第234話 女王の部屋

 ――トントントン。


「女王様、ただいま帰りました」

「うむ。一応様子を見ていた。雑務ご苦労だったぞ【3】」

「HPの回復は致しておりません。湯浴みをさせ、見た目は綺麗になっていますが扱いによっては直ぐに死んでしまいますのでご注意を」

「しばらくは反抗的な態度をとるやもしれんから、HPの回復は出来んか……。まぁよい、最初は優しく遊んでやるとしよう。【3】よ、もう下がってよいぞ」

「はい、失礼致します」


 ――バタン。


 【3】のシードンの手から女王の手に渡った俺。


 力強く抱えられた体は扉の奥へと運ばれ、1歩また1歩と女王が進むにつれて緊張からなのか汗が零れる。


「――ふふふ、そこで大人しくしておれ。私も準備をしてくるからの」


 辿り着いたのは絵本に出てくるお姫様が住んでいるような豪華絢爛な部屋。


 ベッドはキングサイズ以上、明かりはシャンデリア、ゴミ1つない真っ赤な絨毯、食事用の小さ目なテーブルとイス。


 無駄な雑貨はなく、豪華だが生活感の無い空間。

 【2】の用意した食事が乗せられていたと思われる食器はあるが、綺麗にされていてオブジェにすら見える。


「あれは……?」


 食器の横に置かれたていたのはスマホ?


 俺はそっとそれを持ち上げる。

 画面の大きさとか、重さから少し前の型だという事が分かる。

 きっと、ここに閉じ込められていた人間が持っていたものなんだろう。


「あ、ついた」


 電源ボタンを押すと、スマホの画面が光って起動し始めた。


 充電のパーセンテージは10パーセント。


 充電の穴に何かを差し込んでいるようだが、俺の知ってる充電器ではない。


 多分電気のない代わりに、この何かでスマホを生かしているのだろう。


「……まだ来ないだろうし、ちょっと見ちゃうか」


 俺はメールやSNSアプリを確認する。


 するとそこには未読のメッセージが沢山……でも殆どが借金の返済の催促。

 

 スマホの持ち主だった人間は相当金に苦しんでいたみたいだな。

 親、兄弟、友達、そんな間からもそんなメッセージばかりで心配されている様子は一切ない。


「メロウを捕まえて売ろうとしてた奴なんだもんな。そりゃあ人間としてちょっと問題はあるし、見放されるか。お、画像も結構残って――」


 画像のフォルダを開くと、大容量の動画や画像、しかもこれはここで撮られた……暴行の数々。


 男性が地面に頭を付けて許しを請う様子や、見ているだけで背筋に寒気が走るものまで。


 なるほど、女王様はその立場通りそういった性癖をお持ちか……。


「――あらあらあら、勝手に人のものを触るなんて悪い子。これはお仕置きが必要だね」


 いつの間にか背後に迫っていた女王は俺の肩に頭を乗せると、ふっと耳に息を吹きかけ嬉しそうに語りかけてきた。


 このまま無抵抗なら間違いなく……。


 そもそも女王が俺をここに招いた理由からこうなるのは分かっていた。


 だから俺はそれ用の作戦、というか抜け道のようなものも考え、ある1つの可能性を導き出していた。


 女王の一言『この匂いは人間か』。


 これは嗅覚が異常に発達しているというより、嗅覚で判断しなければならない程、他の五感が鈍っているという事を現すと考えられ、それなら今までよりもより俺に似ている分身を作れば、何とか乗り切れる可能性がある。


 スキルポイントは既に振ってある。

 ここにはいるのは女王だけ。こいつさえ騙せればここが安置にさえなり、監視能力を攻略する糸口も見つけられるかもしれない。


「ほら、服を脱いで自分からベッドに行きなさい。これがあなたにする初めての命令、出来なかったらどうなるか分かるな?」

「『贋物』」


 俺は服を脱ぐと、小声でスキルを発動させるのだった。


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