第8話 敗残兵

 ◆

 めぐみんが目を覚ましたのと時を同じくして、今はもう崩落してしまった世界で最も深いダンジョンの最深部へと訪れる者がいた。土や石を掘り進めるモンスターの一団がトンネルのような通路を作り崩落した地下二十階へと強引に侵入。夥しい量の瓦礫を押し退け、地下二十階へ魔物たちに先んじて踊り込んだのは人に似た形の影だった。人と異なるのはその頭に角が見て取れることだろうか。


「お父さま! ご無事であれば返事をして下さい! お父さま!」


 カビの臭いと濃密な魔力、淡い光が瓦礫のそこかしこで明滅している。元々は過剰に華美で禍々しい装飾が施されていたのだろう空間に悲痛な女性の声が響き、答える者もないまま吸い込まれていった。


「姫様、魔王様の反応はもう……」

「探してみなければ分かりません! 魔力で気配を断っているのかも知れない、大きなケガをして動けずにいるのかも知れない、私の助けを待っているかも……!」


 姫と呼ばれたのは髪の間から二本の角が生えてはいるが見た目は人間に似ている。魔王が老齢に差し掛かってから生まれた実子であり、同時に魔王軍最後の幹部でもある女性だった。魔王討伐の報が女神エリスの託宣によって世界中に告げられ急ぎ城へと引き返したが雨あられと放たれる爆裂魔法によって散り散りにされ、塵にされ、生き残った同胞を人間の勢力圏から退避させると共に魔王の生死確認を進めている所だった。


「姫様、このフロアに魔力反応があります。ご注意を!」

「いいえ、この気配には覚えがあります」


 魔王の娘が叫ぶと暗がりの中でケタケタと笑う人形が一体。傍らには損傷の激しい老人の遺体があり、その手には、かつて娘が父である魔王に贈った刺繍入りのハンカチがある。


『しばらく振りであるな魔王の娘よ』

「お人形さん、貴方はバニル様の駒ですね。ですがそれは間違いなく私がお父さまに贈った刺繡入りのハンカチ。お父さまは!? お父さま、は……あ、あ、まさか、その遺体が、お父さまなのですか?」

『残念ながら魔王は既に亡く、金品は奪われ、その魂も天へ召された』

「天へ!? まさかっ、そんな……なんと惨いことに」

『そう、憎き神々の領域である天へだ』


 悪魔にとって敵対者である神々の領域へ送られることは人間でいう所の地獄に落ちたと言うのに等しい。理不尽極まる永劫の責め苦に苛まれる救い無き世界だ。


「お父さまは老いておりました。存命のうちに最後の戦を仕掛け、世界に蔓延る人間の社会を滅ぼし、我々魔の者達が安心して暮らせる国を作ろうとして下さっておりました。なのに、なのに……っ! 私は人間を許しません! お父さまの名の下に人間を根絶やしにし神々の時代を終わらせることを誓います!」


 信仰する人間が一人もいなくなればその神は世界に存在できなくなる。人間を根絶やしにすれば天界に属する神は退場。世界は魔王の物となる……とは言え、人間の悪感情を糧とする悪魔もまた存在できなくなる。皆殺しは望む所では無いのだがなと、どこかで誰かが呟いた。


『討たれることも魔王の仕事のうちである。汝、父を失い自棄になっておる娘よ。汝の望みは何だ?』

「……してさしあげます」

『ふむ?』

「壊してさしあげます! 絶対に! 抉り、貫き、引き潰し、家族、友人、同郷者に至るまで八つ裂きにして晒して差し上げましょう! お父さまは魔王でした。勇者に討たれて果てるのも仕事のうちだと頭では理解できます。ですが、私にとってはたった一人の掛け替えのない父でした!」

『そうか。汝、復讐を望むのか。さすれば対価次第で見通す悪魔が力を貸そう』

「お人形さん、貴方の主人に伝えて下さい。地獄の公爵、大悪魔バニル様! 対価は魔王軍の軍資金から提供致します。今一度、我が軍の幹部として協力し、私の望む情報を提供して下さいませ! これは『契約』です!」

『その言葉、聞き遂げた。汝、魔王の娘。新たなる兵站はこの地にて構えるが吉と出ておる』

「分かりました。王都発の情報は錯綜していますが、父を討った勇者について知り得る限りを教えて頂けますか。無論、真実を」


 人形は小刻みに体を揺らしながら大量のパンフレットを差し出した。


『その情報は高い。先ずは葬儀プランのお見積りとこの崩落したダンジョンを改装し、新たなる最難関ダンジョン兼、新生魔王軍の拠点とするリフォームプランである』

「確かな情報なのですね?」

『悪魔は契約にうるさい。対価を求める以上は信用第一。このダンジョンのリフォームが成った暁には魔王を討った勇者について全てを教えよう。容姿、身長、体重、戦闘スタイル、日頃の生活パターンから弱点と成り得る近縁まで。見通す悪魔のお勧め襲撃プランと共にご案内させて頂く!』

「結構です、工期の見込みは?」

『ズバリ、一ヶ月と出ている』

「皆の者、聞いた通りです。我々、魔王軍の生き残りは亡き父の無念を晴らし、新たなる拠点の建設と軍の再興を大悪魔バニル様の後ろ盾を得て推し進めます。ですが、悪魔との交渉は温室育ちの私には荷が勝ち過ぎます。我こそはと言う者はおりますか?」

「大変に賢明であられると存じます。不詳ダークウイザードのデルメンがバニル卿との交渉役を仕りましょうぞ」

「デル爺、父の代からの変わらぬ忠誠、恩に着ます」

「姫様は私にとっても孫娘のようなものですからのう」


「ありがとう。それでは、ダンジョンのリフォーム指揮権限を望む者は?」

「ならばこの俺。インベスティーダーの、ふらっかりがその指揮執らせて貰う」

「ええ、貴方ならば申し分ありません。お任せしますわ、ふらっかりさん」

「魔王様は俺の親父も同然の方。報復も再興も姫一人に背負わせはしないさ」


「元幹部で存命中の……あの、デル爺。ウィズさんの場合、存命で良いのでしょうか?」

「リッチーですからなぁ、肉体は死に、生命の理は反転していても命は存在しておりますので存命中で差し支えないかと。頭が悪めの魔物にも伝え易いですしな」

「存命中のウィズさんにもお父さまとの約束が生きているかを確認したいですね。これは私が参ります。協力を得られれば最高ですが、敵対しないならそれでも結構。ですが脅威となりそうな場合には私が直々に葬って参りましょう」


 ダンジョン地下二十階の暗がりに息衝くは、再起を誓う魔物達の集い。張り詰めたような緊張感の中にも家族のような暖かな心が交わされる。魔王の娘に率いられる者達は無法の敗残兵ではない。かつての王に黙祷を捧げる魔王軍の生き残り達は誰一人笑い声など立ててはいなかった。


 ◆


「で、あるからして魔力を純粋エネルギーにする場合の変換効率は、このような式で求める事ができます。問1で私の書き出す証明式を見てから、カズマ自身で問2の計算をしてみて下さい」

「う、うーん、こうかな?」

「おお、とても筋が良いですよカズマ、どうです魔法は面白いでしょう」


 そんな訳で、俺とめぐみんは長期滞在目的で2階の奥の一室を借りめぐみんに上級魔法習得の手伝いをしてもらう事になった。元々、ファンタジー世界で魔法を使いたいと思っていた俺にとって、めぐみんの授業は冒険心をくすぐる。内容を日本の皆に分かりやすく説明するなら魔力の取り扱いは電気が流れる仕組みに似ていて術式の構築はプログラミングの考え方に近い。

 俺は義務教育レベルでギリギリ高2くらいまでの……あ、やっぱ高1くらいまでの数学を収めていただけなんだが基本的な文明が中世レベルの異世界では読み書きと基本の和差積商ができれば十分。

 図形とか角度とかに手出しができたら学がある! 頭いい! エリート家系の子!? とか言って貰えるレベルになるらしい。プログラムの方はネトゲの沼である程度齧っただけだけど俺の実家の範囲じゃ、パソコンの不調とか全部俺が何とかできたからな。そう、つまり日本ではヒキニートしかできていなかったこの俺は中世っぽい異世界なら、学のあるエリート枠のカズマさんになれるんだ! 素晴らしいよ異世界! 俺、また一つこの世界が好きになれそうだよ!


「うん、正解。この一週間で基本はすっかりマスターしましたね。流石はカズマ、これなら次に進んで大丈夫そうです」


 めぐみんもとても熱心に教えてくれるし、間違えても怒らず焦らず、俺が理解できるまで丁寧に教えてくれるんだ。上手くできたら自分の事のように喜んでくれるし笑顔も可愛い。日本でも、めぐみんみたいな子と一緒に勉強できていたなら絶対に成績上位で彼女持ちのトップヒエラルキーな学校生活を送れたに違いないと思うよ。俺、あと3年早くめぐみんに出会いたかったよ。


「では、爆発力を発生させる基本から爆発力を制御する理論へのステップアップを」

「って、おいコラ、ロリっ子、ちょっと待てえええええ!」

「な、何ですかカズマ、人が真剣に講義しているというのに」


 そう、めぐみんはこの上もなく熱心に魔法の基礎理論について面白さと興味深さを交えたナイス授業をしてくれているんだが……。


「お前これ、上級魔法の講義じゃなくて爆裂魔法の講義だろ」


 確信をもって核心をついた俺のツッコミにふいっと目を逸らすめぐみん。間違いねえ、こいつ最初の授業から一週間、まるまる全部。上級魔法の「じょ」の字もなく、ぜーんぶ爆裂魔法の基礎理論で固めてやがった。


「分かってんのか? 俺が習得したいのは上級魔法なんだよ、上級魔法! 結婚認めてもらう為なんだからお前もさりげなく俺に爆裂魔法の何たるかを仕込もうとするんじゃねえぇぇぇ!!」

「カズマ、カズマ、冷静に聞いて下さい」

「がーっ! 落ち着き払って冷静にとかできるかあぁぁぁ!」


 講義に対する抗議の声もどこ吹く風。めぐみんは悪びれる様子も一切なく、何を言っているのですかとでも言わん調子で俺を見ている。え、何この空気。間違ってるの俺なの? 俺が間違ってんの?


「考えてみて下さいカズマ。カズマの魔力量では上級魔法はおろか中級魔法やクリエイトゴーレムですらしょぼいの一言。カズマは大馬鹿ですがパーではありませんから上級魔法の習得自体は可能だと思います」

「おい今なんつった」

「あなたを認めていると言ったのですよ。基本となる魔力値が低く、専門職でもないカズマが上級魔法を覚えた場合の試算ですが」


 そう言ってめぐみんは紙に魔法の名前と期待できる効果を計算式付きで書き始めた。え? めぐみん……さん? さも当然のようにすらすら書かれていますけれど、これ、滅茶苦茶難解なんですけど。俺、全体の一割も理解できていないんですが今までの授業はマジ入門編で初級も初級だったんですか?

 難解過ぎて式とか半分も理解できないから本当なのかは分からないのだけれど算出された計算結果では、消費魔力の大きさに対して散々な結果になるらしい。いや、中級魔法ですら満足な威力になってないのは確かなんですけど、中級魔法のファイヤーボールとか、小さく加減できないだけで最大威力は初級魔法のティンダーをMAX発動した時と大して変わらなかったんですけど。だとしたら、調整の利くティンダーの方が便利なんですけど。


「アークウイザードとしての職業補正がついていない上に基本魔力も低いカズマではポイントの無駄遣いですよ。初級魔法を上手く使うかマナタイトを利用して難局を切り抜けるかになるでしょうが、上級魔法用のマナタイトはコストが掛かり過ぎですよね。下手をすればクエストの報酬がマナタイトに消えるだけでは済まないでしょう。 そう、赤字! 口にするのも恐ろしい赤字に転落する可能性すらあるのです」

「うん、マナタイト高い。超高い」

「上級魔法は基本的に高速広範囲高威力が実現できるから上級魔法なのであってカズマが覚えてもハッキリ言って実戦的ではありません。ならばどうするか! 難局を切り抜けるに相応しい火力とは!? どんな不可能も可能にする最強の魔法とは何でしょうか!? さぁ、カズマ」

「えーと。ライトオブセイバーとかインフェルノは正解に入りますか? 俺の場合、ボトムレススワンプとか上手に使えそうな気がするんですけど」


 瞬間、盛大な音と共に学習机がひっくり返された。おいお前、お父さんの真似するんじゃねえ。ちゃぶ台返しは悪い見本だ、現代日本なら児相通告案件になる。


「不・正・解です!! カズマはこの一週間何を学んでいたのですか!?」

「ま、待て、話し合おう。めぐみんの言う事は分かった、正しい。だけど、俺だってめぐみんとの結婚を認めて貰いたいんだよ」

「何を言っているんですかカズマともあろう者が嘆かわしい。私の親が気にしているのは世間体だけなんですから王都でちゃっちゃと籍を入れて、事後承諾させればいいのです。多少は眉をひそめるかもしれませんが私としては親に認められるより二人で末永く爆裂ができるならその方が幸せですし、どうせ子供が出来たら孫可愛さに向こうからすり寄って来ますよ」

「いや、俺としてはきちんとしたいって言うか。めぐみんは親に対してドライ過ぎないか?」

「我が家の経済事情は知っていますよね? それもこれも父ひょいざぶろーが、家族の健康よりも自身の拘りを押し通しているからです。変な拘りを捨て、普通に使える、売れる魔道具さえ作ってくれていたなら私達姉妹がお腹を空かせ、服も買えない暮らしをする必要なんてなかった。私は一日一食食べられるかどうかの瀬戸際で、こめっこを守りながら、己の手を汚すことも厭わない生活をしてきたのですよ。学園の残飯置き場に忍び込み、パンの耳を拾い集め、近所の農家から死闘の果てに野菜をかっさらい、ザリガニを茹で、セミを炙り、ずっと、ずっと頑張って来たのです。年頃の娘が髪留めのリボン一つすら買ってもらえず、着替えもお風呂も毎日はできない不潔で低栄養の痩せぎすであったなら同年代の子供達からどういった目を向けられるのか想像できますか!? ええ、そうですとも。親が何ですか!? 子供の事より自分の拘りがそんなに大事!? それが今更? 世間体とか? ハッ! ちゃんちゃら可笑しくて爆裂が捗りそうですよ!」


 おおう、勢いすごい。これが地雷と言う奴か。俺は今まさにめぐみんの地雷を踏み抜いてしまったのだ。特に親しい間柄でなければ絶交案件に発展する可能性すらある特大のやつのど真ん中をだ。


「め、めぐみん、落ち着け、落ち着いてくれよ、な? 今、めぐみんがやろうとしている事は合理的だし正しいよ。爆裂魔法の存在自体が合理的で正しいかどうかはさておき」

「おい今なんと?」

「だからって本気で嫌な両親だったらめぐみんが自分から帰省を言い出したり、クエスト報酬の中から仕送りしたりなんてしないだろ」

「こめっこがいますから。前よりも色つやが良くなっていて安心していますよ。すみません、取り乱してしまいましたね。……私に幻滅しましたか?」


 そんな訳ないだろう。めぐみんの本音が聞けて嬉しい、苦労してきたんだよなぁ。ヒキニートでも3食部屋の前に置いて貰えた俺なんかとは比べ物にならないくらい頑張って来たんだろう。俺は不慮の事故で死んじまって異世界送りに処された訳だが、めぐみんは、俺よりも年下なのに自分の意志で冒険者になったんだ。必死で覚えた爆裂魔法一つを引っ提げて悲壮な様子の欠片も見せずに頑張って来ためぐみんは本当に強い子だ。たどたどしく、お世辞にも上手く言葉に出来たわけではなかったけれど。そんな内容のことを一生懸命に伝えたつもりだったのだけれど、気付けば俺とめぐみんは二人、向かい合って正座していた。途中の言葉は正直殆ど思い出せない。


「元の世界の両親には、もう会えない。俺にとって、めぐみんの両親はこれから俺の義理の親でもあるから筋は通しておきたいんだ。頼むよ、だから、きちんと俺に教えてくれ」

「……分かりました。私の頭脳を持ってすれば何だかんだとカズマを騙して爆裂魔法を仕込むこともあと2週間はいけるでしょうが好ましくはありません。ですから、今この場ではっきりさせておきましょう。必要なのは、両親の世間体欲を満足させつつ紅魔の里の皆を納得させること。それが今はたまたま上級魔法の習得を提示されている訳ですがカズマ本来の性能に合っているとは言い難くポイントを無駄にするだけのお飾り、言うなれば死にスキルです。ここまではいいですね」


 確かにそうだ。上級魔法の為にクエストで一級品のマナタイト使うぐらいなら素直にクエスト失敗しておいた方がマシな場合が多いんだよな。冬場以外でアクセル周辺のモンスターなんて低額報酬ばっかりだし、かと言って、一発きりの上級魔法で高額報酬モンスターを倒し切れるかとなれば相手にもよるんだろうが確実だとは言い難い。どうせ切り札の大火力なら爆裂魔法に敵うものなしだし、めぐみんも喜んでくれる。この先一生、夫婦仲の安泰を約束してくれるスキルなんじゃないかとさえ思える。ダンジョン内みたいな狭い場所では俺の盗賊系スキルが火を噴くし、強い相手ほど上級魔法への「対策」も持っている気がするんだよな。だからこそ初級魔法の不意打ちが効果を出せたりするわけで、めぐみんの言う通り、死にスキルになりそうな予感がびんびんする。光を屈折させて姿を消す魔法とかは欲しい気もするけど……ん? それ、つまりは潜伏スキルと効果同じじゃね?


「うん、ここまではいい」


 と、めぐみんが身を乗り出して顔を寄せ、俺の耳元で蠱惑的に囁いてきた。


「今なら世界一の爆裂魔法の使い手である我が手取り足取り懇切丁寧に爆裂のなんたるかをレクチャーしようではありませんか。これはもう習得しても魔力の低さから実用性の無い上級魔法よりも爆裂魔法についての理解を深めるしかないのではないだろうか」

「待て、その距離はずる……詳しく」

「威力、射程、範囲、発動速度、精度、音圧、明暗、芸術性その他諸々に関しては専門職のアークウイザードたる私が追及していますのでお任せを。カズマの場合はコストパフォーマンスを上げる為、その辺りの事は捨てて消費魔力軽減のスキルをとって頂きます。範囲こそやや控えめになりますが威力はそのままに3割程度の消費削減が可能です。このスキルは他の初級魔法やバインド、テレポートなどの消費魔力にも影響しますので今のスキル構成を損なう事無く、カズマの戦力を純粋に底上げ可能なのです。中級魔法の効果も必要魔力が少なくなる分、相対的な向上が見込めます」


 うそだろ、頭のおかしい子がまともな事を言っていやがる。なんつーか滅茶苦茶正論じゃねーか、お前……本物のめぐみんか? 本物のめぐみんが指先で俺の顎とかついっと持ち上げたりなんてする訳が……ありがとうございます!


「今の時点で一日2爆裂ですから、目論見通り3割の負担軽減が図れればなんと一日3爆裂! カズマと私で一日3発。どうです? 良い響きでしょう」


 つ、つまり今は100×2で200の所を70×3の210にしようって事だよな。俺分かる、小学校の時の先生ありがとう。俺、掛け算ができる子だよ。めぐみんと俺で、一日3発! できるのか? そんな事が可能なのか? 俺はごくりと息を呑み、めぐみんの耳元まで口を寄せて訊ねた。


「お、俺に魔力を渡すことを渋ったりしない?」

「私の全快後は状況によりますが例えばアクアやダクネス辺りから魔力を分けてもらった上でも、一級品のマナタイト含みで足りる所まで消費を削れたなら敷居はぐっと下がります」


 めぐみんが更にずいっと近付いてきて俺の背中側から首元に手を回してくる。怖いくらいに熱くて柔らかくて、何よりいい匂いがする。


「親が気にする世間体についても私に一案がありますのでお任せを。それに、爆裂魔法を習うのであれば私が上機嫌ですし授業の間中、こうして胸と太ももが密着する距離でお教えしますよ」


 ああ、これが誘惑の手管ってやつか!?

 めぐみんってば、どんだけ魔性の女なんだ!


「更に、私の気分が乗っているなら、もっと甘酸っぱいハプニングなどがあるかも知れませんよ……?」

「爆裂魔法でお願いします」


 キリっと良い顔でめぐみんに返事をした俺に、めぐみんは嬉しそうに顔を寄せ、俺の唇にキス……ではなくて下唇だけをじんじんした感覚が残る程度の強さで甘噛みし、約束ですよと言いながら微笑むという、特大のご褒美をくれたのだった。

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