第90話・作戦前夜①
カークが戦闘服に着替えるのを、レインとマックスは部屋の外で待っていた。
ブランクの無いマックスは、戦闘服とミリタリーブーツを普段着の様に着こなして、休めの態勢で立っている。しかし、その隣で同じ態勢を取っているレインには、襟元が少しきつく、支給されたブーツが固いのが気に食わなかった。
「合わねぇか?」
その様子を横目で見ていたマックスが、口元に笑みを浮かべながら言う。レインは膝を曲げ、靴裏を覗き込むようにしてブーツを掴み、言った。
「何かちょっと固い気がする」
「新品の靴はどれもそんなもんよ」
「リーザの奴とちょっと使い勝手ちがうんだよな」
ブーツを軽く叩いたり、手でグネグネと曲げたりしていると、部屋のドアが開き、中から支度を済ませたカークが出てきた。
「オッケー、終わったぜ」
二人はカークの方を向き、レインが口を開く。
「よし、じゃあ行くぞ」
まだ暗い寒空の下を、リーザ兵三人は肩を並べて歩き、前日のブリーフィングでニールから告げられていた倉庫にやって来た。基地の中で唯一海に面した倉庫で、航空機用のハンガーや戦車等を格納する車庫よりも随分と巨大な代物だった。
正面。開いていれば戦艦でも通れそうな程、巨大な横開きのゲートは固く閉ざされていて、所々塗装が剥げて錆びついているのが見える。それを見過ごしながら、レイン達は倉庫の裏手に回り、赤褐色の小さな鉄の扉から倉庫の中へ入った。
薄暗い廊下を潜り抜け、事務室の様な所に出た。コンクリート打ちっぱなしの床と壁、天井で囲われており、上から白熱電球が吊り下がっている。壁の前には木の机が置かれ、壁に航路図の様なものが張られていた。
隅にポツンと置かれたロッカーには掃除道具が収納されているのだろう。
マックスが上体を曲げ、航路図を覗き込んだ。そこに赤い線で書き込まれた線をなぞりながら口を開く。
「これが今回の航路か?」
レインは同じ物を覗き込み、言う。
「だろうな、昨日のブリーフィングで使った奴と同じ地図だ」
「おい」
カークの声が響く。二人はそっちに目をやった。
「こっちだぜ?」
手を掛けていたドアノブを捻り、カークが部屋の隅のドアを開けた。そこから先は明かりが灯っている様で、開いた隙間から光が差し込む。
二人は身体を戻し、ドアの方へ歩いた。カークが躊躇なくドアの先へ消え、バタンと閉まったドアをレインが再び開く。
「お先にどうぞ」
「悪いね、旦那」
軽くふざけながら、レインはマックスを先に通し、その後に続いた。
「おいなんだあれ!?」
その時、カークの大声が倉庫内に響いた。
彼の視線の先、眼下の方へレインは目をやる。
そこにあったのは、戦艦のブリッジに似た、巨大な建造物だった。しかし、それは建物とは違い、水面から生えている。
「うわっ!」
レインは自分の足元に目をやり、思わず声を上げる。
彼らがドアを抜けた先、そこは倉庫内の高いところを通る通路になっていた。足元は建築現場で使われるような、金網構造の鉄の渡し橋の様になっており、隙間から満ちた海水が波に揺れているのが見えた。
この倉庫には床が無かった。どうやら海の上に倉庫を建て、艦船や空母を収容するための物だったようだ。正面のゲートの大きさにも納得がいく。
しかし、この水面から直接突き出たブリッジは何だ?
レインがそれに目を奪われていると、そのブリッジを挟んだ反対側の通路から声が掛かる。
「おい!」
レインがそっちに目をやる。少し見えづらいが、F.O.U.N.D.Sの隊長、ニール・フラナガンだった。
「来たか! お前達で最後だ!」
ニールは言い、そして続ける。
「早く乗り込め! すぐに出発するぞ!」
例のブリッジを指差しながら、彼は言った。
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