第259話 似た女
「凍らせたあの道を抜けてきたという事はここに到着するのも直ぐ……戦えるものを集落の入口に集めて敵を出迎える準備をして!そつでない人達にはここより上の階層へ避難するように呼び掛けるのよ!」
「わ、分かりました!早急に準備命令、避難勧告を出してもらいますっ!」
給仕のメロウは慌てて部屋を飛び出して行った。
家事だけでなくそういった仕事までこなさないといけないのは給仕としての役割の範囲を越えているような気もするが、嫌な顔1つせずパッと行動してくれるのは日頃からセレネ様と仕事仲間というだけではない信頼関係にあるからなのだろう。
セレネ様は上司としても理想的で優秀な人なんだろうな。
「進化の薬を取りに行く手間があったらこの事態に対応出来なかっただろうな。礼を言うぞ、氷の少女よ」
「少女じゃな……桃、あなたの前でスキル使ってないよね?」
「我くらいの実力となれば相手の力量や魔力の性質、どの属性に特化しているか察する事も出来る。それに……お主に似た氷の魔法を使う女を見た事があったというのも要因の1つだ」
「桃に似た人?」
「確か一色虹一と一緒に居た探索者だったかな?髪色もお主と同じで喋り方はもっと陽気だった。 一色虹一が押され気味だったくらいには明るい女ではあったぞ」
「それってもしかしてあの人……。そっか、ここに来てたんだ」
リヴァイアサンの言う人間にどこか心当たりが合ったのだろうか、桃先輩は考え込むよう地面に視線を移した。
「皆、話をするのは後にするわよ。取りあえずメアと輝明は薬を持ってトゲくんの元に。リヴァイアサンは集落の入口でシードンが来るのを待機。私は合唱隊を編成してからそっちに向かう。えっと……桃さんだったかしら?あなたももし戦ってくれるならリヴァイアサンと一緒に入り口まで向かって欲しいのだけれど……」
「わかった。どたばたを片付けないと白石は地上に戻せない、それに手助けするのは依頼にもあった」
「ありがとう。それでリヴァイアサンにお願いなんだけど、輝明以外の人間に対して集落のメロウ達がなにをするか分からない……大丈夫だとは思うけど道中一応気を遣ってあげて」
「めんどくさいが……わかった。薬を運んでくれた恩人だ。邪険にはせんよ」
「頼んだわ。それじゃあ各自分かれて準備をお願いっ!」
その言葉を合図に俺達はそそくさと部屋を出て、建物の外へ。
すると集落の人達の焦った声、警報、走る音、そういった騒々しいものが一気に耳を支配した。
それは地震等の自然災害が起きた時と同じであり、日常が日常でなくなる恐怖の音。
自ずと恐怖心や緊張感がせり上がる。
「輝明! こっちよ! 急いで!」
「あ、ああ!」
そんな中気丈に振る舞うメアに腕を掴まれると、俺は急いでトゲくんの元へ駆けて行くのだった。
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