ダンジョン深層でパーティを追放されたブバーン 勿論追放したアイツ等には地獄見てもらいます
昆布 海胆
ダンジョン深層でパーティを追放されたブバーン 勿論追放したアイツ等には地獄見てもらいます
俺の名はブバーン、この勇者パーティに所属している『すっぴん』職の冒険者だ。
俺の職業すっぴんは何の特殊なスキルを持たないハズレ職と言われている。
すっぴんは魔法職よりも体力があり、戦闘職よりも魔力がある俗に言う器用貧乏タイプの職業とされている。
重い荷物を重さを軽減して収納できるマジックバックに魔力の量だけ収納できる事で採用された俺なのだが・・・
「ブバーン、悪いが君とのパーティは解消させてもらう!」
「えっ・・・」
俺達のパーティのリーダーである勇者『ライガ』に俺は解雇通告を受けてしまったのだ。
しかもここは・・・
「お、おいライガ・・・ここ何処だか分かって言ってるのか?」
「あぁ、深淵の洞窟38階層だな」
ライガは心底嬉しそうに、ニヤけた顔で俺にそう伝えてきた。
態々この場で言わずに帰ってから言えば良い事をここで告げる、それがどういう意味なのか理解しているのかとパーティメンバーに視線を送るが・・・
「なんの役にも立たないアンタとはお別れってライガは言ってるんだよ」
「マーリン・・・お前まで・・・」
こいつは女魔法使いのマーリン、普段から俺にキツく当たってきているのは感じていた。
だがそれでも同じパーティメンバーとして助け合っている部分もあった筈である。
「これも運命なのです。ブバーンさん、運命を受け入れるべきです」
「ミリア・・・」
女僧侶のミリア、パーティの中で唯一俺に優しくしてくれていた彼女・・・
しかし実は・・・
「分かった。それじゃ俺はこの探索から戻り次第パーティを抜けるって事で良いんだな?」
「ククク・・・クハハハハ!」
「?」
突然笑いだすライガに俺は首を傾げる。
おかしな事は何も言ってないと思うのだが・・・
「違う違うブバーン・・・君と解散するのは今この場でだ!」
ライガの一言を聞いて俺は頭が真っ白になった・・・
魔物が大量に徘徊するこの深淵の洞窟38階層で俺をパーティから離脱させる、それがどういう意味なのか理解できない筈がない。
「理解した?あんたとは今この瞬間パーティを解散するってライガは言ってるのよ!」
マーリンの言葉が返事を返せない俺に届く、視線をそっちにやるとニッコリと微笑むミリアも俺に小さく手を振っている。
つまり・・・それは・・・
「リーダー権限!パーティ離脱!」
『ライガのパーティからブバーンが離脱しました』
ライガが発言し、俺のステータスがパーティから外れた事を知らせる通知が脳内に届く。
戻ってから離婚調停のように財産分配について揉めないと駄目なのを予想していた俺は唖然としてライガを見た・・・
「これでお前はもう他人だ!今すぐ何処へでも失せると良いぞ」
嬉しそうに言い放つライガに俺は思わず声が漏れた・・・
「えっ?良いの?」
幽霊が通過した時に静寂が流れるとは聞いた事があるが、それがこういう状況なのかと理解するほど一瞬空気が凍った様に静寂が訪れた・・・
俺の言った言葉の意味を理解するのに時間を要したのかライガが固まったまま口をパクパクさせていた・・・
だが、直ぐに何かに気付いたのかライガは思い出したかのように口を開いた。
「そうだそうだ、忘れるところだった。お前のマジックバックは置いて行って貰うぞ、それは俺達の荷物だからな!」
「そ、そうよ!その中には今回の探索で見つけたお宝も大量に入ってるんだから!」
「マジックバックは教会からの支給品、ですので貴方からは返して貰わないと駄目です」
3人は慌てた様子で口早に俺に告げてくる。
確かにこのバックはミリアの所属する教会から貸し出されたマジックアイテムだ。
中には今回の探索に必要とされる食料等の物資や回収したお宝が山の様に収納されている。
だから俺は伝え返した。
「えっ?良いの?」
再び静寂が訪れる・・・
その言葉を返して俺は肩から下げていたマジックバックを床に置いた。
「それじゃ俺はこれで」
身軽になった俺は片手を上げて彼等と反対方向へ歩き始める・・・
そして、すっぴんのアビリティに単独探検者のマジックスキル『リレミトウォーク』をセットして使用する・・・
これは職業『冒険者』の単独探検者と言う称号を得た時に得られるユニークスキル、ほとんど知られてはいないが俺の職業『すっぴん』は実は他の冒険者が会得した称号を1つの職業につき1つだけ獲得する事が出来、それを自由にセット出来る職業なのだ。
これは魔力を消費してダンジョンから外へ脱出するユニークスキルなのだが、深い階層になるにつれ消費魔力が増えていく諸刃のユニークスキル、所持するのに魔力が必要となるマジックバックを持っていると使用が困難になるのだ。
だが、ライガは俺の預かっていたマジックバックを回収してくれたので俺はこのスキルを使用する事が出来たのだ。
「オイちょっと待っ・・・」
後ろでライガが何か叫んでいた様な気がするが俺はそのまま姿をダンジョンの外へ移した。
足取りは非常に軽く、余計な荷物も今は無い。
ウキウキしたまま俺は町へと戻るのであった。
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「あ・・・あいつ・・・」
「ちょっとこれ重くて持てないわよ!」
「魔力は足りててもこの重さは困りましたね・・・」
このままブバーンが野垂れ死ぬのを期待していたライガは目の前で起こった事を理解できなかった。
そして、後ろから聞こえた二人の言葉に現実を見る事となる・・・
「あいつ・・・こんな重い物をずっと持っていたのか?!」
マジックバックは重さを軽減し異空間にアイテムを収納できるマジックアイテム。
中に入っている重さに比例して消費魔力が増えるので力と魔力が両立していないと携帯できる量はかなり減ってしまうのだ。
入れて置いておくだけならば魔力の在る者が中に入れれば良いだけなのだが、携帯するとなると魔力と力の両方が必要となるのである。
「どうするのよライガ?!」
「中身を捨てて軽くするしかないだろ!」
「食料優先に出すしか無いですね・・・」
ミリアの言葉に頷きライガは重そうで値段の低そうな宝や戻るのに必要なさそうな道具をマジックバックから出して床に置いていく・・・
彼等は知らない、ブバーンが職業『配達人』の重量物配送者という称号のユニークスキル『怪力無双』をすっぴんにセットしていた事を・・・
彼が普通に荷物を運びながらダンジョン探索に付いてきていたので、それほど魔力や力を必要としているとは思いもしなかったのだ。
「くそっ、これも・・・これも置いていくしかないか・・・」
「ねぇちょっと、あたしの宝石まで置いていくつもり?」
「なら自分で携帯していろ!」
「な・・・なによ・・・」
マーリンはそう言って今回の探索で発見した宝石を出された場所からいくつか身に着けていく・・・
当然それ等は身に着ければ身に着ける程重くなる、特に魔力の込められた宝石に至っては重さが魔力の分だけ増えるのだ。
結果・・・
「マーリンさん、あまり持ちすぎると歩くのが辛くなりますよ」
「分かってるわよ!」
ここは深淵の洞窟38階層。
ここから歩いて戻るには早くても3日は掛かる、荷物が増えればそれだけ移動の負担になるのは明白である。
ミリアの言葉を理解しているのか、マーリンは怒りを露わにして怒鳴り返す。
そうして彼等の苦行とも言える移動が始まるのであった・・・
4日目・・・
「くそっこんなに時間が掛かるとは思わなかった!」
「でも明日には出れそうよね」
「早く布団で眠りたいです・・・」
ライガ達は6階層まで戻ってきていた。
食料をメインに持てるだけの荷物を入れて出発した彼等であったが、荷物を持ったまま魔物と戦ったり不安定な地形を移動するのが予想以上に困難で、最初持ち出した宝は初日に半分まで道中で捨てられていた。
マーリンも歩くのが遅くなっていた事からライガと口論になり、装着していた貴金属を幾つも捨てながらここまで戻ってきていたのだ。
「ねぇライガ、やっぱりブバーンには戻ってもらいませんか?」
「・・・いや、それだけは駄目だ」
ミリアの言葉に少し考えるライガであったが、自らが殺すつもりで追放したのを思い出し首を横に振る。
当然であろう、次は荷物を持ったまま探索中に去られるかもしれない、宝はともかく食料を深層で持ち逃げされた日には飢え死にも覚悟しないと駄目なのだ。
それを理解しているからこそ強くそれを否定した。
何より見下していた相手に頭を下げて謝罪して戻ってきてもらうなんて彼のプライドが許さないのだ。
「とにかく明日に備えてもう寝よう」
「はい・・・」
ミリアがチラリと横を見れば何時の間にか寝ていたマーリンのネックレスが転がっていた。
指輪やイヤリングなど沢山の貴金属を最初は身に着けていたマーリンも、道中で邪魔になって捨て続け最後に残った物の一つであった。
減った食料の分、マジックバックに入れて運ぶって案もあったのだが、その時には既に幾つか捨てていたので教えたら逆切れされると考え言い出さなかったのだ。
なによりマジックバックを携帯しているライガの負担を増やす提案をミリアは出来なかった。
今まではブバーンと言う役立たずが矢面に立っていたので何も無かったのだが、戦闘に参加できず傷は治せても疲労や体力は回復できない自分の事を二人は厄介者としか扱っていないのは直ぐに理解出来たからだ。
「潮時なのかしらね・・・」
脱出したら自分もこのパーティを抜けようとかと考えるミリア。
あんなに自分に優しかったライガだが切羽詰まれば直ぐに自分を見限るって事をヒシヒシと感じていたのだ。
今も優しい風を装ってはいるが、明日帰れるって事で戻ってから自分の体を求める為なのは明白なのだ。
そうして最後の夜は更けていく・・・
ブバーンを追い出して5日目の夕刻・・・
「やった!外だ!」
深淵の洞窟から出た3人は疲労困憊の状態のまま街を目指してミリアの魔法で移動を開始する。
外にさえ出れば僧侶の移動魔法で直ぐに帰れるのだ。
3人はそのまま街に戻り宿へと向かったのだが・・・
「はっ?い、今なんて?」
「ですので、お部屋を契約されてましたブバーン様が5日前にチェックアウトされてまして・・・」
「馬鹿な!部屋は1ヶ月単位で契約していただろ?!」
「はい、ですので差額はお返しさせて頂いておりますが・・・」
「あいつ!ふざけんじゃないわよ!?」
マーリンの怒声が宿に響いた!
だが宿には何の非もない、宿泊契約はライガが面倒だと言い放ってブバーンにやらせていたのだ。
しかもライガは当時の事を思い出していた・・・
町に到着した時に教会に向かったミリアを除く3人は・・・
『おいブバーン、1ヶ月滞在するから宿をこの金で取ってこい。余ったらお前の好きにして良いからよ』
『あぁ、分かったよ』
『うぷぷ・・・預けたお金は1ヶ月宿泊する金額丁度なのにライガ酷いんだぁ~』
『何言ってんだよ、余ったらって俺は言ってるんだから何も悪くないだろ?』
自らが口に出した言葉を思い出し思わず舌打ちが出る。
だが、仕方なく部屋を取り直そうとするのだが・・・
「畏まりました。それでは1泊3名様で・・・」
そこまで告げられて3人は気付く、今現金を所持していないのだ。
小銭以外はダンジョンに探索に入る前は冒険者ギルドの口座に預けるのが常識なのだから仕方ないだろう。
「すまない、今手持ちがないんで後から払いに来るから先に部屋だけ・・・」
「申し訳ございません、当店は先払い制を採用させて頂いてまして・・・」
「くっ分かったよ!ミリア、マーリン行くぞ!」
「ちょっちょっと待ってよ」
「ライガさん落ち着いて」
宿を飛び出したライガが向かうのは勿論冒険者ギルド。
そしてそこでも・・・
「はぁあああああああ?!?!?!?!?!」
「ふざけんじゃないわよあいつぅううう!!!!???」
「ひどすぎます・・・」
口座担当の受付の前で3人は発狂していた。
それも仕方ないだろう、口座の残高が殆どなくなっていたからである。
理由は簡単である・・・
「はい、こちらがブバーン様から提出されました3名に譲渡されました資産総額明細で御座います」
それはブバーンがパーティを抜ける際にマジックバックに入れていたアイテム等の鑑定結果であった。
職業『商売人』の査定人のユニークスキル『鑑定』を用いた結果が職業『書記官』の公正証人のユニークスキル『自動書記』で記載された裁判にも提出できる完全な物である。
それによるとマジックバックの中身の総額がライガパーティの口座残高の約4倍、パーティ脱退の際の法律に従い資産を4分割してそこから宿の解約戻し金を差し引いた額がブバーンに支給されていたのだ。
「くそっ!あいつは?!ブバーンは何処に行ったんだ?!」
「あっそうそう、ライガ様にブバーン様からお手紙が御座います」
そう言って手渡された1通の手紙・・・
横からそれを奪い去って開いたマーリンが顔を真っ赤にして再び発狂した!
そこには・・・
『親愛なる僕の元仲間たち、この手紙を受け取っているという事は無事に脱出できたんだね、良かった良かった。退職金って言えばいいのかな?それはちゃんと受け取ったから俺の事はもう心配しなくてもいいよ。君たちのパーティからお役御免を頂いたから俺は以前から声を掛けて貰っていたこのまま幼馴染の勇者パーティに入れて貰える事になったから。それじゃこれからもお互い頑張ろうね! 追伸、マーリンに個人的に貸していた俺の金の債権は町の暗黒商会に譲渡しておいたからそっちに返してね~』
丁度その時、冒険者ギルドの入り口から声が聞こえた。
「おっ居た居た。君がマーリンさんだね、私は暗黒商会の金貸し担当ブラフです。早速ですが借金の債権がこちらに回ってきておりまして・・・」
「ふ・・・ふざけるんじゃないわよ!私そんなお金・・・」
「おや?その身に着けている宝石とそちらの方がお持ちしているマジックバックの中身でのお支払をして頂けると伺っておりますが・・・」
「あ・・・あの男ぉおおおおお!!!!!」
マーリンの怒声と共にライガとミリアの周囲に強面の男が立ち近づいてくる・・・
全て仕組まれていた事実に愕然としながら冒険者ギルド内で暴れるわけにもいかないライガはおとなしくマジックバックを差し出す・・・
そしてこの後、ミリアもパーティを脱退したのは言うまでも無いだろう・・・
全てブバーンの計画通りに事が運ぶのであった・・・
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「あはははははっ」
「どうしたのブバーン?」
「ん?あぁ今丁度前のパーティが破滅しているのを眺めていてね」
片目を閉じていたブバーンが横で一緒に馬車に揺れる勇者の幼馴染に言葉を返す。
彼は今、職業『眼術使い』の視察人のユニークスキル『視界共有』を使用してミリアの見ている光景を眺めていたのだ。
音は聞こえないが自分の想定した通りの結果がそこに映し出されていて非常に愉快であった。
「それにしてもブバーンの凄さが理解できないなんて可哀そうな人達だったねぇ、でもおかげで僕がブバーンと一緒のパーティを組めたんだけどね」
「そこには感謝しないとな」
横に座る幼馴染の女勇者に微笑み俺は最後の行動に出る・・・
職業『情報屋』の伝達人のユニークスキル『念話』で冒険者ギルドの受付嬢に頼んでいた事を実行してもらう。
それは視界共有を受け入れて協力してもらったミリアに預けていた報酬を2人に分からないように手渡してもらう事・・・
そう、彼女もまたブバーンの秘密の凄さを知る一人で実はブバーンのスパイだった事をライガとマーリンは知らないのであった・・・
完
ダンジョン深層でパーティを追放されたブバーン 勿論追放したアイツ等には地獄見てもらいます 昆布 海胆 @onimix
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