第41話・コールサイン『ロードランナー』②

 腕の折れた女兵士は、解放されたガルタ公国の兵士達が縛り上げた。ナギは慣れない短機関銃を味方の一人に渡し、おもむろに服を脱ぎ始める。


「ち、ちょっと大尉! 何を!?」


 その様子を見ていたガルタの女兵士が言った。しかし、ナギは手を止めることなく、黒いタートルネックを捲り上げて行く。その下から姿を現したのは、アーマーを装着する際に着込むボディスーツだ。


「ここにあるワルキューレアーマーを強奪します。誰か、プログラムを書き換えられる人は?」


 数人が手を上げ、ナギは指示を出す。彼らは灰色の機体に向かい、すぐさま作業を開始した。


「大尉、一つお伺いしても?」


 先程の女兵士が、ハーフパンツに手を掛けたナギに問う。


「はい、何ですか?」

「大尉殿は、どうやってここに?」

「協力者のおかげです」

「協力者……?」


 女兵士は怪訝そうな顔を浮かべる。


「それは誰ですか? 私の知る限り、あの車列に居た兵士たちは全員ここに居るはずですが……」


 ナギは小さく笑い、言った。


「でも、居たんです。とっても心強い味方が」

「……まさか! あの、リーザの!?」


 突如上がる驚愕の声に、彼女は口を押えてクスクスと笑う。


「そんな! 彼は異国の人間ですよ!?」

「変ですよね? でも、私がここに居るのも事実です」

「し、しかし大尉! 彼が裏切らないなんて保証は――」

「大丈夫です」


 もっともな懸念に、ナギはきっぱりと言い切った。


「……何故、そう言い切れるのです?」

「何故なら――」


 彼女は女兵士の方を向き、少しほころんだ顔を見せ、言った。


「彼が、レイネス・フォーミュラだからです」




 腕を捻り上げた敵兵を盾に、レインは右手だけで構えたMP5をフルオートで乱射する。客車の通路を迫って来るクゥエルの兵士が、弾丸の雨に降られ、三人バタバタと床に崩れ落ちた。


 その後ろから、鬼の形相で二人が迫って来る。


 弾倉が空になった短機関銃の機関部が前後運動をやめ、遊底が開き切った。ガチン、というメカニカルノイズと共に、レインの腕が弱い感性で前へ振られる。

 彼は舌を鳴らし、右手のMP5を敵に向かって放り投げた。


 先頭の男が飛んで来たそれを左手で弾き飛ばし、手に携えた同型の短機関銃をレインへ向ける。


 が、レインは腕を捻り上げた兵士の足に巻かれたサイドアームを引き抜き、既にその銃口を敵へ向けていた。


 USP自動拳銃の四十五口径仕様。今まで彼が握っていた、CZ75より口径が大きく、反動も幾分か強いが、彼にとって問題になる事では無い。


 肘を曲げた状態で引き金を何度も引く。狙いも付けず、弾倉が空になるまで撃ち切った頃には、床には穴だらけになった死体が新たに二つ横たわっていた。


 突如、腕を捻り上げた敵兵が唸り、自由な左腕を曲げ、突き出した左肘をレインの鼻先へ突き下げた。

 

 レインはそれをモロに貰い、鼻から血を吹き出す。敵兵は自由になった右腕を後ろへ振り回し、追撃の裏拳を繰り出そうとする。


 だが、素早く態勢を立て直したレインは、肘を曲げ、両の前腕でそれを受け止めた。敵の腕を右手で掴み、腋の下から左の拳を敵の下顎へ炸裂させる。ふらついた敵兵のあばらへ左肘を突き立て、脚を引っ掛けて床へ押し崩した。


 無防備に横たわる敵兵の顎先に、鉄板で補強されたタクティカルブーツのつま先を蹴り上げる。歯を何本か叩き折る感覚をつま先で感じ、敵兵はそれっきり動かなくなった。


 レインはしゃがみこんで、今しがた気絶させた敵兵の左足から拳銃の予備弾倉を二本引き抜く。一本を銃本体に叩き込み、もう一本をジャケットの内ポケットへ滑り込ませた。


 立ち上がり、先へ進もうとした時、彼は途端に鼻がムズ痒くなって、大きなくしゃみを爆発させる。

 鼻を啜りながら、彼は言った。


「誰だよ、噂してんのは」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る