第222話 デジャヴ

「暗い……。おいっ!メアっ!」


穴の先は暗く、どこまでも先が続いているように感じ、地面はコンクリートに近い固さで、歩く度にコツコツと音を立てる。


それ以外の音は全く聞こえない。

それの所為か、お化け屋敷に似た恐ろしさがある。


「――いた」


発動させていた『透視』のお陰でメア自身は遠くから確認出来ないものの、その急所となる点だけは確認出来た。


スキルレベルが上がったからか、周りの色、暗さに合わせて薄く光ってくれている。


「おい、大丈夫か?」

「……」


 点に近づくと、そこには横たわるメアの姿があった。

 意識が無いようで、俺が声を掛けても一向に返事を返してくれない。


 俺の様に無理矢理入った場合と【4】のシードンに引き込まれた場合の仕様はまるで違うらしい。


 とにかくトゲくんがあいつを止められている時間には限りがある。

 1秒でも早くメアをここから連れ出さないと。


「勝手に触るけど許してくれよ」


 呼び掛けても起きる様子はないので俺は仕方なくメアの手をとり、抱き上げようとした。


「う、い、や」

「え?」


 するとメアは俺の手を振りほどいて、抵抗して見せたのだ。


「みんな、私、やったよ。1人前になってセレネ様に認められて……。人間の男とだってこうやって、戦える」

「くっ、メア何を……」


 メアはその尾を振り、俺の身体を突き飛ばした。


 そして、口元に手を当てると投げキッスの要領で水色のハートを飛ばす。


 確かこれは攻撃スキル。

 何を見させられているのかは分からないが、今のメアは俺を敵として認知してしまっているらしい。


「メア止めろ! 俺だ、輝明だ!」

「……」


 メアの攻撃をかわしながら大声で呼び掛けるが、もはや返事は返ってこない。


「『瞬脚』」

「『磁力空気泡』」


 思いきって距離を詰めようとすると、メアは俺をシャボンの中に閉じ込めて動きを封じさせようとした。


 シャボンは前に触った時とは違い簡単に破けないし、出る事も出来ない。


 だが点は見える。


 俺はシャボンにある点をジャマダハルで突いて、割って見せると一気にメアの身体に腕を回した。


 嫌がられている様だし、こんな事をするのは躊躇いがある。

 けど、ここでメアに気を使いながら、しかも襲って来ない様に無力化してやる余裕も時間もない。


「は、なせ、人間、殺、す」

「俺はそんな事しないっ!」

「信じない。信じない信じない信じない、人間は性欲でしか私達を見ない。お母さんもそれで……」

「しないよ。俺は」

「そんな嘘、人間は――」

「俺には、自分の命を懸けてでも助けたい女の人がいて……なんというか、多分その人が好きなんだと思う」

「命を懸けて、ね。安っぽい言葉。どうせ本当にそんな状況になったら何も出来ないくせに」

「そんな事はないさ」

「だったら証明して見せて。どうせ、人間なんかにそれなりの行動は出来な――」


 はぁ。何かメロウの集落に着いた時を思い出すな。


 仕方ない。


 俺は一呼吸するとメアの言葉を待たずして、ジャマダハルで自分の左の小指を切り落として見せたのだった。

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