第217話 胸糞
「メア、大丈夫か?」
「問題ないわ!」
メア達に目を向けると、トゲくんの背に乗ったメアと床に突っ伏す数匹のシードンが居た。
こちらのシードン達もその目を潰され、首輪をかけられている。
異様に痩せ細っているその身体からは、腹の音が漏れ、空腹状態を表している。
外の奴ら同様に飢餓状態に陥っているのだろう。
「ぶも、ぶもおおおおっ!」
「トゲくんっ!」
「がぁっ!」
だらだらとよだれを垂らしながら再び動き始めたシードン達に今度はトゲくんは氷の息を吹き掛けた。
腹が減りすぎて攻撃を避けるとか身を守るとか、そういった仕草のないシードン達はこれに動じる事なく俺達に向かってくるが、それも虚しくあっという間に氷の石像状態に。
敵だが少しだけ可哀想な気もするな。
「ふぅ。それにしても何、このシードン達」
「飼い慣らされてる。きっとここの頭のシードンが餌を使ってこいつらを使役してるんだろ。飼い犬、いやそれ以下の扱いだけど」
「だとしても目を潰すなんて……」
「多分あの閃光が効かない様にする為。こいつらが俺達の位置を特定して急襲して来れたのは多分匂い」
「匂い?」
「目を潰された事と空腹状態で肉の匂いに敏感になっていて、それで肉の匂いがした俺達に飛び掛かってきた。残念ながら食欲が高まり過ぎて不意打ち一発が舌で舐めてきたりとかあんな情けないものになってしまっていたけど」
「凝った罠。それでいて胸くそ悪い」
メアは蔑む様な目で凍ったシードンを見て、その言葉を吐いた。
確かにこれなら私欲にまみれて戦闘に身を投じていたさっきの【5】のシードンの方がいくらかましだ。
「とにかく先を急ぎましょう。上と下があるけど偉い奴はきっと上よね?」
「多分。でも檻があるのは地下っていう相場が」
「そうなの?だったら地下に行きましょう。少しでも早く解放してあげたいし、戦力になってくれるかも」
メアは俺の言葉を聞くと正面に見えた登り階段をを無視して脇にあった下り階段へ駆ける。
「――わっ!」
「大丈夫か?暗いから足元には気を付けろよ」
早速階段を下ろうとトゲくんから降りて階段を数段下ったメアが急に脚をとられて身体をよろけさせた。
さっきまでいた、場所と比べてここは遠くに壁掛けの灯りが見えるだけで足元が暗いのは分かるが少し焦りすぎかもな……。
「ええ。でも、これ」
メアは前屈するように上体を地面に運ぶと指で何かを拭き取った。
「……血か」
「ええ。メロウの血は固まりにくいからこうやって残るのよ」
「ていう事は」
「地下に檻で当たりみたいね。1人、或いは複数人のものか、それは分からないけど、この出血の量を見るとかなりのダメージを負っているはず……急ぎましょう」
声色は冷静だったがその顔は逆。
血が滲みそうな程強く握られたメアのその拳にはありったけの怒りが込められていたのだった。
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