第242話 メアと【1】

「はぁはぁはぁ……。効果はあるけど、やっぱり耐性が高いわね」

「ええ。でもこれなら何とかなりそう」


 大きな地響きが聞こえてからまもなく、私達メロウの前に風貌も雰囲気も全てが普通とはかけ離れたシードンが現れていた。


 【1】の文字を刻んだそのシードンはセレネ様達の合唱の効果で動きが鈍るものの、少しでも効果を受けない為なのか、さっきから遠距離の攻撃を繰り出している。


 1回の威力は大した事がないけど、手数の多い小爆発を起こす赤い球。

 それは手をグーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返す事で【1】の周りに生まれ、自動で標的まで飛んで行く。


 立ち止まらず素早く移動しながらそれを放つ所為でこちらの攻撃は今のところ殆ど当たらず、唄の効果に頼っているといった感じだ。


「くっ!」

「大丈夫!?」

「うん。でも同じところを何度もやられると流石に……」


 私やトゲ君は進化している事もあってまだHPに余裕があるけど、そうじゃない合唱隊を守るメロウはそろそろしんどくなってきている。


 このままじゃじり貧。

 【1】の様子からして相手の動きを拘束する唄は大体3割位効いているけど……このままじゃ誰かが死んでしまう可能性も。


「トゲくん、氷の分身はまだ増やせる?」

「があっ!」

「他のシーサーペントも氷の息で相手を牽制して!ペアの人はそのサポートとしてMPの譲渡とスキルバフの唄を」

「「了解」」


 私の指示でメロウのみんなとシーサーペント達は一斉に守りから攻撃に転じた。

 元々シーサーペントとペアを組んで各フロアの様子を見る係をしているメロウっていうのは好戦的な性格ってこともあるのか、さっきまでよりも生き生きしているように見える。


 その切り替えがはまったのか【1】は困った様に顔をしかめて、攻撃の手数を減らす。


 攻撃は最大の防御。

 それをまさに体現している。


「頑張ってみんな! 【1】をなんとか出来れば目的は飛躍的に楽になるわ!」

「ふ、そんな簡単にいくほど【1】の称号は安くないぞ」


 私がみんなを鼓舞しようと声を上げると【1】は笑みを浮かべて、攻撃を避ける為か建物内に逃げていった。


 言葉とは裏腹な行動。

 きっとそれには狙いがあるはずよね。


「建物ごと凍らせて出てこれないようにしてやるわ! みんな! 手を休めずにあの建物に氷の息を! トゲくんもあれを全力で凍らせて!」


 【1】はもう袋の鼠。

 私達は【1】の狙いを封じる為、建物を牢獄にしてやるつもりで凍らせに掛かる。


 何重にも重なる厚い氷。

 流石にこの氷を内側から、しかも効果が薄いとはいえ、鈍くなった身体で抜け出すのはふか――



 ――バリ、ン



 頭の中に勝利という文字がうっすらと見えたかと思えば、凍った建物に太い亀裂が走り、その間から赤色が姿を見せた。


「まずいっ! みんな伏せてっ!」


 次の瞬間建物は氷と共に大きく弾け、その破片が勢い良く私達を襲った。


 【1】のやつこれを狙って……


「さあて、まずは1番デカい声で歌ってるメロウから殺――」


 形勢逆転。

 破片によって合唱隊の周りを囲っていたメロウとシーサーペントの殆どが重傷を負い一瞬にして不利な状況になった。


 だけどその時再び大きな地響きが鳴り響き、今度は地面が揺れ始めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る