第二幕
第69話・第二幕プロローグ
レインがベッドの上で目を開けると、カーテンの隙間から射した陽光が、彼の目元へ容赦なく照り付けた。
天然の目覚まし時計だ。
眉を歪めながら上体を起こし、彼は枕元に置いた目覚まし時計に手を伸ばす。時刻を確認しようと、それを顔の前に持って来たと同時に、前の晩に念のためにセットしておいたアラームが鳴った。
耳障りなジリリというけたたましい音に耳を傷めながら、レインはベッドから立ち上がり、アラームを止める。時計を元あった位置に戻し、カーテンを開けてから伸びをする。
軍を抜けてしばらく経つが、現役時代に叩き込まれた体内時計だけで起きる癖は暫く抜けそうに無かった。
レインはベッドのすぐ隣のクローゼットを開け、長袖のヘンリーネックとベルトを巻いたジーンズを身に着ける。寝室を抜け、そのまま真っ直ぐにガレージに向かった。
今の季節は秋深く、冬の到来を感じさせる。ガレージはコンクリートの壁とシャッターで外界と隔てられているものの、早朝の冷気はガレージの中を容赦なく冷やす。屋内と言えば屋内だが、ここと家の中では二、三度程気温が違う様に思えた。
ただ、その冷気は今のレインにとっては都合がいい。彼はガレージの隅に吊ったサンドバックの正面に立つと、右足を後ろに引き、腕を肘を曲げて顔の前に構え、一度だけ深呼吸をした。
右の拳を突き出し、サンドバックを叩く。バスン、という破裂音がした。すぐさま身体を反対へ回し、左のフックを胴の辺りへ叩き込む。小さく左半身を戻し、テンポよくもう一発を頭の辺りへ振りかぶる。左に揺れたサンドバッグを追い、振り上げた左足を横に薙いだ。
爆発音とも取れる様な音がガレージの中へ響き渡り、サンドバッグが二つ折りに歪んで大きく振れた。
レインは小さく笑みを浮かべ、へへっ、と喉を鳴らす。まだまだ身体は衰えていないようだ。
最も、現役時代から体重は三キロ程落ちたが。
彼は暫く好きなようにサンドバッグを痛めつけた後、腕立て伏せや腹筋などの簡単なトレーニングを行った。
息を上げ、汗を拭きながら身体を起こし、ガレージの壁に立て掛けてあった時計を見上げた。
「……そろそろ起きてくる頃か」
レインはそう呟くと、トレーニングを切り上げ、ガレージのドアを開けて家の中へ戻った。
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