第241話 すみません
「リヴァイアサン……」
「どうした? 手が震えているぞ」
「ふ、ふふふ……」
「……何がおかしい」
「あははははははははははははははっっ!! 【リヴァイアサン】! これが私達の最大目標だったモンスター! 強い、だけど……思ったほどじゃないわ! 【1】の力があれば、いーえ、もし私があなたを弱らせれば他のシードンでも倒せるっ!」
「【2】という数字は伊達ではないな。すべて見透かしている。確かに我は弱体化、退化している。だが、それでもここで動いた。何故ならお前達全員を殺す為の算段が出来たから」
「……あの人間がそれほどの何かを持っていると?」
「ああ。少し話過ぎたな……。そろそろ殺してくれよう」
リヴァイアサンが体をうねらせてこの階層の生活に利用される水を貯めている大きな貯水タンク、別名【地下貯水湖】に口を付けて水を含んだ。
そしてその水は口から細く吹き出され、瞬く間に凍る。
威力こそさっきの氷の弾に比べて低いが、弾数と大きさ、つまりは範囲が広い。
避けきるのは至難の業、だったら少し当たってでも突っ込む。
「ほう、怖気づかず突っ込んでくるか」
「痛いけど、そこまでじゃない。私をあんまり油断しない方がいい」
右足、左頬に深めの傷、右肩には氷の弾が刺さる。
でも、これ位なら動ける。
懐に入って、針を刺してやる。
私のこの針によって発生した麻痺の効果はモンスターの強さによっては1週間以上続く。
流石にリヴァイアサンをそこまで麻痺状態に出来るとは思わないけど、それでも1時間、いえ、30分動きを止められれば【1】が駆けつけてくれるはず。
「もらったっ!」
「なっ!」
リヴァイアサンは元の姿に戻った事で余計に動きが鈍くなったのか、私は簡単にその懐に潜り込むことが出来た。
相手が油断していた事もあったのだろう。
おそらくここを逃せばリヴァイアサンの注意は高まり、私を近づけさせないようなスキル、策は強固なものになる。
ここ、この瞬間が絶好であり、最後のチャンス。
「ぐあああああああああああああっ!! はぁはぁはぁ、私では直に倒せなかった。でもあなたを殺す準備は出来た。これで私の役目は果たされたようなもの」
懐に潜った瞬間、リヴァイアサンの尻尾が祖俺を待っていたかのように地中から現れ、私の胸を突いた。
尻尾の先は氷に纏われていたが、それは氷とは思えない程の強度で、簡単に私の体を貫通。
私の体を巡る血液はその氷によって急速に冷却され内側から凍ってゆく。
そんな中私は精一杯の力でリヴァイアサンの腹部分に針を突き刺した。
肉に刺さる感触に手ごたえを感じ、私は達成感で勝手に笑みが零れた。
後は任せたわ【1】――
「強者と戦う場合素直に真正面から向かって殴りあう事を美しいという者もいるが、我はそうではない。戦いとはズルかろうが無様であろうが、生きていた者が正しい。我がここまで至れたのは、絶対死なない、負けない道を辿ってきたから。【2】よ。お前の様に捨て身で挑む者は決してそれ以上になる事は出来ん」
目の前のリヴァイアサンは麻痺の効果があるはずなのにぺらぺらと口を動かすと全身を凍らせて……。
――パリン
綺麗に砕けて地面に落ちた。
「――一思いに殺してくれる」
そしてそれと入れ替わるかのように、【地下貯水湖】からさっきまで戦っていた個体とは比べ物にならない程大きな姿の竜が現れた。
巨大な口に生え揃った鋭い歯が体に当たる。
「すみません、女王様――」
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