第268話 勝ち?
「もう、少し」
代わりに攻撃を受けた分身が地面に落ちていく。
俺はそれを見送りながら、【1】へジャマダハルを伸ばす。
急所まであと少し。
【1】の表情は気が抜けているようにも見える、防御系のスキルを持っていたとしてもそれを使う雰囲気はない。
伸ばせ後少し後少し――
「ん?」
「ヤバい!?」
隠蓑の効果が切れ、しかもダメージを負った分身がゆっくりと消え始めた。
【1】の表情に緊張感が戻り、1度後ろに下がろうとする。
最悪だ。
分身の存在に気付かれた。
無理に攻撃してもさっきのスキルがある。
それに範囲の広い適当なカウンターを出される可能性も……
「がぁ……」
「敵は1人じゃないわよ!」
その時メアの声と共にトゲくんが氷の息を吐いた。
【1】はそれに釣られて振り返る。
「届、いた」
「あっが……」
ジャマダハルが【1】の急所を捉えた。
【1】は痛みによって自分の置かれている状況を認識したのか、汗を吹き出しながら俺の方を見る。
「おま、え。人間、女王様を騙しただけでなくここまでしてくれるとは……許さん許さん許さん許さん許さん許さん!」
偶然【1】の手が俺の頭を掴んだ。
急所は突いた、もう生きていられない程のダメージを負っている筈。
その証拠に手に力は入っておらず、俺にダメージはない。
【1】がなんと言おうと、俺の勝ち――
「せめて道連れにしてやる!」
【1】は俺の頭の後ろまで腕を回して抱きつく。
俺はそれを剥がそうと内からジャマダハルで体を突くが、何故かピクリともしない。
次第に体を光らせていく【1】。
これは……自爆?
「輝明っ!」
「メア!?」
【1】の後ろからメアがひょっこりと顔を出した。
「耳を防いでっ!!」
「えっ?」
言われるがまま俺は耳を防いだ。
すると、メアのあの独特な高い歌、いやこれは絶叫がキーンと耳に響く。
耳を防いではいるけどまるで鼓膜が揺れているようだ。
ばた……
今の声を間近で聞いたせいなのか【1】は動きを止め、そのまま地面へ。
「メア! 助かった! ありがとう!」
俺は【隠蓑】を解除するとメアの元へと駆け寄った。
「て……あき、よ、った……」
「メアその声……」
ギリギリ言葉になるかどうかの拙い声。
もしかして今の反動で……
「2人とも!! それ、まだ!!」
「え?」
セレネ様の声に反応して振り返るとそこには未だに光続ける【1】の姿があった。
「がああああああああああああっ!」
そしてそれを見ると同時にトゲくんが俺達を尻尾で包み雄叫びを上げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。