取り、あまり時間を掛けずに着替えた。


 手持ち無沙汰になったレインが襟元を弄って正していると、猛獣の鳴き声の様な鼾が部屋の中へ響き渡り、レインとマックスは思わず失笑する。二人でカークの様子を見に行くと、彼はブランケットを放り出し、寝相悪く手足を投げ出して眠っていた。


「マックス、ちょっと……」


 レインは言い、カークが起きないようにひそひそ声で続ける。もっとも、カークの鼾から察するに、多少の物音では起きそうにも無かったが。


 彼の提案に、マックスは親指を立てて了承し、彼はカークのベッドの反対側へ回り込んだ。


「オーケー、やれ!」


 その掛け声と共に、レインは部屋の電気を付ける。同時に、マックスはカークのベッドを掴み、片側だけを思い切り持ち上げた。


「せいッ!」


 その掛け声とともに、ベッドは左へ回転し、カークはそのままベッドから転げ落ちる。


「うわぁ! 何事だァ!?」


 瞬間、目を覚ました彼が開口一番の喚き声を上げた。


 レインとマックスは腹を抱えて笑い、その様子を見たカークが怒りの声を上げる。


「お前らなぁ!」


 すると、レインは彼の分の戦闘服を渡し、言った。


「ほら、起きる時間だ。着替えな」


 




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