第68話・第一幕エピローグ

 レインはバイクに跨って、ある場所に向かっていた。


 事の発端は今朝の事だ。退役軍人とは言え、予備役というものが存在し、彼はそれにあたる。

 有事の際等に退役軍人を招集し、戦力を補填するための制度だ。


 突然上官に呼び出され、レインは詳細も告げられることも無いまま、GPSを渡され、ただここに行けと命令されのだった。


 何でも、ガルタ軍中将からの要請だったとか。


 距離としてはかなり遠く、バイクで向かっても半日ほどかかる。


 あんな出来事の後だ。レインとしてはもう二、三日ほど家で安静にしておきたかったが、どうやらそうもいかないらしい。


 ハイウェイに乗り、V45マグナのスロットルを更に捻る。


(寒っ)


 目的地。国境付近は寒い気候だと聞いている。そのせいか、体に当たる風が冷たくなってくる。




「……何だここ」


 目的地に到着したレインの眼に飛び込んで来たのは、ガレージの付いた一軒家だった。玄関横のシャッターが口を開けており、その奥には一台、大柄なSUVが止まっている。


 ウルス、と言う車種だったはずだ。どうやら家の持ち主はなかなかの金持ちらしい。


 レインは路肩に停めたバイクのスタンドを立ててエンジンを切り、そのSUVの方へ近寄った。

 中々目にする機会が無いので、少し興味が湧いただけだ。


「やっ」


 目の前の車をまじまじと眺めていると、後ろから声が掛かる。


 レインが振り返ると、そこに居たのはナギだった。


「あれ?」


 彼は思わず素っ頓狂な声を上げる。思わぬ人物の登場だ。


 微笑む彼女は軍の制服やボディスーツでは無く、ショートパンツにタイツ、シャツの上からカーディガンといった、かなりカジュアルな装いに身を包んでいた。


「何でこんな所に?」


 レインが言う。ナギは車を指差しながら言った。


「それ、私の車」


 視線を彼女が差した先に戻す。そう言えば貴族のお嬢様だったか、とレインは独り言ちる。


「この家も?」

「そう」


 彼はぐるりと家の中を見渡し、言った。


「すげぇな」


 そして一つの疑問が浮かび、言う。


「俺は何でここに呼ばれたんだ?」

「あれ? シェラから聞いてないんだ」


 ナギはレインを指差し、言った。


「貴方には、今日から私の身の回りのお世話をしてもらいます!」


 レインは小さく鼻を鳴らし、言う。


「家政婦が務まるか疑問だが」

 

 頭を左右に揺らし、ナギは言う。


「ううん、どっちかって言うとね……」


 陽光を背に、彼女は満面の笑みを浮かべながら、言った。


「よろしくお願いしますね、旦那様!」


 




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