第274話 居る

「ただいま……っているじゃん灰人、と桜井さんも」

「おかえり兄さん。桃先輩から連絡があって今日中には戻ってくるかもって言ってたけど、こんなに早いとは思わなかったよ」

「本当ですわ。折角驚かせようと料理を作っていましたのに……。完成する前に帰ってくるなんて」


 家に帰ってくると想像以上に余裕な表情で出迎えてくれた灰人と桜井さん。

 桃先輩の話から察するにかなり切羽詰まった状況のはずなんだけど……こんなにのんびりしてていいのかって感じだ。


「いや、それにしてもまさかこんな状況になっていたなんてな」

「……俺達はあの時その場に居たんだけど、あの師匠ですらあれには手を焼いて……俺達はとにかくその場から逃げる事しか出来なかった」

「悔しくて探索者協会の育成プログラムに参加してレベル上げに専念してはいるものの、あれを倒せる気が全くしませんわ……そういえばそちらの方々は?」


 俺の質問に顔をを暗くする2人。

 なるほど、少し気が滅入っているのをこうして紛らわせているって事か。


「私はメア。こっちはトゲくん。輝明とはダンジョンで仲間になって――」

「輝明?」


 メアの自己紹介に桜井さんは眉をピクリと動かした。

 それに何かを感じ取ったのかメアの目つきが険しくなる。


「輝明、この女性は? 輝明の家に居るって事はそういう関係なの?」

「桜井さんは元上司で……。うーん、今は探索者仲間ってところかな」

「ふーん。探索者仲間ね。じゃあそこまで密接な関係じゃないんだ」

「メア、さんでしたっけ? あなたちょっと――」

「さ、桜井さん! それ焦げるから早く上げて! ほら、今ご飯出来るから兄さん、それにメアさんとトゲくんも手を洗って。いやぁ、こんなに大勢で食べるご飯はさぞ美味しいだろうなあ!」


 桜井さんの言葉を遮って灰人は無理矢理話を変えた。

 そこまで慌てる意味は分からないけど、桜井さんとメアの相性は悪そうだな。


「そうだ、その前に一応確認なんだけど、無事帰ってこれたって事は目的の物は手に入った事なんだよね兄さん」

「ああ。でもそれだけじゃなくて……。まあ2人になら言ってもいいか。メアはセイレーンで、妖精の雫の原料となるアイテムを生み出せる亜人なんだ。ただそれには時間がいるからしばらくはここで寝泊まりを――」

「亜人!? いえ、それよりもその、ここで一緒にって言いましたの!?」

「……。そうよ。それでそれを生み出す為には極力ストレスの掛からない場所が必要。輝明、私は今日どこで寝ればいいの?」


 メアはほくそ笑みながら話し掛けてきた。

 そんなにお泊りが楽しみなのかな?


「……」

「さ、桜井さん。落ち着いて、兄さん達は早く洗面所に行って! ……はぁ。まったくあの鈍感。桜井さん、無事で――」

「灰人。私も今日はここに泊まりますわ。いいですわよね? いえ、いいって言わなくても泊まりますからね!」

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