第223話 分かっちゃった

「ぐっ!はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」

「え……」

「足りないか?だったら腕ごと――」


俺はジャマダハルの刃を左腕目掛けて振り下ろした。

すると、それを阻止する様にメアが俺の身体に抱きついてきた。


「バカ。簡単に身を削る輝明は本当にバカ。でもここまでされてやっと夢を払えた自分は……もっとバカ」


メアの瞳から涙が零れた。

夢……多分過去の自分の映像、とりわけもう目覚めたく無くなるようなものでも見せられていたのだろう。

それを俺が刺激して、夢と現実が混濁して……。


今ようやくメアは夢の部分を拭えたってとこか。


「ごめんなさい。私、捕まっちゃって……」

「助けてくれ様としたんだろ?別に謝らなくてもいいって」

「でも指……」

「ポーションで傷は塞がるから。だから泣くなって」

「自分が情けなくて泣いてるだけなら、それだけならすぐ引っ込むんだけど……。改めて色々分かっちゃって……。輝明の……、それに対する自分の気持ちも……」


メアはぎゅっとその腕の力を強めて来た。


今のメアの気持ちは良く分からないけど、この状態は都合がいい。


「そのまましっかり掴まってろ」

「え?このままで抱きついてていいの?だって輝明には――」

「『瞬脚』」

「ちょ、ええええええっ!」


 俺はメアの言葉を遮って『瞬脚』を発動させると、出口の穴まで急いだ。

 

 穴は段々と縮まり今にも閉じてしまいそう。

 頼む間に合ってくれ、頑張れトゲくん。


「と、どいたっ!」

 

 なんとか穴が閉まる前に俺とメアは元の場所に戻ってくる事が出来た。

 だが……


「トゲくんっ!」

「が、あ……」

「あーあ、戻ってきちゃったか。これもお前が邪魔してくれたからだ、ぞっ!」


 【4】のシードントゲくんと自分を繋ぐ氷を割り、そのままトゲくんの顔を殴った。

 

 トゲくんを包む氷はバラバラと落ち、その後追う様にしてトゲくんも地面に倒れる。

 

 息はあるようだけど、足止めに力を使いすぎた事もあって、今の一撃も耐えれなかったのだろう。


「トゲくんっ!」


 メアは慌ててトゲくんの元に近寄ると、唄によってHPを譲渡させ始めた。


「僕、今のでかちーんときちゃったなぁ。結構痛かったし……。本気で殺してもいい?」


【4】のシードンは両手を合わせてそれを引っ張った。


 すると、黒い何かがゆっくりと餅のように伸びてうねる。

 

 あれが何か分からないが、触れられたらヤバい。


「これで君達の身体を部位ごとに空間移動させてあげ――」


【4】のシードンが説明混じりに攻撃の開始を宣言しようとすると、別れ道の奥から唄が聞こえてきた。


「みんなにも私の唄が届いたみたいね」

「唄ねぇ。だからどうしたっていうの?僕にはそれは効かないよ」

「それは小規模でパートが足りなかったから……。私達の完璧な合唱はあんた程度に無効化されないわ」

 

 唄は次第に大きくなり、それに合わせてメアも声のボリュームを上げた。

 

 部屋全体に響く美しいハーモニー。

 

 しかし、それとは対称的に【4】のシードンの顔には曇りと焦りが見え始めたのだった。

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